10 最高の仲間
こんな事を言ってしまう様な何かが、彼女の過去にあったんだろう。
ルナスもきっと、俺と同じ様な経験があるんだ。
やっと手に入れた強さを手放したくない程の、そんなつらい経験が。
「どうかな? 私は分の悪い賭けはしない方だよ」
この話をもしも、もっと前にしてくれていたらどうなっていただろうか?
何かが変わっただろうか?
いや、マシュアやルセンの本性を考えるに、何か問題が起こっただろう。
例えば、俺が死んだフリをしていたとしても勝てない位凶悪な敵と遭遇した時、『もっとパワーアップする為に私達に死ねって言うはずよ!』とかマシュア達なら騒いだとしても不思議じゃない。
そうでなくても仲間が死んでいる時に発動する、という情報は広めるべきじゃない。
そういう意味では隠していて正解だったのかもしれないな。
これもある意味、勇者とやらの勘という奴だろうか。
なら、俺を庇ってくれた彼女を信じるしかないだろう。
「……そうみたいだな」
負けたよ。
本当、勇者様は強いな。
まあ、そもそもな話、こんな所で別れたらお互い生きて迷宮から出られないのは確実だ。
勇者の怒りが発動していない状態では、さすがのルナスも一人でこの迷宮の階層から帰るのは厳しいはずだ。
つまり俺達に選択肢なんてなかったんだ。
「わかった。これから一緒にやっていこう」
「よし! 私と君は最高の仲間だ!」
どの口がって思わないでもないが、そういう事らしい。
スキルの相性が良かったが故の団結って事だな。
まさかあのゴミスキルの死んだフリにこんな力が隠されているとは……。
「けど、身体とか言うのはもうやめてくれよ」
さすがに勘弁してほしい。
いくら腹を割った話をしてルナスの秘密を知ったとはいえ、仲間をそういう風に見たくはなかった。
それにどんな理由があるにせよ、ルナスは俺を庇ってくれたんだ。
勇者ルナスに対して無償の尊敬を抱く事はもう出来ないかもしれないが、それでもその一線だけは超えたくない。
そこを超えてしまったら、俺はどこまでも堕ちていくクズになってしまうからな。
「なんだと? おい、リエル、こう見えて私は自分の身体には自信があるんだ」
何故か食い付いてきた。
この人がそういうモノに詳しくない事がこれだけでわかってしまう。
確かに自信を持てる位の美人だけどさ。
「いや、そういう意味じゃないんで……そこは本気で勘弁してくれ」
「ふむ……まあ君がこれからも私と一緒に居てくれるならばそれでいいが……だが、この件に関して、いずれ誤解を解く事を忘れないでくれたまえ。私は君の事を気に入ってるし尊敬もしている。みんなを支えて居てくれたのだからね」
「そう言ってもらえるのは嬉しいよ」
「我々のパーティーの構成上、私の次に負傷するのが君なのも事実だ。彼等は後衛だからね。君が庇っていた事だって多かっただろう」
まあ、その通りだ。
実際、理想的なパーティーを考えれば俺を抜いて戦士とか騎士とか、そういう人を入れた方が安定するのも事実だ。
きっとマシュアもそういうプランだったんだと思う。
けれど、罠の探知や鍵開けが出来る人が居なくなってしまう……この辺りはパーティーを増員する予定だったのかもしれない。
「今日までの君の努力、私よりもつらい境遇を耐えてきたのだから、私は……君がこれ以上酷い仕打ちを受けるのが我慢できないんだ。これからは私の強さは君の強さでもある、と考えてほしい」
この言葉もきっと彼女の本心だ。
……俺はルナスの秘密を知ってしまったのだ。
これからどうなるかなんてわからない。
けれど……。
もしかしたら俺達はほんの少しだけわかり合えたのかもしれない。




