第006話 精霊の加護
「そういうわけでフレイヤが一時的にパーティーに入る。依頼の報酬は……」
「私に出せるものなら何でも」
フレイヤはきっぱりと言い放った。
「前払いとして皆さんに精霊の加護を与えましょう」
「精霊の加護?」
「はい。私はドライアドなので植物たちと心を通わせ協力を得ることができます。あなた方にも植物から協力を得られるように私の仲間であることを植物たちに伝えるのです。とは言っても、こちらの国でどこまで私の能力が及ぶかはわかりませんし、本人の素養によるところもあるとは思いますが」
そう言うとフレイヤは目を瞑り祈りはじめる。するとフレイヤの体が淡く光り、その光は自分やシア、カイルの方へと広がった。一瞬温かいものに包まれたような感覚が広がり霧散した。
「聞こえますか?」
不意に直接脳内にフレイヤの声が響いた。しかし、フレイヤを見ると一言も発した様子はなく、笑顔でこちらを見ているだけだった。
「驚いた。これは念話?まるでシンクロナイズド・ハーモニック・システムみたいだ」
「これが植物たちの言語の概念なのです。リックさんたちも適正があれば植物たちと通ずることができるかもしれません」
シアやカイルと顔を見合わせる。すごい。これが精霊の加護か。
「ロマンチックな能力ね。花屋への道がひらけそう」
シアも驚いたように口にする。
「まだ実感はないが、前払いとしては破格な気がするな」
正直なところ金銭的な報酬はあまり期待していなかった。たとえ精霊国の物を貰っても換金するのに一苦労しそうだからだ。報酬としては普通知ることのない精霊国の情報が得られるだけで酒の肴にはなるか、ぐらいのつもりだっただけに内心では高揚しかけたが、フレイヤの姉のことを思い、すぐに心を落ち着かせる。
「他にも色々と聞いてみたいことはあるが、今後の方針を立てる必要がある。重要なことだけ聞こう。フレイヤはこちらの国のことをどの程度知っているんだ?」
「知識としては概ね。科学技術の発達した国であることは存じ上げています」
不可侵条約は思ったより甘いものなのだろうか。そんな疑問が顔に出てしまったのか、答えるようにフレイヤが続ける。
「精霊国との境界付近の街ぐらいまでなら自然が続いていますし、動物たちもいますから」
なるほど。人間国の情報は筒抜けということか。一方的に知られているというのは気持ちのいいものではないが、精霊国側から侵略がないということはあくまで自衛の一環のようなものだろうか。
「そうか。なら、人間生活や街の様子、アシストチップについても説明は不要だな。もちろん聞くのと経験するのでは大きく違うところもあるだろうが、わからないことはシアがフォローしてくれ」
「よろしくお願いします。シアさん」
「シアでいわ、フレイヤ」
「俺もリック、あいつもカイルでいい。それでフレイヤのお姉さん…」
「フローラです」
「次はフローラの居場所をどうやって探すかだな」
カイルに目配せする。さっきから喋りはしないが何も考えていないわけではなく、打てば響くし基本的には正攻法で取っ掛かりとしては最善だ。
「フレイヤの能力で姉を探す、というのはどう?」
フレイヤは首を振って答える。
「植物たちに聞くことはできますが、私のように外から見えないように運ばれていたとしたら難しいかもしれません」
「そうか。誘拐したやつが何者かが分かれば何とかなりそうだが」
予想はしていたがやはり出鼻をくじかれるか。戻ってゴレムの口を割らせるというアイデアも浮かぶが、向こうもプロでそう簡単に口を割るはずもないし、逆にフレイヤを危険に晒すことになる。
「難しいわね…」
シアにも妙案はないようだ。
そんな折、不意に脳内にコールが入る。
「……!」
相手を確認してすぐにカイルとシアにも回線を共有する。二人も一瞬驚き、視線を合わせる。
「ごきげんよう、首尾はどうかね?こちらは既にフローラを確保したよ」
脳内に響いたのは聞き覚えのある依頼人の声だった。