ここは宝物の宝庫!
私の新しい物語を読んでいただいてありがとうございます。
この物語にでてくる草の名称や実などは私の空想上のものです。
現実の世界の草や実とはまったく関係ありません。
「よーし、今日も一日頑張るぞー、今日こそクシャを見つけなきゃ」
シャナーの朝は早かった。館の使用人たちが起き出す前に館を出て森に採取に出かけるためだ。
夏が近いこの季節は日の出も早く、シャナーは仕事を始める前に森に入り、薬草や木の実を収穫しても十分殿下が起きる時間に屋敷に戻ることができるからだ。
シャナーが唯一好きなことが自由にできる時間帯でもあった。
シャナーは初夏とはいえまだ夜明け前の為、肌寒い為、制服の上に薄手のコートも着ることにした。
そしてかごを持ちそっと館を出た。
シャナーはこの夜明け前の静けさが好きだった。
木々達が一日のよどんだ空気をその体内に吸い込んで新しい新鮮な空気を吐き出してくれているこのひと時がシャナーは一日の時間帯の中で一番のお気に入りだった。
だからどんなに夜寝るのが遅くなった日でも必ずこの時間帯は起きるようにしていた。
シャナ―は一人の時間を存分に堪能しながら鼻歌混じりにご機嫌で森の方角に歩いて行った。
しばらく歩いていると、どうも気配を感じる。
こんな時間帯にで出会うのは夜間見回り担当の騎士ぐらいだと思うのだが、見回りの騎士なら馬に乗っているはずなのに馬の音ではなかった。シャナーは足を速めて急に駆け出した。
すると、その足音も後ろの方から同じようにかけて来ているようだった。シャナーは急に立ち止まり振り向き構えた。
「誰! そこにいるのは!」
シャナーは腰の短剣を構えながら振り向くと、そこにはしんどそうに荒い息遣いをしたラファイルが立っていた。しかもパジャマ姿で。
「殿下! 一体そんなカッコでここで何をしているんですか! 」
「ハア…ハア…お前足が速いんだな」
ラファイルは息を切らせながら中腰になりながら荒い息遣いのまま言った。
「質問の答えになっていませんよ。私は何をしているのかと質問しているのです殿下、そのような姿でこんな所を歩いている姿を他の使用人にでも見られたらどうするのですか? それ以前に寝室に殿下がいないことが知れたら大ごとになるではありませんか。しかもこんなに肌寒い時間帯にそんな薄いパジャマ姿で」
「しっ仕方ないだろ。着替える時間がなかったんだから」
「は?」
シャナーは嫌な予感を追い出そうと今の言葉は聞かなかったことにすることにした。
「私は何も見ていない。私は何も聞いていない」
シャナーは自分に催眠術をかけるかのように目を閉じて同じ言葉を繰り返した。
「おい、何をブツブツ言っているんだ。森に行くんだろ? 早くしないと収穫する時間がなくなるぞ」
シャナーは恐る恐る目を開けるとそこには見たくない現実が存在していた。
しかも館とは正反対の森の方角に意気揚々と先に歩きだしているのだ。
「殿下!」
「なんだよ」
「なんだよではありません、何をしているのかと聞いているのですよ」
「何って薬草採取に行くんだろ? 僕も行こうかと思ってね」
「…帰ります」
シャナーはワナワナと肩を震わせながら絞り出すような声で言った。
「どうしてだ? 今日は森へ行くんだろ? 僕が知らないとでも思っていたのか? お前最近よく森に行っては大量の草や木の実を持ち帰っているだろ。お前の部屋草だらけだしな」
「また勝手に部屋にお入りになったのですか?」
「何がいけないんだ? あの館は僕の物だ。僕がどこの部屋に入ろうが誰にも文句は言えないはずだろ」
「プライバシーの侵害です」
「はあ? 意味がわからないな。別にあんな草僕は興味ないし、ただ…お前のあの部屋は昼寝にちょうどいいんだ。僕も手伝ってやるからさ早く草の収穫を終わってくれないかな。薬みたいな匂いがして昼寝に集中できないんだよね」
「ひっ昼寝? 今昼寝と言いましたか?」
「言ったよ」
「はああっ…信じられない」
シャナーはそういうと、ドスドス足を鳴らしながら、館に向かってスタスタと引き返して行った。
「どうしたんだよ、森に行かないのか?」
「行きません! 頭おかしいんじゃないですか?? ああああ~もお~! ムカつく~! ばっかじゃないですか!」
シャナーはキッとラファイルを睨みつけると館に引き返し始めた。
「何を怒っているんだよ。おかしな奴だな」
ラファイルは頭をかきながら訳が分からない様子だった。
その様子をラファイルの後ろで見ていたアンドレアが一人声を殺して笑いをこらえている姿があった。
シャナーは怒りで心の中が煮えくり返りながら屋敷へと引き返して行った。
(まったく、普段あんなに起こしても起きないくせに、どうして今日に限って寝起きがいいのよ。しかもパジャマ姿ってありえないじゃない。どう考えても私に嫌がらせしているようにしか思えない)
シャナーはこみあげてくる怒りを足元に込めながらドンドンと音を鳴らしながら自分の部屋に戻ることにした。
部屋に戻って寝直そうとしても目がさえて寝付けない
(あ~もう~二度寝なんてできない。今日は天気も良さそうだから森に行こうと思っていたのに! 計画が台無し! 殿下ってどうして私の邪魔ばかりするんだろ! 嫌がらせにもほどがある。ああ~イライラする)
シャナーはしばらく悶々としていたが、ふと部屋の床一面に敷き詰めて乾燥している草に視線を移してある考えがひらめいた。
(そうだ! この間収穫したククルの実、おばあ様に送ろうと思っていたけど、あれって確かジャムにするとおいしいんだった。そろそろ熟してるころだから、種だけ収穫して実は食べようかと思っていてたけど、保存用に作ろうかな。まだ、厨房は使っていないだろうから、今から煮込めば朝食の準備が開始される前に煮込み終わるかもしれない)
そうひらめくと今度はワクワクが沸き上がってきた。
シャナーは飛び起きて部屋の端の床に広げているククルの実を取り出すと、自分用の調味料棚から砂糖を取り出すと部屋をそっとぬけ出し厨房に向かった。
(この間、おばあ様への荷物を送る時に殿下のおつきで都の配達屋に立ち寄ったついでに買っておいてよかった。この国は便利よね。配達屋なんて便利な店があるんだものね。あの横が何でも屋で私が欲しい調味料も品数豊富で安かったし、送料も隣の国なのに、簡単に送れたし、そういう所ではこの国のシステムはきちんとされているみたいなのよね。国王様がしっかり統治なさっているからかしら)
シャナーはご機嫌で厨房に向かった。
その頃、隣の部屋のラファイルの部屋では、ベッドに入り本を読んでいたラファイルが再び起き出したシャナーの気配に起き出してきて様子をうかがっている姿があった。
「あいつ、また行く気じゃないのか? 今日は森は危険だってのに」
そうブツブツ言いながらそっと部屋をのぞくと、何やら森へ行くつもりはないようだ。
「あのかっこは調理をする時の格好じゃないか。さては朝食を作るつもりか?」
そういうと気づかれずにまた懲りずにシャナーの後を付けるラファイルの姿があった。
もちろんその後ろをこれまた気づかれずに護衛するアンドレアの姿もあるのだった。
当のシャナーはというと、再び後を付けられて監視されているとはまったく気付いていない
「おや、カミール今日はずいぶん早いね。殿下がもう起きたのかい?」
シャナーが厨房でジャムを煮込んでそろそろ完成が近づいていた頃、ようやく厨房に料理長が入ってきた。
「おはようございますカシスさん、殿下はまだです。あの勝手に使わせてもらってます」
「ああかまわないさ、それならこんな朝っぱらから何を作っているんだい?」
「ククルの実のジャムです」
シャナーはのぞき込んでいる料理長のカシスに鍋の中身を見せながら言った。
「ほほ~ククルの実でジャムなんかできるのかい? ククルといえばロケリア国原産だったね」
「はい、ロケリアでしか取れない貴重なものなんですけど、あの森でも発見したんです。庭師のギーゴさんにも確認してもらったんです。毒はないって、ククルと同じ種類だから、鳥かなんかが運んできたんだろうって、でもあの森で育つうえで、特別に進化したみたいですごく実が大きくて甘いんです。ロケリア産では果実の部分は小さくて中の実はほとんど種だから実は食べないでククルの果実の中にある大きな種のみを取り出してそれを粉砕して薬草に混ぜると苦味を抑える効能があるんです。ククルにも色んな種類がありますから、食用じゃない種もありますけど、これは食べられる種類でその種類の中でも極上で実も大きいからそのままでもおいしいですけど、ジャムにするとすごくおいしくなるんじゃないかと思いまして。保存もききますしね」
「どれ味見をさせてもらってもいいかな」
「はい」
シャナーはほぼ完成に近いククルジャムをスプーンで少し取り分けると、料理長に差し出した。後で味をしてもらうつもりではいたからだ。
「うん、これは絶品だね。でもカミール、森に行くのはいいけど、今日みたいな朝は行くのはやめておく方がいいよ」
「どうしてですか?」
「カミールは知らないかも知れないけどね。初夏になると、あの森は朝、霧がよく発生することが多いんだよ。特に昨日は雨だっただろう。今朝見たいにすごく晴れた日の前日が雨だったりするとね。こんな日に夜明け前の森の中に入ってしまうとしばらく迷ってでてこれなくなるからね。カ゚ミールは森の中に平気で入っているみたいだけど、あの森はいわくつきだから気をつけるんだよ。まあ、そんなに危険はないと思うけどね」
「そっそうだったんですね。気をつけます」
シャナーはそう言った後、ふと今朝のラファイルの事を思い出した。
(殿下、もしかしたらそのことを私に伝えようとして慌てて追いかけてきてくれたのかな…まさか)
殿下に思いっきりののしってしまった事を少し後悔するシャナーだった。
その様子を厨房の扉のすき間からのぞいていたラファイルの顔がほころんでいるのをシャナーは気付くはずもなく、少し殿下に対するシャナーの好感度がプラスされたのだった。
「殿下、珍しく早いじゃないか。そんな所で何をしているんだ?」
ラファイルが振り向くとそこにはたくさんの書類を持ったラースが立っていた。
「なんだお前か、驚かすなよ」
「それはこっちのセリフだ。寝起きの悪い殿下がこんな所で何をしているんだ?」
「何って、可愛いカミールの観察だよ」
「殿下、愛情が完全に空回りしてるぞ。あいつにこれ以上嫌われて辞められたら、それこそお前の世話係になる人間が一人もいなくなるぞ、カミールはお前の変態ぶりにもめげずに続いている貴重な存在なんだからな、これ以上僕の仕事量を増やさないでくれ」
「お前もたいがい失礼な奴だな。僕は変態ではない、最近は自分のことは自分でしているだろ。お前が採用する世話係が根性がないだけじゃないか。まあ、カミールは別だけどな、今朝のあの真っ赤になって怒った顔もまた可愛かったしな。さて二度寝するかな。ふあ~、眠い」
「殿下!もうすぐ朝食の時間ですよ、その後は今日も公務で忙しいんですよ!」
「今日はパス。朝から全力疾走したからな。もう一日分の体力を消耗したから無理だ」
「はあ?! いい加減にしろよ。こら! 聞いているのかラファイル!」
早朝のラファイル館、本日の被害者はラース・ビルモントに決定した。