第008話 クロックアップ
一時間ほど歩いたところで遠目に廃墟が見えてきた頃、空は白み始めていた。パーティーは近くの茂みに身を隠し装備を整えていた。
着ていた服を脱いでエクセルスーツになると、黒かったエクセルスーツは徐々に白色へと変色し始めていた。周囲の明るさに応じて変わる特殊な素材でできているからだ。
シアは背中に二本の小太刀を担ぎ、カイルは組み立て式のショートスピアを回す。自分も改めて佩剣すると高揚感が出てくる。
「さて、じゃあ確認しよう。まず正面から進んで入り口付近にいる奴らを無力化する。その後、カイルは一人で敵戦力を削りつつ出口を確保しておく。その間、俺とシア、フレイヤは廃墟の内部へ潜入する。そして敵の主力を叩いた後、フローラたちを解放し脱出する。フレイヤは基本的に俺の近くをついてきてくれ。作戦とも言えないただの正面突破だが、たまにはこういうのも良いだろう。質問はあるか?」
そう言って、シアとカイルを窺うがいつも通り反応はなく、フレイヤは小さく頷いた。
「では、シンクロナイズド・ハーモニック・システム起動。これより連携は全て通信とする」
片目を瞑り集中するとシア、カイルだけでなくフレイヤともリンクが形成されたことに驚く。単にアシストチップが高機能なのか、何かしらの親和性があるのかは定かではないが。とにかく今は任務に集中しよう。
「聞こえるか?」
脳内で発した声にシア、カイル、フレイヤが首肯するのを確認すると、いつもの癖で両目を閉じて一度大きく深呼吸する。
「これよりフローラ救出作戦を開始する。大きな声では言えないが、一生に一度あるかどうかもわからない精霊を助ける栄誉ある任務だ。張り切って派手にいこう。任務開始」
「「了解」」
勝手がわからずフレイヤだったが、視線を送ると一拍遅れて真剣な顔つきになって手を顔の近くにに持ち上げた。
「了解!《ヤー》」
いや、別に敬礼までは要らないんだけどな。
エクセルスーツが完全な白色へと変化した頃、背中から朝日を受けながら四つの影が廃墟の前に伸びていた。前方には数十人のゴロツキ達。奴らはこちらを確認すると、指差して近くの奴らと笑い合っている。飛んで火に入る夏の虫とでも思われていることは想像に難くない。ただはっきり言って負ける気はしない。さぁ、行くぞ。
「突入!」
脳内の合図とともに駆け出した。狙うは廃墟の入り口の一点のみ。
エクセルスーツによって、強化された脚力で加速した勢いのまあ、中央に立っていたゴロツキに蹴りを入れると驚愕の顔のまま、廃墟の壁まで吹き飛んだ。
「シア、フレイヤはついてこい。カイル、後は任せた。《《使いすぎるなよ》》」
そう言うと、蹴り飛ばして空いた隙間から廃墟へと駆け込んだ。カイルも続いてそのまま、廃墟の入り口までたどり着くと、その場で立ち止まって振り返る。
「さぁ雑魚《お前たち》の相手は僕だ。はじめよう」
ショートスピアを構えて驚きと怒りに満ちたゴロツキ共を挑発するのだった。
廃墟内部を早足で進みながらフレイヤが話しかけてきた。
「あの、カイルだけで大丈夫でしょうか?」
多勢に無勢。そう思うのが普通の感覚だろう。
「大丈夫よ。カイルはリックと同じぐらい強いわ」
シアがフォローする。
「それにカイルのギフトは大人数相手にも有効だから」
「カイルはギフト持ちなのですね。どんな能力なのかお聞きしても…?」
「ああ、あいつの能力は……」
「クロックアップ」
カイルがそう呟くと、襲いかかってくるゴロツキ共の動きが一気に遅くなった。否。一気に遅くなったように見えた。というのが正しい表現だった。カイルの目には、まるで走馬灯のように相手の動きがスローモーションで見えていた。
クロックアップ。それは脳内の情報処理能力が数倍上がる能力だった。視覚から取り込む情報が高速で処理された結果、それは動いたものがゆっくりに見えるという超常的な感覚を引き起こしていた。
「遅いね」
カイルは襲いかかってくるゴロツキの攻撃を避けてはショートスピアを振り回し、続々と無力化させていく。半分ほどなぎ倒したところで一度クロックアップを解除すると、激しい頭痛に襲われた。それはクロックアップの代償だった。
「慣れないなこの痛み…。さて、もう一息」
カイルは再びクロックアップを唱えるのだった。
その頃、内部に侵入していたリックたちの前には一人の大男が立ち塞がっていた。
「これは、一体全体どういう状況だ?」
「グ、グガァァァァ」
苦しんでいるよな、怒っているような、言葉にならない声をあげているのは、数時間前に倒したはずのゴレムだった。