添い寝は危険?
「ああ~今日も私良く頑張ったなあ~おばあ様おやすみなさい」
シャナーはいつもベッドの横のサイドテーブルの上に自分で描いた師匠であり祖母のサフェリアの似顔絵を置き、その似顔絵に向かって「おやすみ」を言って眠りにつくのが習慣になっていた。
シャナーにとって薬草に向き合っている時間が一番至福の時なのだが、次に大好きなのが睡眠だった。
「毎日大変だけど何と言ってもここのベッドはフカフカだし、最高なのよね。おばあ様と一緒に薬草採取の旅にでたら野宿は当たり前だったしなあ…こんなフカフカなベッドに眠れるのはラベリー家に戻った時ぐらいだったもんな」
シャナーはウトウトしながらフカフカのベッドで眠りにつく幸せをかみしめながら眠りにつくのだった。
しかし…最近その至福の時間を邪魔する輩がいるようで、寝ているはずなのに、なぜか体が疲労困憊しているのだ。
薬草茶で体力回復させようとしてはいるがなぜか疲れは一向にとれなかった。
その最大にして最悪の根源はいつも深夜に音もなくやってくるようなのだ。
シャナーの部屋には扉が二カ所ある。どちらの部屋も鍵はついているので眠る時に必ずチェックして眠りにつくようにしている。だがその輩は難なく侵入してくるのだ。
今夜も仕事が終わって、習慣の読書を少ししてから眠りについた深夜、隣の部屋と続きの間との境の扉が音もなく開いた。
そして、シャナーの寝ているベッドに近づくとスヤスヤ眠っているそのベッドにそっと近づき、布団の中に侵入して行った。
襲うわけではなく、ただ横で添い寝をするように寝ているだけなのだが、普通の敏感な人間ならば、部屋に侵入者が侵入してきた次点で目が覚めるのが普通なのだが、疲れて爆睡しているシャナーは気付かず爆睡をしていたのだ。
朝になるといなくなっている為誰かが横で寝ているなどと気づきもしていないシャナーだった。
ただ、なぜか疲労感がとれなかったので不思議に思っていたほどだった。
「おかしいなあ…最近睡眠時間は十分とっているはずなのに起きると余計疲れているみたいなんですよ」
朝、シャナーはラファイル殿下の朝食の準備の手伝いの為に食堂で料理長の隣で食材を配膳しながら言うと、料理長が調理し終わったステーキ肉を皿に盛り付けながら言った。
「それはきちんと眠れていないせいじゃないのかい? 薬草に詳しいお前さんなら、よく眠れる薬草茶の配合できるんだろう? ここにあるものは好きに使って構わないから調合して飲んだらどうだい?」
「ありがとうございますカシスさん。実は手持ちの薬草茶で試しているんですけど、効果がないみたいなんですよ。以前ならそれですぐ体調も良くなっていたんですけど、なんていうか、寝ると余計疲れるみたいで、早朝の薬草摘みもできないぐらい朝起きれなくて」
「あっそれ、あれじゃないですかね?」
シャナーが料理長と話しをしている横で、この館で寝起きしている騎士たちの食事を手際よく作っている料理見習いのイズルが興味津々で言った。
「あれってなんですか?」
「ほら、呪いとか金縛りとかってやつじゃないですか?」
「呪いですか? ええ~誰かに恨まれることをしてきたつもりはないんですけど…そう言えば朝起きると首の辺りがどうも重いんですよね」
「おい、カミールそれかなりやばいんじゃないか? 今度買い出しに行ったらお祓いとかやってもらた方がいいかもしれないぞ、放置していたらそのうち呪い殺されるぞ」
一番のりで食堂に来ていた騎士団長のベンが食堂から厨房の中をのぞき込みながら言った。
「脅かさないでくださいよ」
「そうそう、カミールは隊長とは違って霊に恨まれるようなことはしてきていませんよ」
横にきていた騎士団のマークが言った。
「おいマーク、それはどういう意味だ? 俺様が恨みをかっているとでも言いたいのか?」
「えっ違うんですか?」
「はあ⁈」
ベンはマークの胸倉を掴むと睨みつけた。マークは両手を上げ引きつり笑いをした。
「まあまあ、お前の日頃の行いをみてると俺も同感だな」
今度はちょうど朝食を食べにきたラースが言った。
ベン騎士団長がまだ胸倉を掴んでいるマークをちらりとみて、ラファイルの朝食の準備を終えて、ワゴンで料理を運んできたシャナーの顔をまじまい覗き込んで言った。
「おい、本当に大丈夫か? 顔色がよくないんじゃないか? 今日は休んだらどうだ? あいつの面倒なら非番のこいつにでも見させるからよ」
「ええっ嫌ですよ。殿下の世話をするぐらいなら仕事をした方がましですよ」
「おいマーク、毎日その殿下の世話をしているだぜカミールは、一日ぐらい代わってやったらどうだ?」
「ええ~そんな事をいったらベン騎士団長が代わってあげたらいいじゃないですか」
「俺か? この間面倒みたじゃないか? あいつ結局尻が痛いって言って公務も一日さぼって俺のベッドを占領して一日面倒見させられたんだぞ、あいつの寝相の悪さは天下一品だからな、横で寝ていると首を絞められそうになって徹夜明けでずっと子守をしていたんだぞ」
「あっベン騎士団長、それ自分のせいですよね。ご迷惑をおかけしてしまってすみませんでした」
ベン騎士団長の話を聞いたシャナーはあわてて頭をさげて謝った。
「いいや、あれは正直俺もスカッとしたしな」
「なんだ、ラファイルが尻が痛いって言ったのはお前が原因だったのか?」
ラースが驚いたようにシャナーに向き直って聞き返すと、ベン騎士団長がおもしろそうにニヤニヤした顔をしながら言った。
「ああ、お前は知らなかったんだな、実は…」
ベン騎士団長が言おうとするのをシャナーがさえぎった。
「わあ~! あれは解決したことですよ。今更蒸し返さなくてもいいじゃないですか!」
シャナーは慌てて口をはさんだ。
「僕も聞きたいです。何か面白いことがあったんですか?」
どうやらベン騎士団長もラファイル殿下もこの間の昼食強奪事件の事を口外していない様子だった。
あの時は怒りでつい反撃をしてしまったが、実はビクビクものだったのだ。
仮にも王子であるラファイル殿下のお尻にけりを入れたなど、王宮内に広まりでもして陛下の耳にでも入って投獄されでもしたら大変だ。
必死でごまかしていると、そこにいつも顔を出さないラファイルがひょっこり顔をだした。
「まだ朝食ができあがらないのか?」
「あっ殿下、もっもうしわけありません。今運びますから、さっささ参りましょう」
シャナーはあわてて料理がのったワゴンを押してラファイルに近づくと、慌ててラファイルの部屋へとラファイル共々向かった。
その後、残ったマークが去った二人を見送りながら呟いた。
「あのベン騎士団長、俺思うんですけど、カミールの寝不足の原因、あれ殿下ですよね」
「ああ、十中八九そうだろうな。新人が入るとすぐに夜中添い寝をしてまわる殿下の癖が原因で、ほとんどの人間が辞めて行くってのに、カミールの奴いっこうに辞めねえと思っていたら、かなりの鈍感だったんだな。あいつ寝込みを襲われたらいちころだなありゃ」
「だから…最近、ラファイルがご機嫌で朝から仕事をするようになったのはカミールの所にしのび込んで寝ていたからか」
「あの…殿下ってそういう趣味が本当にあったんですか? 新人をためす為にしているだけなんじゃなかったんですか?」
「殿下は人恋しいんだよ。しかし、カミールもそのうち倒れなきゃいいんだけどな」
「そうだな。何とかしないとな。カミールに辞められると、また募集しないといけなくなるからな」
ラースは大きなため息をついて用意された朝食のトレーを持って食堂のいつもの席について朝食を食べ始めた。
「まっ俺達にはどうすることもできないしな」
「そうですね。また以前のように交代で添い寝なんて嫌だしね。あの寝相の悪さは命に関わりますしね」
「そうだな、殿下も…ほどほどにしないとそのうち痛い目に合いそうだな」
「えっ? カミールの間違いなんじゃないんですか?」
ベン騎士団が言った言葉にマークが首を傾げながら聞き返したが、ベン騎士団長はニヤリと顔をさせただけで、何も答えなかった。
それからもしばらくの間、カミールの寝不足が続きとうとう事件が起きてしまった。