103 棺桶、開く
「何? どういう事だ」
「大事な事だと嘘は言わないけど本当の事も言わないのがコイツなんだよ。昔からな」
だから何か他に真実がある。
この辺りは昔から変わらないな。
「結果は変わらないよ。とりあえずルナスさんが完全白でリエルが居たから強いってわかったからね。そこを報告すれば命令もひっくり返せるさ。僕も勝てない相手に挑む程愚かじゃないよ」
シュタインなりの手の内を開けたって事で納得しよう。
まあ相手がルナスじゃ割に合わないよな。
「はぁ……ルナスと同じだな。失敗したら素直に帰れよ」
「もちろんさ」
ルナスも俺の死んだフリはかけがえの無いスキルだと言って今に至る。
俺に期待してくれるならある程度は寛大に受け入れた方が良いだろう。
無能と罵られるより遙かにマシだし、場合によっては俺の事を擁護してくれる。
「良いのだな? リエル」
ルナスが念入りに俺に尋ねる。
「この先の戦いは厳しくなる。クマールにも危険が及ぶ可能性だって出てくるから少しはな」
「ヌマ……」
クマールを撫でる。
実際二人と一匹では色んな意味で厳しい可能性があるのも事実だからな。
あんなだけどマシュアやルセンがいるだけで選択の幅は多くなっていたのは事実だし。
「それじゃ早速やってみよう!」
という訳で俺達は28階を進んで行き、魔物と遭遇する。
出てきたのはガーゴイルが二体……実験をするには良い獲物か。
「よしリエル! 死んだフリだ!」
ルナスが相変わらずテンション高めで提案してきた。
「ルナスは今回戦闘しないで見るだけだろ」
「うむ……そうだが君が何かあった時はいち早く動くぞ」
心配しているのはわかるけどさ。
それに戦わないだけで勇者の怒りは発動するしな。
「わかってるって。じゃあシュタイン」
「準備は万端だよ」
「それじゃ……」
俺は死んだフリを発動させると俺の周囲にいつも通り棺桶が生成される。
もちろんその光景を俺は幽体離脱状態で見た。
「よーし、ネクロマンシー」
シュタインがサッと手を上げると……ガタガタと俺の入った棺桶が揺れ、バタンと蓋が開いて俺が起き上がった。
俺じゃない俺の身体がな。
「……」
半眼の赤く怪しく光る眼の俺がな……クソ、出来てしまった。
俺の死んだフリはどうなってやがるんだ。
何故本当に死んでいる扱いになっている。
「よし、成功した! 行け! リエル!」
シュタインの命令に従って俺の体がガーゴイルへと向かって全力疾走をし始める。
「……ぉおおおおおおお!」
は、早い!
俺の身体なのに普段の俺の倍以上の速度でガーゴイルに向かって殴りかかったぞ。
バキャ! っといい音が響き、ガーゴイルが俺の拳によって頭にヒビが入る。
いや……単純に殴るだけでここまでってルナスじゃないんだからそこまでの攻撃力を俺は持ってないぞ。
しかも次の動作で腹まで殴っていた。