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あれが殿下?最悪だ!

当初はラファイル殿下の世話係が十名同時に採用されていた。それぞれ分担が決められて、二名ずつそれぞれの仕事をこなすことになっていた。これなら自分の時間もとれると一人ほくそえんでいたシャナーだったが、三日で九人が辞めてしまったのだ。


原因はもちろんラファイル殿下の変態ぶりだった。何もしない殿下の世話をするには十六歳のおぼっちゃま達には無理というものだ。おかげで一人残ったシャナーには、前金以外にも十日に一度、特別手当を支給されることに決まり、その手当が実際のシャナーの小遣いとなった。


シャナーはここにきてからの三ケ月の間、この王宮内でみつけた貴重な薬草を祖母に送るための輸送代金にあてていた為、特別手当と薬草の積み放題は殿下のお世話分を差し引いてもおつりがくるくらいだった。



シャナーはここに父親であるヒューダ・ラベリーに連れられて、王宮に初めて来た日、あまりの広大な敷地に言葉をなくすほどだった。

無理もない、このファーマーズ王国の首都であるグリーンベアはラムリア大陸の西の端にあり、王が住む居住地には大きな湖や広大な森もあり、王族専用の牧場まであり、ほとんどの主な食材は自給自足で賄われているほどだった。王族がいる居住地は北側以外は全て海に面しており、海岸から敵の侵攻は断崖絶壁で不可能であり、北側には王都グリーベアとを遮断する巨大な壁が何キロにも渡って建てられていて、24時間体制で侵入者を防ぐために監視の騎士たちが見回りをしていた。


万が一高い塀を超えられたとしても目の前に広がるうっそうと茂っている迷いの森の異名がある深い森は迷路のようにいりくみ、初めて馬車で王宮に行くものは必ず迷い入り口に戻ってしまうと言われているぐらい鉄壁の要塞と化していたのだ。しかし、シャナーはその森を初めて馬車で通過する途中、窓から顔をだして興奮したように叫んだ。


「お父様!あれは貴重種のビアの木ですわ。すごいあれはシャロアの実すごい、すごい」


興奮しきりのシャナーを険しい表情でいさめる父親の声はもはやシャナーの耳には聞こえてこなかった。森を抜けるまで興奮しきりのシャナーの目に森を抜け飛び込んできたのは巨大な宮殿だった。グリーンベアの王都からは宮殿の屋根部分しか見ることができず、めったに王都にくる機会のなかったシャナーにとってはまさに夢の宮殿のようだった。隣国ロケリア国の王宮もかなりの豪華さだが、この王宮はまさに群を抜いているように思えた。


「ねえお父様、あれが私がお仕えする王子様が住む宮殿なのですか?」

「いや、聞くところによると、王子はあそこには住んでいないようだ」

「えっ?そうなのですか?」

「ああ、わしも詳しくは聞かされてはおらん」


「なんだ残念、でもあそこから森まではかなり距離がありそうだし、どうせなら森に近い所がいいな」


シャナーは森を抜けると広がる草原とその後方には海が広がっていた。それを背にそびえる王宮とその周辺に点在している多くの建物に視線を向けながら独り言をブツブツつぶやいた。


「いいかシャナー、ここはロベリアのおばあ様の家ではないのだから、くれぐれもボロをださないようにしてくれよ。我が家の存続がかかっているのだからな」


ヒューダ・ラベリーは一物の不安を覚えずにはいられなかった。女であるとバレるという不安というより、また別の不安が胸をよぎるのであった。


「よいかシャナー、いやカミール、お前は今からカミールだ。カミールはそのようにはしゃいだりはしないぞ、腹が立っても手を出してはならぬぞ]


ヒューダ・ラベリーは娘がかなりの腕の立つ格闘家だということを知っていた。彼の妻の実母がそうであったからだ。薬草使いとしてかなり有名なのだが、ヒューダ・ラベリー自身もこの歳になっても義母と会うと緊張するほどだった。その祖母に十歳から育てられたのだ、見た目ははか弱そうに見えるが、平気で我が家の用心棒をけり倒す力を持ち合わせていた。それに比べて、兄のカミールは物静かで時間があれば読書を楽しみ大声など出しているのを聞いたこともないほどおとなしい性格だった。幼い頃から病弱というのもあるだろうが、見た目は鏡のようにそっくりだが、シャナーの方が生気がみなぎっているようだった。


「まったく、神はどこでお間違えになったのやら」


ヒューダ・ラベリーは胃の辺りがキリキリ痛むのを手で押さえて、不安をおし殺そうとしていた。その不安が的中することになろうとはこの時の彼には思いもしなかった。


シャナーをのせたラベリー家の馬車が王宮に到着すると、既にほか世話係として仕えることになる新人たちとその親の馬車が到着しており、王とこれから世話係としてお仕えする王子と初めて謁見する順番待ちをしていた。そしてようやくその時がきた。緊張していたシャナーに王座に座っている国王が気さくに父親であるヒューダ・ラベリーに話しかけてきた。


「よく来たなラベリー、久しいの」


「陛下、お元気そうで何よりでございます。こちらが息子のカミールでございます。誰かの世話など致したことのない不出来な息子ですので、殿下のご迷惑にならないように十分言いきかせてまいりましたので、これを機会にご指導のほどよろしくお願いいたします」


ヒューダは下を向いたまま答えた。


「いやいや、面接官に聞いておるぞ、すごい博学だというではないか。身の回りの世話と言っても、ようは話し相手だ。カミールも気軽に相手をしてやってくれ」


「はい、よろしくお願いいたします。あの、こちらで働かせていただくにあたり陛下に一つお願いがございます」


突然の言葉に隣で下を向いていたヒューダは慌ててシャナーの方をみて言い咎めたが、時既に遅く、シャナーは堂々と前を見据えて、目の前の王座に座っている国王に面と向かって顔を上げていた。


「ほほ~、かなり度胸も座っているようだな。そのぐらいでなければ息子の世話係はつとまらまい、よい、何でも申してみよ」


「こっこれ辞めないか、頭をさげろ馬鹿者」


ヒューダはシャナーの頭を抑え込みながら自分も頭を床に着ける勢いで頭を再び下げた。


「痛いよ父上」

「お前という奴は」


「よいよい、カミールとか申したな、わしに出来ることなら言うてみよ。遠慮はいらぬぞ」


その言葉にシャナーは自分の頭を押さえている父親の手をどけながら、顔を上げてまっすぐに王の顔を見据えながら言った。


「私に森での植物の採取の許可をお許しいただけませんか?」

「植物とな?」


「はい!私は将来は薬草使いを仕事にと考えております。こにくる途中に通りました森には貴重な植物がたくさん自生しているのを見かけました。研究の為に少しずつの採取をさせていただきたいのですが」


「ほほ~薬草使いを目指しておるのか? 師匠はおるのか?」


「はい、いえ、研究と言いましても本で得た知識ばかりですが、今まであまり外の世界の経験がございませんので、これを気に実際にこの目で見て効能を試したいと思いまして」


シャナーはすんでの所で師匠がいると言いそうになるのを我慢した。なぜなら今の自分は、長年病弱で病気療養していたカミールなのだ。祖母の話をしてしまうとつじつまが合わなくなってしまうからだ。


「そうか、勉強熱心な事はよいことだ。よかろう。栽培している食料以外ならわしの敷地内で自生している植物を研究の為に摘み取ることを許可してやろう」


そういうなり、横に控えていた側近に紙と筆を用意させ、植物採取の許可証をその場で書き手渡してくれたのだ。


「何か言われたらそれを見せるがよいぞ。珍しいものを発見したらわしにも知らせてくれ」

「はい!」


シャナーはその紙を大切に折り曲げ懐にしまいこんだ。


「陛下、息子のわがままをお許しくださりありがとうございます」


「いや、薬草使いは貴重な存在の職業だ、学ぼうとする意欲はいい事だ。ラファイル、お前も見習え」


そういうと、隣で無表情で一言も発しない息子に向かって言った。どうやら興味が無さそうだった。

だが、シャナー自身には興味があるのか、じっとシャナーの顔ばかり見入っていた。


「お前も何か言いたいことがあるのか?」

「君は本当にカミールか?」

「えっ?」


シャナーは思わず声を出してしまった。慌てて返事を返した。


「はっはい、正真正銘カミールですが、どうしてそのようなことをおっしゃるのでしょうか?」


「いや、僕の思い過ごしならいいんだ。お前とは昔会ったことがある気がしたのだが、よく考えてみたら、お前は長い間病気治療もかねて保養地にいたらしいから、母上がいる保養所と同じだったのかもしれないな。そこなら数回行ったことがあるから見かけただけかもしれない。まっ、たいしたことではないな。いいか、僕はお前がどんな人間かしらないけど、僕のやりたいようにするからな。絶対服従だぞ!」


「はい、よろしくお願いいたします」


シャナーはそれだけいうのが精一杯だった。しかし、心の中では不安が増していた。

その後は、はい、いいえの返事のみで返答を返した。

だが、一瞬みたシャナーの王子の印象は最悪なものになった。


偏見を持っているわけではないが、いかにも全く運動をしていないことを容易に想像できる肉付きのいい体系と、人を見下すかのような発言はシャナーが最も忌み嫌う人種だったからだ。


シャナーの生家は確かに裕福で、何不自由のない生活を送っているが、祖母との生活はほぼ自給自足の生活だった。

自分の事は自分でする生活が身についている為か、全て他人任せにして指図する人間に対しては無意識に拒否反応をしめしてしまうのだ。


この時感じたシャナーにとって試練の一年となりそうだという予感は的中することになるのだった。

そして、対するラファイル王子もまた然りであった。

そうしてラファイルとの生活がスタートしたのであった。


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