入学
世界が認めた日本の特別許可地域、通称育成都市。
ある特殊な理由を持った学生の集う街。ほかの主要都市からは遠く離れているが、間違いなく東京、大阪といった都市よりも進んだ技術を取り入れている。
住民のほとんどが一人暮らしの学生であるが、各家に最低一台ある世話ロボットをはじめ何不自由ない生活を政府が提供している。
「起きて。7時だよ」
そんな街の30階マンションの一室に暮らす俺は今日も機械感を感じさせないロボットの若々しい女性の声で目を覚ました。
15歳春。今日から高校生になる俺はまだ固いからだを無理やり起こし、これから始まる高校生活に大きな期待と一滴ほどの不安を胸にカーテンを開いた。
「そんな朝を迎えたかったもんだよ」
ひとしきり高校生活初日の理想の目覚めについてコンビニで買ったおにぎり片手に語った俺を中等部からの友達であるコージはきれいに整えた前髪をいじりながら笑った。
「ケイらしいな」
実際の俺はロボットに7時に起こすよう頼みながらも10時から始まる入学式にぎりぎり間に合う9時過ぎに目を覚まし、カーテンなど開ける余裕などあるはずもなく最低限のことだけして家を飛び出した。コージはいつも通り家の前で待ってくれていた。
マンション前のコンビニでおにぎりを買ってからコージと共に学校行きに指定した個人バスに乗りこんだ。
「しかし便利なものだな」
この個人バスと仮の名を与えられた二人乗りの自動運転システム搭載自動車は今年から育成都市でのみ試験的意味合いも兼ねて流用された。街のいたるところにバス停が設置され行先を指定すれば最短コースで送ってくれる。歩道と車道は見えないバリアで覆われており、横断歩道もない。横断の際には歩道橋とエスカレーターを組み合わせたような機械を使う。そして完璧にコントロールされた個人バスは絶対に交差点を同時に通過することはないので信号も存在しない。
学校に着き、張り出されたクラス表に目を通す。
8.ケイ
9.コージ
Aクラスの中で名前を見つけ、すぐ下にはコージの名前もあった。
この都市では都市に住むことが決まった段階で都市専用の戸籍が作られる。その際に名前は下の名前のカタカナ表記に変わる。苗字はなくなるわけではないが、名前が被ったとき以外は基本使われない。今まで氏名を書くのが当たり前だった場面では指紋認証や虹彩認証が用いられている。
教室に向かうと既に40人クラスの俺たちを除く38人全員が席についていた。
黒板に張られた“席について待て”と書かれた紙以外これといってなにもない教室。
指示に従いおとなしく自分のネームプレートが置かれた席につくと程なくして一人の女性が入ってきた。
20代後半と思われる細くスラっとしたモデルのような体躯をもつスーツがよく似合う女性は教室を見回し、話し始めた。
「入学式は行わない。これより適性検査を行う」