119 恐ろしく前向き
「少年よ、そう言うな。私に異論は無いぞ。念には念をで行く事はな」
「その理由は?」
「入念にじっくりと攻略していく……つまりそれだけリエルは死んだフリをしてくれるという事だ。急いで強くなるのも良いが、この強さを長く楽しめる。食料はリエルが確保してくれるから滞在期間の制限は無いに等しい。全く問題ないだろう?」
激しくルナスらしい意見だ。
一気に潜って強い魔物を相手にLvアップを図るのと、少しずつ潜って戦闘回数を増やすのだとルナスは後者を選ぶって考えなのだろう。
「なるほど。確かにまだ僕もスキルの熟練度が満足いくまで上がってないもんね。一気に潜る必要性はそこまで無い訳か」
「何より私は強くなる事が目的ではあるが、リエル達はフォーススキルの開花だ。結果さえ得られれば過程を気にする必要は無い」
「あー……確かにリエル達は開花する条件が揃ってるね」
「どんなスキルが開花するか私は楽しみにしている」
ルナスは俺とクマールのフォーススキルを期待している。
それは俺としても重要な事なのは間違い無い。
このままだと俺はシュタインにゾンビとして使われて、バーサーカーとして王宮に認知されてしまいそうだ。
「ハズレスキルを引いたら残念だね。リエルだとあり得そう」
「うるさい」
「たださ、仮にだよ。ハズレスキルを引いたらそれはそれで僕は好奇心が湧いてくるな」
好奇心? なんでだ?
念願のフォーススキルが開花してハズレだったら目も当てられないぞ。
俺が本来、コツコツがんばったとして30代に入ってどうにか開花するって代物だ。
「スキルは有用であるほどフォーススキルが遠のくって言われている訳だけど、僕やルナスさんの開花は無いだろうって話なんだよ? ハズレスキルが4つ、その代価を支払えるだけの経験値を稼いだら……」
「……前人未踏の五つ目、フィフススキルなんて代物が出てくるかもしれんな。そのスキル次第では超人だぞ」
「リエル、それで本でも出版して一儲けしようよ。題して『いつまでも諦めなかったら五つ目のスキルに目覚めちゃいました。仲間になってくださいと言ってもお前ら全員今更遅い』とかどう?」
いや、どんなタイトルだよ。
巷ではそういう単語が流行ってるのか?
「……」
「それは冗談にしてもフィフススキルが実在したなら、資料にまとめて提出するだけでも学者として名が残ると思うよ」
なんて言うか、恐ろしく前向きだ。
あるかどうかすらわからない前人未踏の領域の話をしている自覚はあるのだろうか?
どこまでも実験台にされているのは間違い無いぞ。
ただ、ハズレを引いても諦めるなって言いたいのかも知れない。




