12 棺桶
「やはり私の思った通り、初手から君が死んだフリをしていると非常に戦いやすい」
こりゃあルナスの言った事を信じないといけなさそうだ。
何せあのグレーターデーモンが絶命しているのだから。
少なくとも今まではグレーターデーモンはルナスとマシュア達がどうにかがんばって勝てる魔物なんだ。
傷一つ無く勝てる相手じゃない。
戦闘後にはしっかりと手当が必要になる強力な相手なのに……ルナスはかすり傷すらないぞ。
あ、しっかりと経験値が入っている。
俺達は魔物を倒すとその魔物が内包していた魔素が体に染みこみ、力をつける。
Lvと呼ばれる概念が存在し、魔素を……どこの誰が呼んだか知らないが経験値という名称で親しまれている。
しっかりと俺にも経験値が入っているのだからルナスがグレーターデーモンを倒したのは揺るぎようがない事実という事になった。
「さて、魔石とツノを採取して次に行こうじゃないか。どうかね? 君と私の力は」
「す、すごいですね」
「そんな他人行儀じゃなくて良い。これは君の力でもあるのだから」
そんなこと言われても今まで苦戦していた魔物が3体も同時遭遇して何食わぬ顔して倒している状況を素直に受け入れるのは難しい。
もちろん目の前の光景がコレを真実だと語っているんだけどさ。
それでも信じられない様な事ってあるだろう。
「とりあえずこの辺りで肩慣らしをして……単純にリエルが戦闘に慣れる練習をしようか。ファーストスキルの死んだフリも何度も使っていればドンドン精度やスキル技能が向上するはずだ。まずは死んだフリを強化して行こう」
冒険者になってから聞いた事も無い台詞を聞いてしまったぞ。
どこの世界に死んだフリの技能を向上するために修練をするなんて話があるのだろうか。
何かの冗談であってほしいんだけど、これが俺の戦闘スタイル……か。
「リエル、今一度君の最強スキル、死んだフリと真剣に向き合ってほしい」
咄嗟に嫌だよ、と言いたくなったがそうするべきなんだろう。
なんで死んだフリと真剣に向き合うなんて……いや、やるけどさ。
ルナスのスキル、勇者の怒りと連携した時にこれだけの結果が出てしまってはそうせざるを得ない。
「わかったよ。ただ、無茶はしないでくれよ」
「この程度、君が協力している私ならば無茶の内に入らないさ」
はぁ……どうにもピンと来ないな。
なんて思いながら俺が先頭を歩いて32階層から31階層方面へと進んで行く。
その最中にキメラタイガー、ダイアモンドウルフに遭遇したけれど全部死んだフリをしてルナスが倒して行った。
スキルは使えば使うほど技能が上がる……確かに今までここまで高頻度で死んだフリなど使った事はなかった。
過去の研究者が述べた話だと、格上の魔物を相手にスキルを使うとそれに合わせて成長補正が掛かると聞いた事がある。
そしてここに出現する魔物は……ルナスはともかく、俺からすると相当厳しい相手だ。
接近してくる魔物を把握してから死んだフリを繰り返した事で俺の死んだフリは劇的に成長して行っている事が感覚でわかってしまう。
そうしてルナスに言われた通り死んだフリと向き合った結果、どんな成長をしたかというと……。
「よし! 行くぞ!」
ルナスと打ち合わせをした死んだフリ戦法を開始して6回目の戦闘での事……死んだフリをすると、どうやら俺はその場で倒れ、そこで俺を包み込む棺桶の様なモノが現われる事がわかった。
持っている荷物ごと俺は棺桶に収まっているのだ。




