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殿下はコソ泥ですか?

「待てぇー! 昼食返せぇー!」


長い廊下をシャナーの叫び声に似た怒鳴り声が響いた。

そのシャナーの前をサンドパンを口にいっぱいにくわえ、両手にもサンドパンを持ったラファイルが走り抜けていった。

その後を鬼の形相でシャナーが追いかけていた。


それはついさっきの事だった。

ラファイル王子は偏食が激しい。

毎朝、大きな長いテーブルの上には十種以上のケーキなどがならび朝から甘いものばかり食べていた。

料理長はそれだけではなく様々な種類のサラダや肉料理なども同時に出しており、たった一人の殿下のためにかなりの品数の料理が毎回作られては食べられずそのまま捨てられていた。


幼い頃から自給自足のような環境で育ったシャナーには許せないことだった。

そこで、シャナーは殿下が残したシェフが作った料理をシェフがすぐにゴミ箱に捨てるのを見て、捨てるぐらいならともらい受け、自分用の昼食用にと時間のある時に、自ら厨房で手作りのパンを二・三日用にまとめて作って置き、簡単に食べられるようにと毎朝殿下が残したサラダなどは皿にとりわけ、干し肉、生肉などは一度火を通し、その他にも朝食としては豪華すぎる高級な食材をパンにはさみこみサンドパンを作り、自分の昼食用に作り直し保管して、昼食用に用意していた。


この館では昼食を食べる習慣がなかったのだ。

みな朝食と昼食を兼ねて食べるようでこの館で食べている騎士たちも朝食はかなり遅い時間に食べていた。

それに比べて幼いころから小食気味とはいえ三食きちんと食べていたシャナーに一日二食はお腹がすきすぎてお腹が持たなかったのだ。

特に朝早くから慌ただしく動き回っているシャナーは最近食欲旺盛でお腹がすきすぎる為、みんなが食べる時間には殿下の朝食の付き添いをしている為、シャナーは夕食以外は自分で作って食べてもいい許可を頂いていた。


シャナーが自分の昼食用にと自分の部屋に保管していたサンドパンを、シャナーが用事で走り回って、ようやく時間ができたので食べようと思って自分の部屋に戻ってみると、そこには目を疑う光景があったのだ。


こともあろうに、ラファイル王子がシャナーの部屋に勝手に侵入し食べている場面に遭遇してしまったのだ。


「殿下! それは私の昼食用ですよ! 何を勝手に食べてるんですか? お腹がすくのなら朝食をたくさん食べればいいじゃないですか!」


「いいじゃないか、このサンドパンの中身は元々僕が食べるはずだった朝食の残りだろ」

「はあ? だったら、最初からシェフが調理した朝食を食べてくださいませ」

「僕がいつ何を食べようと僕の自由だろう」


「ですが、これは作ってから時間も立っていますし、自分がこの部屋を離れている間に殿下のように勝手に部屋に侵入してこの食材に毒でも盛られていたらどうなさるおつもりなんですか?」


「大丈夫だよ、僕は毒には小さい頃から慣れているから、匂いでわかるしね」


「そういう問題だけじゃないです…はあ…誰かさんのせいで毎日動きっぱなしでお腹がすくから昼食用にとっている非常食なのに…」


シャナーがブツブツ言っていると、ラファイルはシャナーの顔をのぞき込んで真剣な顔で言った。


「お前も僕が食べる時間に一緒に食べればいいじゃないか!」


「はあ? そんなことできるわけないじゃないですか? 私が言いたいのはですね。人の部屋に勝手にはいらないでくださいということです。それと人のものを勝手に食べないでください。小さな子どもじゃないんですから。していいことと悪いことの区別もつかないんですか?」


「この館のものは全部僕の物だよ。僕が食べたい時に食べたいものを食べる権利があるんだ」

ラファイルは満足そうにそのサンドパンを口にほうばりながら言った。


「最低」


シャナーは小さく文句を言った。


「何かいったか?」

「い・い・え、とにかく、これは返してください」


シャナーはお皿に残っているサンドパンの乗っている皿を取り上げて言った。

すると、ラファイルの手が瞬時に伸びて、皿に伸びて一つは口に放りこんで両手で残りの二つを掴むと突然部屋を飛び出した。

一瞬の事だったので空になった皿を茫然持ったまま固まってしまったシャナーはすぐに正気に戻ると、部屋を飛び出して走りだしたラファイルの後を追いかけだした。


「ハァハァ…足だけは速いんだからまったく、どれだけ食い意地が張ってるのよ」


見失ってしまったシャナーはキョロキョロと辺りを捜し始めた。

その頃ラファイルはある部屋の中に飛び込んだ。その部屋は誰かの部屋の様子だった。


「殿下じゃないか? 何か急用か? それともその手の物は差し入れか?」


誰の部屋何か確認しないで入り込んだラファイルの顔が青ざめていった。


「はれ? ほまえは?」


口にまだたくさん入っているラファイルはうまくしゃべれなかった。


「どうかしたのですか殿下?」


ラファイルは口に入れていたサンドパンを飲み込んでようやくしゃべれるようになった。


「ここはお前の部屋だったのかベン」

「知っていて入ってきたんじゃないのか?」

「違うにきまってるだろ。ちょっとかくまってくれ、追われているんだ」

「誰に? 侵入者ですか?」


ラファイルがベンと言った男は相変わらずベッドに横になり、頭に手を置いて横に寝そべったまま起きかがろうとはしなかった。


「いや、もっと厄介な奴だよ」

「侵入者より厄介な奴? 誰だそいつは」


興味深々でようやく起き上がったベンを見ようともしないラファイルは、右手に持っていたサンドパンを食べようとしたその瞬間、突然閉まっていたはずの扉が開いた。


「ここかあ、コソ泥は!」


すごい形相でシャナーが勢いよく扉を開けて侵入してきた。


「おやおや、今日は来客が多い日だな、今日は俺は休暇中で仕事はしたくないんだけどな」


シャナーはその声でこの部屋が誰の部屋なのか気付き一瞬動きが止まった。


「もうしわけありません。ベン騎士団長!」

「やあ、久しぶりだなシャナー、剣の訓練がしたくなったらいつでも騎士団の練習にきていいんだぞ」

「はい、時間が空きましたら是非見学に行かせていただきます」

「ところで何かようか?」

「あっ、殿下がこの部屋に入ってきませんでしたか?」

「ラファイル殿下か? ああ~殿下なら」


ベンがそう言って視線をちょうどシャナーが立っている扉の真後ろで息を潜めているラファイルに視線を向けると、ラファイルが手を顔の所で振りながらいないアピールをした。


「殿下かあ、いないって言ったら信じるのか?」

「いいえ」

「だろうな、でっそのコソ泥は何を捕ったんだ?」


「自分が食べようと作って保管しておいた昼食用のサンドパンを盗み食いされ追跡中です。後二つ持ってるはずなんですが」


「昼食? お前は昼食も食べるのか?」


「はい、自分は朝が早いものですから、お昼になるとお腹が減るので、騎士団の皆様のように朝と昼を一緒に食べる時間帯は殿下のお世話の最中ですので食べれませんので」


「そうか大変だな、それはそうと、見たぜコソ泥、扉の反対側だ」


その声を聴くなり、ラファイルが扉の反対側から顔を出した。


「ベン、お前の主人は僕だってことを忘れているのか?」


「俺は正義の味方なんでね。それに、正確には俺の雇い主は陛下だ」


シャナーは殿下の顔を見るなり、再び険しい顔になった。それは右手に持っていたはずのサンドパンが既にないからだった。


「殿下!」


そういうと素早くラファイルの所に移動すると最後に残った左手のサンドパンを奪い返すと言い放った。


「殿下、後ろを向いてください」

「はあ? なんでお前の指図を受けなきゃいけないんだ?」

「そのままの体制でも私は別にかまいませんよ」


シャナーはニヤリとして言った。


「おいカミール、お前は僕が王子だってわかっているのか?」


「私は幼い頃から泥棒に何かを捕られて返してもらえないなら体で働いて返してもらうか、一撃をくらわすかどちらかで相手に返してもらえとおそわりました」


「はあ? おかしくないかその考え方? 泥棒を捕まえたら騎士団に報告して任せるのが普通だろ?」


「では騎士団長、自分は殿下にはご自分の体で盗んだ罰を受けてもらいたいのですが、代わりに一発罰として殴っていただけませんか?」


「だから、どうしてそうなるんだ? その食材は全部僕が朝食に食べる用にと用意されていたの物で作ったんだろ? だったら僕の物だろ?」

「いいえ、パンは自分の給金で買った材料で作ったものですから殿下の物ではありません」

「はあ? たかがパンだけだろ」

「たかが?」


「まあまあお二人さん、結論からいうと要するに、俺がお前の代わりに殿下を一発ぶん殴ればいいいってことだろ?」


ベンはおもしろそうにいつの間にか起き上がりもめている二人の側まできていた。


「はい」


シャナーは即答した。


「いいや納得いかない、ベン、お前は加減ってものをしらないだろ。どうせ思いっきり僕を殴るつもりだろ?」


「当然」


「パンごときで殴られるのは割りが合わないぞ」


「じゃあ殿下がお選びください。私なら殿下のおしりにけりを一発で許して差し上げます。ベン騎士団長に代理を頼むのでしたらぐーで頬を一発でどうですか? どちらでも殿下のお好きな方をおっしゃってくださいませ」


「どっちもいやだね」


そう言って逃げようとしたラファイルをベンが素早く抑え込んだ。


「殿下ともあろう立場の人間が往生際が悪いぞ」

「こら放せ!」

「さあ、お選びください」


シャナーは一歩も譲る気はさらさらなかった。

ラファイルはしばらく暴れていたが諦めたのか、シャナーの尻にけり一発を選択した。

その答えを聞いたシャナーはニヤリとして右足を上げた。

それを見たラファイルが訂正しようとしたが時既に遅く、ベンにむきを変えられ、シャナーに後ろを向ける態勢にさせられたかと思うとすごい威力のけりがラファイルの尻めがけてけりが入った。


「痛ったあー!」


あまりの威力にラファイルが自分の尻を両手で押さえてうずくまった。

その様子を平然と見下したシャナーが冷たい視線で一言言った。


「これに懲りて私の部屋には勝手に侵入しないでください。ベン騎士団長、ご協力ありがとうございました」


「いやいや、たいした事はしてないぜ、今度時間があったら俺にもそのおいしそうなパンでサンドパンを作ってくれないか?」


「了解しました。では仕事の片づけがありますので失礼します」


シャナーはそういうと一礼してうずくまったままのラファイルを放置して部屋を出て行ってしまった。ラファイルはその場から動こうとしなかった。正確には動けないと言った方が正解かもしれない。


「殿下、用が済んだのなら早く出て行ってくれないか? 俺の貴重な睡眠時間がドンドン過ぎていくんでね」


その言葉が聞こえていないのか、殿下はそろりそろりとおしりを抑えながら移動すると、ベンのベッドに横になった。


「おい殿下、俺の話を聞いていなかったのか?」


「聞こえてるさ、自分の部屋までなんか戻れるわけないだろ、あいつ思いっきりけりやがって、痛みが引くまでは僕はここを動かないからな、寝たきゃお前がどこかで寝てくれ」


「はあ? 頭正気ですか? いい加減にしてくれよな」


ベンが慌てて起き上がらせようとしたがラファイルはびくともしなかった。


「勘弁してくれよ、俺は今朝は夜勤あけで寝てないんだぜ」


「ベン、僕の部屋で寝てもいいぞ」

「はあ?」


ベンはあきれてラファイルの顔をみた。がっその瞬間すぐに寝息が聞こえてきた。


「まじかよ…」


この日ベン騎士団長のため息が一日中響いた。

本日の被害者はベン騎士団長に決定した。


 


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