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クラシックロード  作者: 瀬戸星都
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第001話 ロックンロール

 最後に自分の出自について深く考えたのはいつだっただろうか。


 此処ではない何処か。この世界ではない世界。其処で何をしていたのかはもう記憶の彼方にある。


 つまりは、だ。全くこの世界の住人と言っても差し支えないほどに曖昧なのである。いまさら口に出したところで妄想癖があるだの、不思議ちゃんだのと扱いを受けても残念ながら当然と言えよう。何一つ確たる証拠もなく弁明の余地はない。いや、別に申し開きをする意味も機会もないのだけれども。けれども、間違いなくそう思える経験があった。そう、あれはちょうど十歳になる頃の――


「……リック」


 長い回想に進みそうになった寸前、直接脳内に響く静かでいてはっきりと届く声に現実に呼び戻された。


 シンクロナイズド・ハーモニック・システム。脳内に埋め込まれたアシストチップは直接脳内で他人との通信を可能にしていた。アシストチップの動力源が体内から生成されている。簡単に言えば、多用すると腹が減り、もっと使えば昏睡状態となり、最悪そのまま帰らぬ人となりえる。ふつうのチップであれば安全機構が働いてそこまでは使えないようにはなっている。また、理論的には複数人での五感の共有も可能とされているが、脳とアシストチップ間の情報処理伝達能力には個人差もあり無闇にやたらに使えないというのが一般論となっている。そういうわけで今繋いでいるのは音声のみの通信だ。常用するのであればこれぐらいが適当といえる。


「カイルか。悪い。少し考え事をしていた。位置は?」


「予定通り」


 直接脳内に響くカイルの声は咎める様子もなく相変わらずと淡々としていた。幼馴染の一人であるカイルは大人しく物静かであまり感情を表に出さないタイプである。よく言えばクールで落ち着いている、悪く言えば人見知り、かなり悪く言えばコミュニケーション障害である。整った顔立ちでいてサラっと流れる明るめ髪と高めの身長はどこぞの王子様と言われても違和感はない。


「シアよ。こちらも問題ないわ」


 カイルとよく似たトーンでもう一方から応答があった。もう一人の幼馴染であるシアも口数が多いタイプではない。はっきりとした目鼻立ちと肩にかかるぐらいのショートカットで中性的とも言える容貌はかっこかわいいとでも言うのがあてはまる。身体的には身長こそ少し高いものの全体的には至って平均的で、客観的には特にコンプレックスは無さそうに見える。若干カイルとキャラが被っていると言えなくもないが別に兄妹というわけではない。この二人が並んでいるのを見ると似たもの美男美女カップルだなぁというのが第一印象になるだろう。実際にお互いに好意があるのかは知る由もないが。


 そんな二人と幼馴染である自分は必然的に二人に話を振る役割になっていて、気づいたら自分ばかり喋っていることも多々ある。未だに二人が何を考えているかわからないときもあるが、三人一緒の長い付き合いとなっていることもあり気を許してくれていると思いたい。


 さて、思考が逸れてしまったがどうやら二人とも配置についたようだ。前方に見えるは廃墟の裏口。暗闇から様子を窺ったところ視界には二人の見張りを捉えていた。どうやら奴らのアジトはここで間違いない。


 目を閉じて一度深呼吸をすると酸素が行き渡るイメージと共に脳内がクリアになっていく。


「もう一度確認しておくが目標はあくまで稀少生物の奪還だ。無駄に戦闘する必要はない」


 自分にも言い聞かすように目的をはっきりさせる。二人からの返事はないが、それは異論がないということでもある。よし、いこう。


作戦開始(ロックンロール)


「「了解(ヤー)」」


 返事が聞こえたのも束の間、反対側――廃墟の正面側から激しい爆発音が聞こえた。


「て、敵襲ーー!」


 建物内から声が上がる。


「どこからだっ?!」


「こっちだ」


 見張りの注意が逸れた瞬間に接近すると一人目の顎に一撃をお見舞いし、振り返り様にもう一人に麻酔銃を撃ち込む。


「こちらリック。無力化完了。潜入する」


「……気をつけて」


 シアからの控えめな通信を頭に響かせながら素早く建物内に入る。事前の調べによると敵のグループは大人数ではない。まぁ人数が多くて目立つ密輸者というのも間抜けというものか…、と思考していたところで長身の男と出くわす。


「…!このネズミめ!」


 こちらを認めるやいなや剣を振りかぶるが、逆に加速しながら相手の攻撃をいなして後頭部に衝撃を加える。


「カハァッ!」


 エクセルスーツにより強化された手刀は簡単に相手の意識を刈り取っていた。


「他愛もないな。まぁこのスーツが反則とも言えるが…やはり注意すべきは親玉だけか」


 周囲を警戒しながらさらに奥へと進む。


 正面からのカイル達の陽動がハマったのか敵は少なく、遭遇を避けるようにして難なく目指していた部屋の前までたどり着いた。どうやら人の気配がある。ここで間違いないらしい。


 一度深呼吸して息を吐くと、ドアを蹴破って麻酔銃を構えた。


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