もしかしてバレちゃった・・・?
「駄目だ…集中できない」
シャナーは熟睡できないことからくる最近の体調の悪さの為に仕事にも影響がでてきていた。
シャナーの仕事はラファイルの公務の補助もしている。
毎日、宮殿からラースによって持ち込まれる大量の書類の中に含まれる返信用の手書きの種類書きも担当するようになっていた。
もともとは別の人間が担当していたのだが、病気治療中で長期休暇を取ることになり、その作業もシャナーがすることになったのだ。
文字を書くことは好きなので苦にはならないのだが、他国に送る書類だけに、集中力が必要になる為、疲労感が半端なかった。
「カミール! ここ字が間違っているぞ!」
横で作業をしているラースが何枚かの書類をシャナーに戻しながら言った。
「あっすみませ…」
シャナーはあわててその書類を受け取ろうと立ち上がったその時、意識がとびその場に倒れ込んでしまった。
「カミール‼」
二人の慌てて自分を呼ぶ声が聞こえた気がしたが、意識が途切れてしまった。
シャナーが意識を失ってその場に倒れてしまってからまる3日が過ぎた頃、ようやくシャナーの意識が戻った。
「あれ? ここは…私何をしてたんだっけ…」
(あれ? あの人誰だろう? この屋敷に女の人なんていたっけ?)
ぼーっとする意識の中で周りを見渡すと、ベッドの横の椅子に女性らしき人が椅子に座って本を読んでいた。
シャナーが目覚めたことに気が付くと、白いシャツに黒いズボンをはいてはいるが上には白衣を着たその女性は立ち上がるとテキパキとシャナ―の手を取ると脈を図り始めた。
シャナーはまだぼーっとする頭で考えていると
「目が覚めたようね、気分はどう?」
「あの…少し頭がぼーっとしますけど大丈夫です」
「そうよかったわ」
シャナーはまだ頭が働かない様子でいまいち今の状況が理解できていない様子だった。
「私どうしてここに…確か殿下の執務室で仕事していて…」
シャナーは頭を押さえながら言った。
「頭が混乱しているのも無理ないわね。ラースに状況を聞いて驚いてきてみたらあなたは意識を失っているし、男どもはオロオロするばかりで役に立たないしね。ちょうど、ここの担当医師が陛下のお供で公務に同行していてよかったわね」
そう言った後、シャナーはハッとして自分の着ている服がいつも着ている制服ではなく、寝る時に着るラフな服だと気が付いた。
「あっあの、この服に着替えさせてくれたのは…」
シャナーは再び血の気が引いていく気がした。
「私よ、だから心配しなくても大丈夫よ。あなたが倒れた時に近くにいたラースがあなたをベッドに運んであなたが女だって気が付いたみたいでね、私に連絡が来たのよ」
「あのあなたは?」
「ああ、そうか、あなたは知らないわよね。私はラースの姉よ、ラースがラファイル殿下のいとこだっていうのは知っているでしょ?」
「はい、キャサリーヌ王妃様のお姉様のお子様だと」
「そう、母は都で医師をしている父と結婚して、今は田舎に夫婦で住んでるんだけど、私が父と同じ医師になった時にキャサリーヌ様が専属の医師を探している時でね、信用できる身内の方が安心だからって専属の医師として私を雇ってくれたの。今はキャサリーヌ様と一緒に保養所にいるんだけど、この間から用事で王宮に来ていたのよ。それで私の所に連絡がきたってわけ」
「そうだったんですか、えっとお名前は?」
「私? 私はソフィーよ」
「あと質問は?」
「あっあの…私は辞めさせられるんでしょうか?」
「あらどうして?」
シャナーは言いにくそうに下を向いてしまった。
その様子を見てソフィーは小さく笑った。
「何がおかしいんですか?」
「あらごめんなさい。あなたが心配するようなことにはならないと思うわよ」
「どうしてですか? 私は王家に嘘をついていたんですよ。男だと偽って」
「そうね、だけどバレたのは私とラースだけだし、私もラースも口外するつもりはないしね」
「えっ? どうしてですか?」
「私はあなたに興味があるから、ラースはもちろん今あなたに辞められたら大変だってわかっているから、自分の首を絞めるようなことはしない子よ。あくまでしらをきるつもりだと思うわよ」
「でも…」
「そうね、医者として忠告するなら、あなたは働きすぎね、過労で倒れたのよ。殿下にもあなたが寝ている間に説教しておいてあげたから、今はすごい反省してあなたが寝ている間、猛烈に仕事してるみたいよ」
「殿下が? どうしてでしょうか? 迷惑をかけたのは私なのに…」
「あなたは気付かなかったようだけど、実は殿下には夜中無意識に誰かのベッドにもぐりこむ癖があるのよ。殿下の場合はずっとフラフラ歩き回るわけじゃないみたいなんだけどね。興味深い研究対象なのよね。まっなぜか朝方には自分のベッドに戻るみたいなんだけどね、本人も無意識みたいなのよね」
「あの、もしかして新しく採用された人たちがすぐ辞めていったのは」
「ラファイル殿下が原因よ。まあ夜中に部屋に突然入ってこられてベッドの中に入ってこられたらビックリするわよね。それでなくても昼間はあのわがままぶりだしね」
「もしかして…私のベッドにも」
そこまで言ってシャナーは想像して再び意識が飛びそうになった。
「そうね、恐らくここ数日は毎日あなたの所に夜中行っていたみたいね。本人は気が付いていないみたいだけどね。だけど、最近殿下の寝起きがよかったでしょ」
「そういえばそうです」
「もしかして、あれは夜中にあなたのベッドであなたから生気を奪っていたからじゃなないかしらね」
「生気ですか?」
「冗談よ、殿下にしてみれば、誰かが隣で寝てくれるということは、そうね簡単に言えば精神安定剤みたいな作用があるんじゃないかしら。でも一つ問題があるのよね。殿下って寝相がものすごく悪いのよ。だから一緒に添い寝する人間は命がけなのよ。あなたも例外じゃなかったのよ。ベン騎士団長に聞いたけど、あなたラファイル殿下にすごい蹴りをいれていたんですって、どなたかに格闘でも習っていたの?」
「はい、私の祖母に習ったんです。祖母は薬草使いでよく草の採取に野宿をするんですけど、盗賊とかに出くわすこともたまにありますから、自分の身を守るすべを教わりました」
「そう、だからね、あなたは寝ながらも無意識に殿下と格闘していたのね」
「あの、でしたら殿下は怪我をなさっていらっしゃるのでしょうか?」
「ああ、大丈夫みたいよ。殿下ってああ見えてかなり強いのよ、剣術もそうだけど、格闘技もね。だから、格闘技の心得がない人からすると殿下と添い寝するってことは命がけなのよ。でも毎日続くとあなたの体が悲鳴を上げたのよ。殿下はなんだかんだで昼寝してるでしょ。ラースに仕事押し付けて、でもあなたは朝から夜遅くまで動きどおしだものね。無理がたたったのね。その上あなた早朝薬草摘みに行っているんですって」
「はい、早朝の外の空気を吸うと気分転換にもなりますし」
「そうね、好きな事をする時間も必要ね。この機会にまた、見張りも兼ねて騎士団の添い寝当番表を再開さえることにしたってさっきラースから報告があったから、今夜からあなたはゆっくり睡眠がとれるはずよ」
シャナーはどう答えていいのかわからなかった。無言のままいると、扉がそっと開いた。扉の向こうからのぞいていたのはラファイルだった。
「ソフィー、カミールの様子はどうだ」
そう言った後、起き上がっているカミールをみたラファイルが急に笑顔になって勢いよく扉を押し開いて入ってきた。
「カミール目がさめたのか? 体調はどうだ? 三日も眠りぱなしだったんだぞ、どこか痛い所はないか?」
「えっ? 三日! そっそんなに寝てしまっていたんですか? 殿下、申し訳ありませんでした」
「何を誤っているんだ? 悪いのは僕だろ? ベンにもラースにもこってり説教をされたよ。お前にかなり無理をさせていたんだな。悪かった。お前が寝ている三日間でどれだけお前に頼っていたのかが身に染みたよ。これからはなるべくお前の負担を減らすように努力するから、早く元気になれよ」
「殿下…ありがとうございます。でも殿下、この部屋の予備の鍵は返してくださいね。無意識とはいえ、殿下に持っていられると、安心して眠れませんから」
「カミール! 僕はもうお前の所には夜寝にこないんだから鍵は返す必要はないだろ? この部屋は元々僕の昼寝部屋だったんだぞ」
「ですが今は違います。仕事は仕事、部屋の共有はお断りします。今後一切、この部屋に勝手に出入りするのは辞めてください。用があればノックしてくだされば出ますし、ノックしても自分の返事がない時はあきらめて、勝手に入って昼寝するのも辞めてください。殿下だからという理由で勝手に人の部屋に入るのは不法侵入ですよ」
「別にいいじゃないか、この別邸は丸ごと僕の館だよ、僕がどこに行こうが僕の自由じゃないか。それにもし夜中にお前の所に敵が侵入してきてお前の所に助けに行こうとしてもお前の部屋にはいれないじゃないか!」
「それこそはあ? でございますよ殿下。私は殿下にもしもの時は身を差し出す覚悟でございますが、殿下に助けられるような事態にはなりませんから。これでも護身術は得意です。もしもの時はわたくしが殿下をお守りする為にかけつけますから」
シャナーは笑顔で言いきった。自分の腰につけている剣は飾りではなかった。
シャナーは家にいる時にこっそりと双子の兄が剣術を習う様子をのぞき見し、一人訓練していたのだ。自己流ではあるが自信はあった。ここにお世話係として働くようになって三ケ月、時間があれば訓練として、城に常駐する騎士たちにまざって強制訓練に参加していた。
「カミール頼りにしているよ。だから、ここの続きの間の鍵は必要ないんじゃないかな。もし、僕が襲われたらここに逃げ込まなきゃいけないんだろ?」
「大丈夫ですよ。こっちに逃げ込まなくても陛下のベッドのすぐ横にはアンドレアの待機部屋があるじゃないですか? そっちに逃げ込む方が早いですよ。彼は僕よりも強いですし、騎士の方々も添い寝してくださるようですし」
「えっ、またあいつらが一緒に寝るのか? 聞いてないぞ。もちろん、アンドレアの部屋にも逃げ込むさ、だけど…あいつの部屋は寒いんだよな」
「はあ?」
「とにかく、逃げ込む場所は多いにこしたことないだろ、だからやっぱりここの部屋の扉は鍵をかける事は許さないよ」
「わかりました。ではこうしましょう。鍵はかけません。自分が別の部屋に移ります」
「はあ? それこそ聞けない相談だな。お前は僕の世話係だろ、僕が用がある時はすぐに来れる場所にいてもらわないと困るしね」
「あっはははは」
二人が言い合いを始めたのを大人しく聞いていたソフィーが突然笑い出した。
「ラファイル、カミールがいると私がいてもくしゃみをしないのね」
「⁉」
ラファイルが何かを思い出したかのように慌てて口を抑えると後ずさりしながら瞬時に扉の外まで移動して顔だけだした。
「カミール、とにかく鍵は渡さないからな。だけど、なるべく夜は行かないように気をつけるから、倒れるまで我慢することは許さないぞ! 昼寝したくなったらきちんとするんだぞ! いいな」
「わかりました殿下、殿下が頑張ってくださるならラース様の仕事も減ってみんな健康になれますしね。頑張ってくださいね」
シャナーはそんなラファイルをみて小さく笑いながら言った。
「ラースの為じゃないぞ!」
ラファイルはそう言い放つと、部屋を出て行き自分の部屋に戻って行った。扉が閉まった事を確認したソフィーが二人のやり取りをニヤケながら見ていると今度はベン騎士団長が現れた。
「おい、生き返ったって聞いたんだが、入ってもいいのか?」
「あら久しぶりね。ベン」
「げっ、まだいたのか? 今ラファイル殿下が出てくるのをみかけたから、てっきりもう王宮に戻ったのかと思ってきたのに」
「あらおあいにく様、まだカミールの診断が終わっていないのよ、さっき目を覚ましたばかりだしね」
「そうなのか? 今まで寝ていたのか? どんだけ疲れが貯まっていたんだよ。まっそのおかげであの殿下が真面目に公務をこなしているからお前の病気も無駄じゃなかったってわけだな」
「あの…皆様にはご迷惑をおかけしてしまってすみません」
「いいってことよ。じゃあそういう事で」
ベンはいそいそとすぐに出て行ってしまった。
「あの、質問してもよろしいでしょうか?」
「どうしてソフィー様がいらしたら殿下がくしゃみをなさるのですか? それにベン騎士団長様とはどのようなご関係なのですか? ベン騎士団長すごく焦っている様子でしたから」
「ああその事? どうしてかラファイルったら私が近づくと昔からくしゃみばかりするのよね。失礼しちゃうわよね。私は何かのアレルギーかっていうのよね」
「何かのアレルギー? 殿下は持病か何かあるのですか?」
「あら、あなた知らなかったのね、そうね、あると言えばあるわね、でもあまり他人には言いたくない病気だから聞かないであげて。むしろあなたが世話係をして規則正しい生活を殿下にさせてくれていることの方が殿下にとってはいい事だから。これからもよろしくね」
「はい、頑張ります」
「その意気よ、あの殿下にはあなたぐらいビシッと言い返す世話係が必要だから」
ソフィーは笑顔で言うと、診察を済ませ、何か心配事があるといつでも言うようにラースかベンにいえば時間をとってかけつける事を約束してくれた。そして最後にソフィーは一言言って出て行った。
「ベンは私の旦那よ」
「ええ~」
一人になったシャナーの驚きの声が響いた。その後もシャナーが目覚めたと聞いた館で仕事している人達が仕事の合間に次々と見舞いの品を持って顔を出してきた。
そのおかげでシャナーの部屋には花や果物や殿下撃退道具なるものやおいしそうな焼き菓子など色んなものがたくさんテーブルに山積みになってしまったのだった。
シャナーのはその日は一日のんびり過ごしたが、よく朝にはまたいつも通りテキパキと仕事をするようになっていた。
一つ変わったことは、ラースとベン騎士団長によって、シャナーの部屋には内側から新しい鍵がつけられたのは言うまでもなかった。
これにはラファイルが大いに抵抗したが聞き入れられなかった。
しかもその抵抗は館の使用人全員を敵にまわすほどであった為にラファイルは今後シャナーことカミールの部屋に勝手に入ることを禁止されることとなった。
もちろん他の使用人や騎士たちの部屋もしかりであった。