105 悲しい視線
「それと生き物って普段は頭で力を制御しているんだ。戦士系のスキルを授かる人はそのセーブする力を解除するスキルで戦ったりするよね」
「うむ、基礎のスキルであるな。私の勇者の怒りはそれを超えた奇跡の類いであるがな」
「うん。ゾンビってのはその制御を術者が解除して攻撃出来るからリエルの攻撃は戦士系の強打スキルと同等になるよ。後はブラッドクローとかポイズンクローとか技が出せたりするかな?」
いや、そんな通常攻撃が戦士の強打であるみたいな事言われても嬉しくない。
特殊攻撃も俺の体で出来るのか?
シュタインの墓守のスキル内で掛ける加護みたいなモノだろう。
「元に戻った時に身体に負荷が掛かるとか思ったけど……」
俺は自身の状態を把握する。
死んだフリをする前と肉体的な変わりはない。
経験値はしっかりと入っているけどな。
「そこは死んだ直後の無敵状態なんだから負荷なんて掛からないよ。それが切れた状態で戦わせ続けるとどんどん消耗するんだし」
シュタインってやっぱり死んだ直後の人間を操作した事あるんだな。
「単純に質問なんだが、死霊術は君が一体一体操作するのかね?」
「そう言った操作もできるけど自動で狙った相手と戦わせる事も出来るよ。ある程度、設定した動作を繰り返すとかもね」
とにかく、どうやら俺の場合は死んだフリ状態は無敵と言える位、頑丈でダメージは受けないし体の負荷は掛からないと。
「ヌマ……」
クマールが俺をこんな可哀そうな人見たことが無いって顔で見つめてくる。
そんな目で見ないでくれ。
俺も虚しい気がするのはわかってるから。
「実験は成功だね」
「そのようだ。では次の戦闘は私と一緒だな」
「この階層だとルナスの魔法で一発だろ」
「そこは君との共闘も兼ねているのさ」
「ちなみにね。ふふ、たぶんゾンビリエルにはターンアンデッドは効果が無いのが感覚でわかるよ。他にも起動させた術者の言う事しか聞かない感じだね。うん、良く動いてくれるし、魔力効率が良くて最高だね!」
ゾンビ系を元の骸に変えるプリーストが使う事の出来る対アンデッド魔法だ。
よく考えたらそういうリスクもあったのか。
……死んだフリしている、実際は死んでいないゾンビには掛からないと。
しかし、ルナスもそうだが、コイツ等の倫理観はどうなってやがる。
人の身体で魔力効率とか良識ある人間の発想じゃないぞ。
「死んだフリをしている生者だからか、それとも死んだ直後の死体判定なのか?」
「無敵のフレッシュなゾンビでもターンアンデッドは効果があるんだよね。だけどリエルのは掛かる気がしなかったよ。なんて言うか……死霊術が使える身からすると感動すら覚えるよ」
視線は目元が隠れていてよく分からんがシュタインの頬が高揚しているのがわかる。
興奮してるのは間違い無い。
勇者の怒り戦法を始めたばかりの頃のルナスみたいな表情だな。
「僕の墓守ってスキルもまだ発展途上でね。熟練度を上げていけばもっとリエルを強化出来ると思うよ」
俺を強化ってこれ以上どんな強化をされてしまうんだよ。
色々と怖い気がしてならない。
クマールの視線が凄く悲しい。