121 不幸な境遇
なんでそこを強調するのかね。
「あったらあったで便利だから良いと思うけどな。正直、まだ開花した訳じゃないんだから考えを巡らせる必要なんて無いだろ」
「その通りではあるが……少年、フォーススキルは開花する法則などはないのかね?」
「そう言った話をする人はいるね。長年冒険をした冒険者がそれまでどんな努力をしたかで開花するフォーススキルが選ばれるんじゃないかって説があるけど」
ああ、開花した人の手記や研究者がまとめた資料を基に作られた物語とかを俺も読んだ事はある。
努力の結果、強靱なスキルが目覚めるのは物語の王道だからな。
フォーススキルとはその努力が実る瞬間だって認識でもある。
「私の読んだ物語や見た演劇だと、本人の努力に合わせたスキルが開花して窮地を乗り越えるな」
「世間一般だとそうだよね。後、開花した人の運命とかが関わっている昔話もあるよね」
確かにあるな。
まあ運命って言っても大抵は不幸な境遇の事だけどさ。
「有名な奴だとルナスの勇者の怒りだろ?」
「大切な人々を失い続けた人生……運命の果てに邪神を倒した伝説の大勇者の話だな。私も見た事があるぞ」
まあかなり有名だし、物語としての面白さはあるよな。
「仲間達から守られてきた聖人が最後の最後に勇者の怒りに開花して邪神を倒したって奴? あれって実話なのかな? さすがにヒロイック過ぎない?」
おい、聖職者。
教会所属のお前がその言動は危ないぞ。
勇者の怒りで一番有名な話だろう。
……実際、ちょっと出来過ぎな話ではあるけどさ。
「それでリエル、実際はどうな訳? その辺りの資料……リエルこそ見てそうだけど」
ハズレスキルを授かった者が夢に願う奇跡のスキルなんだからその辺りは教わる。
そうでも言わないと世を悲観して生きるのもつらいだろう。
「ルナス達の知る説が主流なのは間違い無いんだけど、実際に開花した例を聞くと判断に悩む所だ」
速読という書物を早く読めるスキルを授かったけれど魔法に類するスキルが無かったハズレスキル持ちが、そのスキルで読書を趣味にしながら日々仲間達と冒険をしていたらしい。
その人は速読というスキルの性質上、成長するにつれて知識に恵まれた。
自然とその知識を生かし参謀役になっていたらしいがフォーススキルに開花した所、剛力という怪力になるスキルを授かったとか。
当然、戦士に転向して雄々しく戦ったそうだけど……。
波乗りという限られた状況でしか扱えないハズレスキル所持の人が同様に頑張った結果、開花したのが神聖剣だったとかな。
こっちも勇者になる修行をしていた訳ではなく、他の二つのスキルで自分にあった方法で地道にがんばっていた結果だけど、開花するスキルとはまるで無関係の行動をしていた。
「まあ、がんばった結果、見合ったスキルが開花するって考えは良いと思うけどな。その場合、俺はどんなスキルを授かるんだろうな」




