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それはまさに大迷惑

途中、少しだけ視点が変わります。



 肌があらわになるような、薄衣のみを身にまとう痴……聖女。

 襲ってくる暴漢たちから逃げようと、彼女は必死にあらがう。


「ねぇ、アレ、本当に助けなくて大丈夫なの?」


「大丈夫だよ、りっちゃん。あの人はそう簡単に襲われたりしないから」


「拓人さんが大丈夫って言うならいいんだけど」


 私たちは二階のベランダで、異世界からきた聖女?とかいう人が襲われているのを見ている。

 なんなら、ワインを一本空ける勢いで飲んでたりもする。


「ほら、あの世界って、たくましくないと生きていけないからね。女性でも体術くらいは極めていないと」


「うーん、私はすぐ死にそう」


「りっちゃんは俺が守るから、絶対に死なないよ。大丈夫」


「拓人さん、好き」


「俺も好きだよ。りっちゃん、結婚して」


「はい! よろしくお願いします!」


 見つめ合う目と目。拓人さんの糸目が少しだけ開いて、私を熱く見ているのが心地よい。

 ここはいっちょ夫婦の絆を確かめ合おうか、と思ったその時。


「いい加減にしてください!」


 えー、今いいところだったんですけどー。

 拓人さんは聞こえなかったのか、私の色々なところを撫でている。なんならつむじのところをチュッチュしたりしててくすぐった嬉しい。


「タクト様!」


 呼ばれてるよ? と拓人さんを見上げたら「あざとい上目遣いりっちゃんも可愛い。好き」と言われてまたしてもチュッチュとされる。

 嬉しいけど、なんか下から殺気が……。


「黒、緑」


『……やれやれ』


『……ピィ』


 拓人さんの背中から黒い羽根を出した三等身のイケメンが、ベランダの下で起こっている騒ぎを闇に隠してしまった。

 何かが騒いでいる気配がするけど、風の精霊が音を遮断したから静かになっている。


「あ、黒ちゃんの声、初めて聞いたかも」


「そうだったの? ねぇ、それよりもさ……」


「あの人は?」


「ご近所迷惑だから、静かにしておいたから大丈夫」


 えっと、そういうことじゃないんだけど?

 反論をしようとした私は、風の精霊じゃなく拓人さんの唇でふさがれ、静かになりましたとさ。


『……やれやれ』


『……ピィ』


 どこかから呆れている声が聞こえたような、長い夜でした。まる。







 りっちゃんは、可愛い。

 初めて彼女と会ったのは、大学の頃、家庭教師のバイトをしていた時だった。


 最初に否定しておくが、俺はロリコンではない。

 あの頃、りっちゃんと同年代の女の子を見ても、俺はピクリともせず無反応だったから。


 りっちゃんは自分を「普通」だと言うけれど、そもそも普通とはなんだという話だ。

 勉強は苦手と言いながら頭の回転は早く、年の離れた人間相手でも楽しく会話ができる。口下手な俺が、りっちゃんのご両親から「話し上手」だと思われていたくらいに、言葉を引き出すのが上手い。

 そして、誰もが認める可愛さがある。

 彼女だけは「可愛いのは拓人さんだから。私じゃないから」などと訳の分からない反論をするが、その都度、彼女の体にしっかりじっくりと可愛さを教えてやっている。元家庭教師として、当然のことだ。これからもやっていこうと思う。


 話がそれた。


 とにかく、りっちゃんは可愛い。

 異世界から来た聖女だか性女だか分からん存在を、心配そうに見ている表情も愛らしい。

 だがしかし、俺じゃない誰かに心を向けている現状はおもしろくない。

 

「黒、緑」


『ここでは目隠しするくらいしか出来ないぞ。やれやれ』


『音を消すようにするっピィ』


 あのチャラい男どもは、それだけやれば逃げ出すだろう。

 問題はアレな女だ。


『かるい呪いなら、この世界でもかけられるな。まったく世話のかかる……やれやれ』


『ダメ。ご主人、もう聞いてないっピィ』


 精霊たちが何かを言っているけど、俺はりっちゃんを愛でるのに忙しい。抱きつぶしてしまったから、明日の朝にでも回復魔法かけとこうかな。ふふふ、ヨダレたれてる寝顔も可愛い。

 とりいそぎ精霊たち、夫婦の時間を邪魔する存在は家に近づけないってことで。よろ。







「困りますよ先生。引っ越したならそう言ってくれないとー」


「してない」


「え? じゃあ、僕はなぜ迷ったんです?」


「知らない」


 嘘だ。

 拓人さんが何かしたに違いない。しれっと言っちゃう彼のお茶目なところも可愛いなと思っていたら、出版社からきた若い男性編集者さんは大きく息を吐いた。


「まぁ、いいんですけど。それで、打ち合わせはできそうですか?」


「一時間」


「わかりました。要点だけやり取りして、あとはメール送りますね」


 塩対応な拓人さんに文句を言うでもなく、サクサクと進めていく編集者さん。

 できれば私も挨拶したいのだけど、男性客が来ているときは部屋から出たらダメって言われている。

 そのことも分かっているのか、私が家にいるときは長居しないって拓人さんが珍しく「アレは出来る男だ」と褒めていたっけ。

 いつも夫が御迷惑をおかけしております。


『ひとりだけとか、むりなの』


 私の肩に座っている、背中に白い羽根をつけた三等身の美女?が呟く。

 黒い子と違って、白い髪と白い服を着ている光の精霊は、私とたくさん話してくれる。

 ぷくぷくのほっぺが可愛い。


「ひとりだけって、何?」


『ここにくるぜんぶを、めくらましするのはできるけど、ひとりだけとか、むりなの』


「拓人さんが無理を言ったの? ごめんね」


『ひつようだから、しょうがないの』


 そっか。たぶん、あの異世界からきたバインバイン女絡みなんだろうな。

 このまま放っておくわけにもいかないよね。

 さて、どうしてくれようか。(ポキポキ指を鳴らしながら)




お読みいただき、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] そうね、結界に識別機能付けるのは難しいよね。 光の精霊ちゃん、よく頑張ったよ、えらい。 [気になる点] 旦那さん、いくら回復魔法あってもそれは(笑) あー風の精霊が防音してくれるから、いい…
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