127 残留思念
「少々タフだな」
「魔法防御が高いんだろうね」
死んだフリを解除して俺は立ち上がる。
「40階層まで行ける勇者からするとここが難所らしい。その分、修行に向いた場所らしいけど……剣術とかを磨くには良いそうだ」
「ふっ……私にはそんな事は不要だ」
まあ四倍速で動ける訳だし、この階層の悪霊達にどれだけ技術があったとしても手に負えないだろう。
経験者は最低限の動きで対処とか出来るんだろうけどさ。
ドラークとかが良い例だろう。
ルナスの攻撃を何度か耐えていたし……どの道、レイブレード4連撃で大抵の奴らはおだぶつか……。
「まあ34階まで細かく回った挙げ句、遭遇する魔物を全部倒してきた訳で……単純に相当強い状態だしね。そもそも剣術に関してもルナスさんってそれなりに腕は立つみたいだしね」
なんだかんだルナスは勇者な訳で剣の腕前は中々の物だ。
「私より腕が立つ悪霊がいるのなら見てみたい物だな! リエルのいる私は最強だぞ?」
間違ってはいない訳だけど単純に技術が上の相手がいたら怖い所だ。
自分よりも強い敵に打ち勝つ為の技術が武術の神髄らしいからな。
「まあ、行ける所まで行こうよ。それとも足早に次の階層へ行くかい? リエルってあんまりこういうの好みそうにないでしょ?」
「降りかかる火の粉を払い除ける事に関しては特になんとも思わないな。まあ、殺人を繰り返しているみたいで良い気にはならないだろうけど」
「では早めに先に向かうか。私達の目的はジュエルドラゴンの討伐なのだ」
確かに……この階層は早めに抜けて行った方が良いかもしれない。
色々な意味でリスクが高そうだしな。
「大分34階で時間を潰しちゃったからなー……ここより36階の方が野宿はしやすいかもね」
36階のジュエルドラゴンの生息する階層は山脈型の迷宮で、場所によっては熱いけど水源もあるらしい。
「ヌマー!」
クマールが野宿の話をした所で涎を垂らして目をキラキラさせる。
ご飯が待ち遠しいといったような顔付きだ。
クマールのそんな無邪気な所が俺達からすると癒しだな。
正気を保っていられそう。
うん。人の姿を保った悪霊を倒して回るよりも足早に行った方が良いかもしれない。
「賛成だ」
「そういえばこの階層の依頼もあった気がするが、ここのヌシは何なのだ?」
「チェレス=ムーブモルトって言う伝説の魔法使いに似た悪霊というか残留思念? 数年に一度出現するらしい」
「ほう……運が良ければ会えるのだな」
「青白い気を纏っている厄介な悪霊らしいね。居たら空気がヒリつくんだって。ただ……いないんじゃないかな?」




