11 心機一転
「さしあたってこれからどうするかね?」
どうすると言われてもな……荷物の半分は一応マシュア達に置いて出て行ったし、無難な所で二人じゃ危険な階層から出てどうにか出来る所までいくのが無難か。
「安全な階層まで戻るのが無難かなぁ?」
「その質問だが、安全とはどこまでの範囲かによるな。リエルが安全に戦える階層か、はたまた私が居れば安全な階層であるか。後者であるならおそらく、この階層も安全だと私は判断している」
いやいや、4人……実質3人でやっと戦えるこの階層、ミットロハール大迷宮の32階を安全とか何を言っているんだ。
幾ら勇者の怒りが俺の死んだフリで作動すると言ったって限度があるだろう。
と、答える前に魔物の接近を感知する。
「その表情、魔物か……ちょうど良い、心機一転した私達の戦いをやってみようじゃないか」
「そんな自信満々に言われてもね」
「騙されたと思って君は魔物と遭遇すると同時に死んだフリをしていてくれれば良い。すぐに終わらせる」
「はぁ……」
っと、俺は通路の先を指さす。
「気配から判断して3体、遭遇経験から考えてグレーターデーモンだ」
悪魔系の魔物の中でも高位に位置する厄介な魔物だ。
屈強な漆黒の体躯に凶悪なツノ、炎の息を吐き、無数の魔法を使いつつコウモリに酷似した悪魔の羽を持つ。
マシュアが魔法属性で相性が良いからどうにか戦えている相手で、少なくとも俺一人では手も足も出ない。
「罠は無いんだね?」
「ああ……ここに居たら30秒もすればこっちに気付く」
「ではこちらから先制するとしようじゃないか。リエル、死んだフリを頼む」
……本当に大丈夫なのか?
俺の死んだフリは一度使うと周囲の敵の気配が無くなるまでしばらく、文字通り動けなくなるんだぞ?
気づいたら魔物に囲まれて居て死ぬなんて勘弁してほしいんだけど……。
「さあ! 私を目覚めさせてくれ」
「わかったよ」
死んだフリ! っと俺は意識してファーストスキルを作動させる。
フッと意識が遠ざかり、闇へと落ちていく。
一応把握で僅かに気配を察する事が出来るけれど……。
ドンドン! っと闇の中でも激しい音が響き渡るのを感じる。
「リエル、リエル、終わったぞ。おーい」
「ん……」
死んだフリが解除されたので体を起こして周囲を確認する。
するとルナスが傷一つ無く立って居て俺が立ちやすいように手を差し伸べていた。
その後方では魔法によって黒焦げにされているグレーターデーモンの死体が三つほど転がっていた。




