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愛しき貴女だけを



 拝啓 愛しの貴女へ




 お元気ですか?

 お変わりなく、貴女は貴女らしく過ごせておられるのでしょうか。


 私が貴女の世界での生を手放してから、もう、十八年もの時が流れてしまいました。

 こちらの世界と貴女の世界とでの時の流れがどれほど違うのかすらもまだ判明しておりませんが、もしも同じならば、貴女の身体的年齢はとうの昔に今の私を超えていることになります。

 ふふっ、精神はまだ、私の方が兄ですが。


 こちらの世界も、所詮は貴女のいる世界と同じ空気でした。

 唯一私を私として見てくださった貴女と同じ人がいるとは思ってもいませんでしたが、私が貴女が熱中しておられたゲームとは異なる髪色をしていたことから、同じく髪色の違う悪役令嬢に多少なりとも見た目とは相反した精神年齢を有しているのではと考えていた頃もありました。

 もっとも悪役令嬢は単なる悪役令嬢でしたが。

 それでも未だかの令嬢のことを頭の片隅で覚えているのは、十年以上前に彼女が取った、およそ悪役令嬢らしからぬ行動と、その時の瞳の輝きにどこか貴女を彷彿とさせるような負けんじを見出したからでしょう。


 ですが、貴女は地球の上で生きているはず。

 貴女だけは私の行った全ての行動に対し結果の出なかった存在でもありますが、それでも私が貴女を守ろうと命を賭けたのです。

 せめて最期だけは、たった一つ最期の願いだけは実っていて欲しいと願うばかりです。

 貴女以外の全てが誉め称える程の才能などよりも、ずっとずっと、貴女が今も生きている事の方が重要ですから。

 でなければ、私の計画が根底から崩れてしまう。


 私の『叶えたい事』は貴女に再び相見え、私の想いを言葉に乗せて伝える事。

 だからこそ貴女のいない今世を色褪せることなく生きてこれました。


 貴女だけが、貴女だけが! 私の、唯一なのです。


 ですからどうか、どうか。




 ――――ここまでつらつらと文字を紙に書き連ね、私は溜め息を吐きました。


 いけませんね。貴女に会った時に渡す手紙を書こうと筆を取りましたのに、私の今の感情をそのままに吐露してしまいました。

 きっと私の精神が悲鳴を上げているのでしょう。前世では幾らでもあった貴女との時間が、今はどうにも愛おしく思えてしまいます。

 貴女との距離を詰める事に気をかまけ死んでしまった前世を反省し、今世の生では時間を無駄にせず貴女に率直な想いを述べると決めました。

 もっとも、貴女に会えるかどうかすら、まだ分かってはおりませんが。


 あぁ。

 貴女に会いたい。

 今直ぐに会いたい。


 勇者としての最終試練での試練官に世界を超える方法を聞くも、はぐらかされて無理矢理現実世界に送還されてしまいました。

 ……貴女のいないこの世界が現実で無ければ良いのに。


 さっさと国王となり、貴女へ会いに行くための世界を超える方法を探らなければならないのに、聖女候補である悪役令嬢の妹がまだ目を覚まさないとのことで私も動く事が出来ません。

 継承権も聖女と結婚をしたら移す事も考えると現国王は言っておりましたし、最短を目指すならば今を耐え忍ぶ事が必須である事も分かってはいます。


 確かに聖女の想いは私の貴女への想いと似通ったものを感じましたが、やはり貴女ではないのです。

 聖女、まだ聖女候補の彼女は、あくまで私の同類に似た存在。貴女とは違う!


 ――ああ! 貴女に惚れた瞬間に戻って、己の頬を引っ叩いてしまいたい気分です。

 ちんたら距離を詰めてからと二の足を踏んでいる場合ではないだろうと。

 貴女が同じ高校に入ると言った事をチャンスだとかニマニマしている暇なんてないだろうと。

 合格してから数ヶ月もしない内に距離を取られるようになった事は、決して高校に入って間も無いが故の精神が不安定なっているからと見守っているのは違うだろう! と。


 貴女を手に入れたいと考えているならば、率直の想いを伝える他に方法など無かったのです。

 貴女は特に、周囲からの負の感情を厭っておられましたから。

 逆に、正の感情に飢えていたはずですから。


 …………あぁぁ。

 どうも最近は頻繁に情緒不安定になりがちです。

 或いは、貴女は私を私として見ていてくださったからこそ、実は本当に身の丈の想いを口にしていれば良かったのかもしれませんが。


 時間遡行については、私の仮定と仮定に基づいた計算上ではでありますが、世界を超えるよりも大変であろうと結論が出ております。

 時間を巻き戻すにせよ、世界を超える規模での力の行使となりますし、私単体のみに限定した方が早い事は考えなくとも分かることですが、一応計算はしておきました。


 貴女の為ですし、当たり前ですね。



 ……おや?

 国王の私室の辺りが、どうにも騒がしくなったように感じるのですが。


 嫌ではありますが、一度、貴女への思考を停止させます。

 貴女へ贈るつもりで書き始めた手紙の成れ果ての紙は、私の計画の証拠が残らぬよう燃やし尽くしてから、私の部屋の扉を開けました。


 許可を得て国王に面会した時、彼の隣には神の声が聞こえるという聖長が立っておりました。

 聖女候補が目を覚ましたにしては、随分と顔色が悪いように感じます。


 ですがゲームのシナリオ通りなら、聖長が今にも倒れそうな程に震えている意味も納得できます。

 成程、そういう事ですか。


 聖長が何かを発しようと口を開いた時、国王の部屋の扉が外から打ち鳴らされました。


 続けて、聖女のクリアン=()()()()・ティオ=サタナスですと、緊迫した声が響きます。

 サルースを名乗っているという事は、彼女も最終試練に合格する事が出来たようですね。

 今の私がオディウム=()()()()=レーグルス・ヴィークトゥースであるように。


「入れ」

 国王は焦りを押し殺し言いました。

 聖女は部屋に入り軽く一礼をするなり、私に向けて息を吸います。彼女の耳元で三色のイヤリングが不安定に揺れ動きました。


「お願いします、第二王子殿下。いえ、勇者様。

 橋へ、こちらとかの大陸を結ぶ橋へ、至急お向かいください!!」



 ――ようやく、ようやく。


 貴女と再び相見える為の瞬間へ、全速力を出して行く事が出来そうです。


 そうですね、もしも貴女がありのままの言葉を望むというのなら、今の私の心情をただ書き連ねるだけの手紙でも良いのかもしれません。




 貴女だけを想って 敬具



 次話はここまでの登場人物等のまとめになります。


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