精霊のいる生活
皆様のおかげで、ジャンル別の日間ランキングに載れましたー!
ヒューマンドラマ……で、いいのでしょうか?(毎度のジャンル迷子w)
ありがとうございます!
『クゥーン』
『キュッ』
「ただいまー、いい子にしてたか?」
玄関のドアを開けたら、赤と黄色の毛玉が拓人さんに飛びついてくる。ひとしきり撫でてもらうと、今度は私に飛びついてくる。かわいい。
真っ赤な毛並みの仔犬は火の精霊で、黄色のハムスターは土の精霊だ。
「ただいま、お留守番ありがとうね」
『ワウッ』
『キューッ』
拓人さんが異世界から連れてきた精霊たちは、私にも懐いてくれている。
なぜかと聞いたら、私にも拓人さんと同じ精霊が好む「匂い」みたいなものがあるらしい。
体臭? 加齢臭にはまだ早いよね?
「りっちゃん、黄のみてたトマトが甘くなったって」
「わぁ、嬉しい! ありがとう!」
黄色のハムスターをふにふに撫でていると、横から赤毛の仔犬が頭突きしてくる。可愛い。
「りっちゃん、赤は煮込みハンバーグを温めてくれたから」
「大好物だから嬉しいよ! ありがとう!」
頭突きしてくる頭を手のひらで受けとめると、うりうりと撫でてやった。きゅるーんって可愛い鳴き声が出ちゃってる。可愛い。
「まだお腹すいてる?」
「もちろん! 急なお誘いだったからビールを少し飲んだだけで、ご飯食べてないんだよ」
「食べても良かったのに」
「夕飯が煮込みハンバーグだと分かっているのに、外でご飯食べるとかあり得ないでしょ!」
拓人さんは料理がとても上手だ。
拓人さんのご飯はすごく美味しい。
拓人さんは、きっといいお婿さんになれる。
もちろん! 私のものだけどね!
あげないよ!
「あ、夜だから黒が起きてるよ。居間に出てくるなんて、珍しいな」
そう言った拓人さんは、テレビの前にいる黒い物体を手に取った。
よく見ればそれは、長い黒髪を持つ三等身のイケメン?だ。
背中には黒い羽根があって、堕天使みたいでかっこかわいい。かっこかわいい。(大事なことなので2回言った)
闇の精霊は人型だから、人の言葉を話すことができる。
私は彼?が話すのを聞いたことがないけれど、夜になると出てくる闇の精霊と拓人さんが、楽しそうに会話をしているところを見たことがある。可愛いけど悔しい。
楽しそうだった拓人さんが、みるみる険しい顔になる。
温厚な彼が怒るなんて珍しいかも。
「どうしたの? 問題?」
「異世界から、誰かがここに来るらしい」
「え? なんで?」
「知らない。ちゃんと言われたとおり世界を救ったし、やるべきことはやったつもりだけど」
「やるべきことって……そもそも世界を救うのは、拓人さんがやることじゃないでしょ? 私の大事な拓人さんに……異世界のやつらめ……」
「ふふ、そうやって怒ってくれるりっちゃん、好きだよ」
「ふぁっ!? そ、そそ、そそそんなこと言っても、ダメだから! 私のほうが、もっともっと拓人さんのことが好きなんだから!」
「はぁ、どうしよう、俺の嫁が可愛すぎてホントどうしよう」
おいしい煮込みハンバーグを食べながら、とっておきの赤ワインを開けてもらってご満悦な私。
闇の精霊が教えてくれたのは、どうやら拓人さんを呼び出した「異世界の人」が、こっちの世界に来てしまう……らしい。
そんなことになったら面倒なので、パス&スルーできる術式を拓人さんが構築しているとのことだ。
ナニをドウするのかは分からないけど、きっとうまいことするんだろう。たぶん。
「でも、拓人さんを利用した人たちがここに来たら、私だってどうなるかわからないよ?」
「りっちゃん、男前だね。好きだよ」
細い目をさらに細くして微笑む拓人さんは、全身で私に「好きだ」と言ってくれているようだ。
これほどまでの愛に応えないなんて、私の男?がすたるってもんだ。
「私だって、拓人さんのこと大好きだし、愛してる」
「うん。知ってる」
「忘れないで」
「忘れるわけがないよ。ずっと、永遠に、愛を誓うよ」
そう言って拓人さんは私の手を取り、指先にキスをしてくれた。
闇夜に浮かび上がる光の紋様。
幾何学模様の魔法陣をまとって現れたのは、白を基調とした薄絹を身にまとう、見目麗しい女性だ。
「ここが、タクト様がいらっしゃる世界……ここには魔物は存在しないとのことですから、まずはタクト様の居場所を特定しましょうか」
ぷるりとした艶やかな唇を動かし、魔力をこめた呪文を唱えるが何事も起こらない。
「魔法が、発動しない?」
この世界において、異世界の魔法を使えると思っているところに、この女性の浅はかさが分かるだろう。
そして、彼女の言う『魔物』は存在しなくとも、『魔物のような人間』は存在するのだ。
「なんだこの女」
「うわ、露出しすぎだろ。やべぇ」
「なに? 俺らと遊んでほしいの?」
「何ですかあなた達は! 近寄らないで!」
外国のモデルのような凹凸のある体は、面積の少ない薄い布地では隠しきれていない。
治安のいい国とはいえ、その豊満なホルスタイン級のものを見せつけていれば、悪い輩に寄ってこいと言っているようなものだ。
「いーことしよ。きっと楽しいよ」
「いやです! 誰か! 誰か助けてください!」
悲痛な叫びが、夜の闇へと響いている。
麗しの乙女、聖女と呼ばれた女性を助けるのは……。
「えー、俺、嫌なんだけど」
「でも助けないと、あの人が襲われちゃうよ?」
「自業自得」
「拓人さんったら……」
温厚な拓人さんにここまで嫌われるって、あの豊満聖女さんったら何をしでかしたのかな?
やれやれだねぇ。
お読みいただき、ありがとうございます。