139 二つ目の棺桶
ルナスが自身の体の変化を即座に感じて喜びの声を上げる。
そりゃあそうだ。
おそらくだが、俺とクマールの両方から勇者の怒りの効果を得られるだろうし。
トントンとクマールに死んだフリを解除するように棺桶を軽く叩いて起こす。
「ヌマ……マー」
ファーストスキルの死んだフリの感覚はまだ馴れないのかクマールはちょっとボケっとした感じで棺桶が消えて顔を上げる。
「素晴らしい。クマールがついに私を覚醒させられる程の死んだフリの極地に至ったという事だな」
「で、リエルはクマールが所持して居るファーストスキルの把握と同じ感覚になったって事だね」
「そういう事になる」
「ヌマ!」
「ものすごく限定的過ぎて他のスキルに酷く左右される。確かフォーススキルに開花した過去の冒険者にもいたはずな位のハズレ……」
この事例の場合はセカンドスキルだったはず。
ただ、フォーススキルに神聖剣を習得して、サードスキルに神聖剣を持った仲間達と連携して名を残したって話だった覚えがある。
何せ大事なスキル枠の一つが埋まってしまい、実質二つのスキルで運用しないといけない様になる。
同じスキル構成で且つ自身のサードスキルをファーストスキルに持ち、ファーストスキルをサードスキルに持つ人を見つけないと上手く運用出来ないんだ。
この過去の冒険者の場合、神聖剣という強力なスキルがあったから条件を揃える事で強力になった。
多くの場合、戦士とか兵士の様な、戦力を揃える場合に効果を発揮するんだ。
逆にパーティーに一人居れば良い様なスキル構成でスキルスタックになった場合……ハズレスキル扱いとなる。
そして一般的に俺とクマールの現在のスキル構成は……。
「だが、私達からすると非常に有用な大当たりスキルであるぞ! 何せ死んだフリ要員が増えるのだ」
「そうだね! 僕もこれで操れるゾンビが増えるよ!」
つまり、そういう事である。
この二人にとって最も喜ばしい展開になってしまったな。
「……クマール、俺やこの二人の事は気にしないで良いからな?」
クマールに同情の感情が湧いてくる。
だってやっとの事開花したフォーススキルがスキルスタックだぞ?
幾らフォーススキル、ファーストスキル相当の力を持つ枠とはいえ、把握を同じ把握持ちにファーストスキル相当を与えるスキルでしか無いんだし。
元々の構成が影響を受けるに過ぎない。
かなり限定的なスキルなのは間違い無い。
確かに把握持ちは探せばそこそこいるだろうけど……それでも器用貧乏の把握なんだ。
なんて言うんだろうな……スキルの効果を引き上げる魔法とかアクセサリーに近い扱いとなってしまう。
「ヌマヌマ!」
ぶんぶんとクマールは拒否するとばかりに頭を横に振ってから俺に、死んだフリがファーストスキルだと知った時のような尊敬の眼差しを向けてくれる。
不思議とクマールが言いたい気持ちが俺にも伝わってくる。