休日はカレーを食べよう
早朝。
むくりと起きた私はお布団から抜け出し、洗濯機にぽいぽいと服や下着を入れて、スイッチを押す。
「本日は晴天なり」
私の呟きに、光の精霊がこくこく頷いている。あとで布団も干すことにしようかなと思いながら、再びベッドに戻り布団の中へ滑り込む。
飛び込みの選手も真っ青な、素晴らしいダイブであった。うむ。
すると、素晴らしい上腕二頭筋をもつ腕に抱え込まれる。ふぉぉ、よきかほり、くんかくんか。
「二度寝かな?」
「うぃ、むっしゅ」
「朝ごはん、甘いのと塩っぱいの、どっち?」
「しょっぱ甘いの」
「了解」
どっちかにしても良かったんだけど、何だか今日は両方楽しみたい気分だった。
朝ごはんを作るために離れてしまった寂しさを、枕に付いている拓人さんの匂いで誤魔化す。うとうとしていると「ご飯できたよー」の声が。
むくりと(二回目)起きた私は、リビングにいる拓人さんのもとへと向かう。
「おはござます」
「おはようりっちゃん。パンケーキとカリカリベーコンとチーズオムレツにしたよ」
「神様拓人様旦那様に感謝です。いつもありがとうございます」
「どういたしまして。俺も愛らしいりっちゃんと出会えたことに、毎日神様に感謝しているよ」
「拓人さん!」
「りっちゃん!」
「朝ごはん冷めちゃうね!」
「イチャイチャはデザートにしておこうね!」
本当に休日というものは素晴らしい。普段は味わえないデザートも、しっかりと堪能できるのだから。
拓人さんの目が野獣のようにギラギラしていたとしても、嬉しいことには変わりはないのだ。はぁ、普段は温厚なのに、たまにワイルドになる拓人さんも素敵……。
ブラックで飲めない私のために、カフェオレを出してくれる拓人さん。我が夫ながら、気遣いのスキルが天元突破してらっしゃる。
ほんのり甘いパンケーキと付け合わせの塩加減を堪能して、カットフルーツと野菜ジュースで元気をチャージ。
休みの日はしっかり朝食を食べたい派なのだ。
精霊たちは、拓人さんと私が何かをするたびに、お手伝いしてくれたりモフモフついてきたりしていて可愛い。癒される。
そんな日常風景を見ていて、ふと思う。
「拓人さん、精霊さんたち働きすぎじゃないですか?」
「え? そうかな?」
「そうですよ。拓人さんの得た『精霊魔法(小)』があるとはいえ、この世界にきてから私まで花粉除去してもらってたりしてますし」
「うーん、でも、俺やりっちゃんが頼むと嬉しそうに手伝ってくれているけど。ねぇ?」
拓人さんの言葉に、慌てて頷くモフモフたち。
いや、そりゃ拓人さんは異世界で頑張ったからいいですけど、私はぶっちゃけ関係ないわけでして。
「ちょっと、精霊さんたちには、お仕事お休みしてもらいましょう」
「いやいやりっちゃん、それは勘弁してあげて」
慌てる拓人さん。ふと足元を見れば「捨てないで!」といわんばかりにしがみつくモフモフたち。
なぜか黒ちゃんが寝たままなのに私の服にしがみついているし、白ちゃんは「いやいやーん!」と駄々をこねている。おふぅ、カオス。
「ご、ごめん! そういう意味じゃなくて! 解雇とかじゃなくて!」
「ほら、お前たち落ち着いて。りっちゃんは捨てたりしないから」
拓人さんの言葉に、ワンニャーピィキューと何事かを訴えていたモフモフたちは落ち着いてくれた。精霊たちに向ける言葉には気をつけよう。
「あのね。慰労会をしようかと思うの」
「慰労会?」
「精霊たちも一緒に、みんなで楽しめるような」
「んー、俺たちなら美味しいお酒と食べ物とかだけど……。いや、精霊も食べようと思えば食べれるからいいのか?」
「うん。たまにお菓子とか食べてるから、やってみようかなって思ったの。それでね、今日は私のカレーを作ろうと思うんだけど」
「りっちゃんカレー!?」
とうとつに拓人さんのテンションがアゲアゲになったことに、モフモフたちは驚いている。
そう、拓人さんが異世界から帰って?きてから、まだカレーを作っていない。
拓人さんが作れないわけではないけれど、この家では、カレーに限り私の作る料理と決まっているのだ。(ばばばーん!)
「それで? なんで君たちがいるのかな?」
「すみません。勇者様の奥様にお呼ばれされまして……」
「自分もあつかましいとは思ったのですが、奥様がぜひとおっしゃるので……」
珍しくおこっている拓人さん。
玄関には異世界の聖女(本物のほう)と、男性神官さんが来ていた。
「いらっしゃい! どうぞ、あがってあがって!」
「りっちゃん!」
「だって、かわいそうじゃない。あっちの世界で魔力をいっぱいためないと帰れないとか」
「そんなの自業自得じゃないか」
「でもほら、あのアホ女神のせいなんだから、許してやりなよ」
現在、空き室だった隣には住人が入っている。
なんとそれは、ラブラブな聖女と神官のカップルだった。(出身地は異世界)
「腐っても女神だったから、何度送り返されても、この世界にくることができました。今はほとんど力もなくて……」
聖女ちゃんがションボリしている。言うなれば、彼女も被害者みたいなものだ。
当事者だった拓人さんには申し訳ないけれど、あの『痴女モード』については、同じ女性として同情を禁じ得ない。
じーっと悲しげに見てたら、拓人さんは根負けした。
「おい、お前らは罰として、おかわり厳禁だからな! ぜったいだからな!」
男らしく言い放つ拓人さんだけど、もしかしてカレーの配分が減るのが嫌だっただけとか……。いやまさか、そんなことはないよね? ね?
「りっちゃんの愛情たっぷり詰まったカレーは、本当は俺だけのものなんだからな!」
気づいて。
キリッとしてて、めちゃくちゃ格好いい拓人さんだけど、言ってることは幼児レベルだよ?
お読みいただき、ありがとうございます。