114 人見知り
「なあルナス」
「何かね?」
「マシュア達が居た頃は食べながら何処か遠くを見ている感じだったけど、アレって何だったの?」
「ああ、アレは言いたい事を我慢して外に意識を向けつつ、どう君に声を掛けたら好みの味を出してもらえるかと考えていたのだ」
……なんだろう。
黙って遠くを見ている姿がカッコいいなーって思っていたけど、その実、食べたい料理を考えていたと知ると微妙な気持ちになる。
今だとルナスらしいなぁと思うけど、あの頃に思っていたルナスはやっぱり幻想だったんだな。
「ルナスさんって黙ってると人気出そうだもんね」
「なんだ? 私が喋るのがそんなに悪いか?」
「締まりがないというか、残念な感じなのは否定できない」
「くっ……リエル、私のどこが残念なのだ」
歯に衣着せない本音で喋ると欲望優先で素直すぎる所かと思うけど……どうしたら通じるかな。
正直、それが悪い訳でもないので言葉にするのが難しい。
「時々凄くカッコいいからルナスは今のままで良いんだと思うぞ?」
「ふふ、私は時々ではなくいつもカッコ良いぞ。残念では無い」
その発言が駄目なんだって言いたいけど言うだけ無駄な気がする。
「ルナスさんの勇者見習い時代の情報だと暗い癖に素直過ぎる。リエルや他の者達と組まされた後は淡泊な人格って評価が出てるね」
暗い……まあ、見知らぬ相手だと割と黙り込む方なのは今までの事から分かる。
演技染みた感じで喋る所もあるし……演劇が趣味なのは登場人物になりきって喋ろうとしてるのかな?
なんか依頼で行ったオーガ退治の時は避難させる村人にずっと「逃げるんだー!」としか言わなかったし。
「私は人見知りをするのだ」
「堂々と言う事じゃないねー」
「ヌマ?」
そんな誇らしげに言うのはどうなんだろうか。
シュタインが男かどうかを遠慮も無く確認してたし、ルナスの乙女な部分はどこにあるんだろうか。
ああ……残念なのはそういう所もあるよな。
「シュタイン相手にはあんまり人見知りしてないな」
「それは少年と私は似た空気を纏っているのがわかるのだ」
腹黒な所で気が合うのがわかったって事か?
この二人に結託されると非常に迷惑なんだけど……。
「何枚もの建前で自身を隠すその態度、私も同じなのでわかるぞ」
「そこは僕もなんとなくわかるけどルナスさんとは色々と違うと思うけどなー」
「まあシュタインの方が現金なのは間違い無い」
自分に利益があると平気で仲間を売るようなタイプなのは間違い無い。
……ルナスもある意味そうなのか?
マシュア達が俺を捨てようとしたのを怒ったのはルナスに利益があるからだし。
ただ……シュタインとルナスの違いは、ルナスは思っていても実行に移さず仲間への親愛はしっかりと持っていた所か。
先に裏切ったのはマシュア達だ。
これ幸いにルナスは便乗したに過ぎない。
もしも……俺の死んだフリがルナスに利益にならなかったらあの時、どうなっていただろう?
「私は義を重んじるぞ? 勇者のなんたるかをわからぬ愚か者ではないのでな」




