58.話すことを選んで……
《前回のあらすじ》
ウルティナは、前世の兄に対して思い違いをしていたことに気づいてしまった……!
何度か言葉を詰まらせながらも、ウルティナは話した。
転生してから掲げていた計画のこと。
理由となる前世での兄との関係。
兄は第二王子に転生していること。
そして、兄のことを知ろうともせず勝手に思い上がって今まで発言と行動をしていたこと。
洗いざらい、全部話した。
二人は時折相槌を打ちながら、話の腰を折ることなく聞いてくれた。
「――でも、もう、ここまで来てしまいましたの。あなた、クリアンを階段から突き飛ばし、セクリアに至っては人生そのものを狂わせてしまいましたの」
だから今さらどうすればいいのかが、わからない。
そうウルティナは締めくくった。
どくどく胸が鼓動している。
これは[紅の契約]のときと同じものじゃない。ウルティナの不安が作っているものだ。
「……計画、成し、遂げれば……いいんじゃ、ない……?」
クリアンが口を開こうとした隣で、セクリアが先んじて言った。
ムッと顔をしかめながらもクリアンは負けじと言葉を継ぐ。
「わたしもそう思います。考え方の問題ですよ、お姉様」
独りで抱えこんでいればほぼ確実に迷宮入りしていた悩みに、さらっと解法を提示した二人に、ウルティナはあっけらかんとして何も言えなかった。
「……ウルティナ……、ウルティナは、何が、したいの……?」
「そうですね、なにを考えるもまずはそこからですね。
お姉様自身はなにをなさりたいんですか? 前世でのお姉様のお兄様のことも、計画のことも、わたしたちのことも関係なしに」
つまり、今抱えている心のしがらみ全てを取り払って、やりたいこと。
二人から問われ、ウルティナは考える。
だがいくら考えど、出てこない。次第に強く唇を噛み締めるウルティナを見て、クリアンが助言を挟む。
「お姉様の好きなこと、ありませんか?」
好きなこと?
投げ入れられた小さな石が、一つ目の問いかけとは別の場所に波紋を作る。
「……鉱石」
数学で見るべん図のように、好きなことがやりたいことに重なる。
ああそうだ、鉱石が好きだった。いつか世界全国を探して回りたいと思うほどに、強く。
「私、この世界の鉱石を色々と見て回りたいですわ。そのすがら、鉱石で色々なものを作ってみたい」
それは、計画以外で生きる意味を見出した瞬間だった。
ですが、とウルティナは続ける。
「見て回るにしても、計画にはきちんとケジメをつけなくては――いいえ、ケジメをつけてからでないと、楽しむことはできないと思いますの」
計画にケジメをつける。
計画は、前世の兄への復讐を成し遂げるものだ。
「けど、このまま計画を成し遂げてしまったら、兄を、兄さんを、傷つけてしまいますわ」
本当にそうかどうかはわからないが、少なくとも屈辱を与えることが最終目的になっているから。
傷つけようといていることは、事実だ。
「だからといって、この場で計画をバッサリと切り捨ててしまうことも、共に目指してきたセクリアとフィーディーに顔向けできません」
だったら、どうする?
ウルティナが答えを出すのを、セクリアとクリアンは静かに見守っている。
「計画にケジメをつけるには、どちらか二つでなければ、納得できない……」
なら先ほど話すことを決めたように、リスクの少ない方を取るか?
「計画を今のまま成し遂げるのは、兄さんを傷つけて――あ、そうですわ」
だったら、計画の本筋はそのままに、計画根本の目的を変えてしまえばいいのではないか。
ウルティナの瞳に光が戻る。
「これ以上誰も傷つけることなく、全てを円満に解決する方法」
いつかセクリアが因縁の少年のことでウルティナとフィーディーが席を外し雷雨のなかで想った願い。
人を傷つけずに、生きる方法が、見つかった。
「兄さんに復讐したかったのは、結局過去の自分の行動が正しいと証明したかったからですわ。私もできるんだと見せつけて、過去の自分から逃げたかった」
だけど――もう。
「逃げるのはヤメ。過去の自分を乗り越えましょう。敵だとずっと思っていた兄さんに、ごめんなさいと言うのです」
ありがとう、とも言おう。
できない妹なのに、気にしてくれて、ありがとう、と。
最後の最後の事件のときも、庇ってくれてありがとう、と。
あり得るかはわからないけど、もしも世界を渡る方法が見つかったら、父さんや母さんにも言おう。
自分で考えていて、なんだか恥ずかしいとも感じる。
子どもの喧嘩じゃないんだから、そんなうまくいくわけないとどこかが囁いている気がする。
それでも、今まで全てにケジメをつけるには、この方法を取るのが一番だと心の底から想ったのだ。
「見つかりましたね、お姉様。今からやらなくてはならないことが。そこで追加の提案なのですが、よろしいですか?」
「えっええ、なにかしら」
ウルティナは首を捻る。
「お兄様と対面なさったとき、なにかこう、ここまでできるようになりましたの、みたいに胸を張って報告するのも良いかと思いまして。えっと、自慢話のように聞こえてしまって、お姉様のご気分を損ねてしまう可能性があるのですが」
構わないわ、とウルティナは返事する。
「わかりました。わたしが初めて魔法を使えるようになったときに、お父様とお母様に報告した際、とても喜んでくれたのです。
お話を伺った限り、お姉様のお兄様はお姉様の成長を気にかけていた様子。
(わたしが話したときはなにかに取り憑かれてたけど)」
「どうしたの?」
急にそっぽを向いてぼそぼそ言い出したクリアンに問いかける。
「い、いえ、なんでもないです。ただお兄様の今世のご様子がどうもお姉様から聞いた話と……あ、でも、もしかして……」
なんかヤバいことに気づいたかもしれない。
焚き火の灯りでもそうとわかる顔をしたクリアンは、口を引き攣らせる。
「な、なんでもないの、うん」
口調がいつもの敬語じゃない。聞いたら不味そうなことだと、なんとなく察する。
クリアンは先ほど、ウルティナへの想いを正直に全て吐露した。
だからこそ、ウルティナは、本当に大事なことを話さない、ということはないだろうと考えている。
「わかりましたわ、話を続けてくださいまし」
「は、はい。続けます。その、ですので、お姉様が前世のお姉さまよりもご成長なさっていることをお兄様の前で自慢――という言い方では語弊があるかもしれませんが、誇られても良いのではないか、と思います」
「なるほど……」
一理ある、とウルティナは考える。
「ですけど、具体的にはどうしましょう」
ウルティナの言葉に、今まで会話に入ってこなかったセクリアが口を開く。
「……あとで、考える、のは?」
「そうですわね。まずはこの最終試練に合格しなければなりませんものね」
まだ最終試練は終わっていない。心を入れ替え頑張らなくては、と意気込むウルティナ。
「……出会って、当初……ウルティナ、意気、揚々と、話してた……こと……自分、で、やって、た。……恥ずかしい」
ぼそっとセクリアの呟きが聞こえた。
「でも、誰しも……間違え、は……犯す、もの。……ん、ウルティナ、きちん、と……人、だった」
「え、えっと……?」
たしかに一番嫌いだと言っていたことをしていたことには羞恥心があるが、果たして人であったとはどういうことだろう?
「もぉ、お姉様が困った顔をしてるじゃないですか。まぁ、お姉様が凄すぎて同じ人には思えない、って気持ちはわかりますけどぉ」
どうやらクリアンも思っていたらしい。困惑でぐるぐる渦巻きそうになる頭。
けれど、最終試練の前にも一つ、やらなくてはいけないことがある。
ウルティナは涙で赤くなった目を拭って、二人の前で立ち上がる。頬をぱちんと叩いた。
「セクリア、クリアン。今まで、散々迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした」
深々と頭を下げる。
これは、計画うんぬんの前につけておかないといけないケジメだ。
「……俺も、たくさん迷惑、かけたから……」
「わたしだって、屋敷でお姉様のことを助けないとと思いながら見て見ぬフリをしていましたもん。そのときのお姉様の心労を考えれば、お姉様からかけられた迷惑なんて全然ないですって」
世間話をするかのような軽さで返答される。
今日だけじゃなく過去にも迷惑をかけてきたはずなのに。
「ありが、とう、ですわ。二人とも」
頭を上げて、ほっと一息つく。
拒まれなかった、と思う。
なんだか感じたことのない暖かい感情に、背中がむず痒くなった気がした。
「さ、お姉様。作戦を練りますよっ」
何に対する、とは聞かなくてもわかる。
「ええ、そうしましょう」
アルトゥに勝たないと計画の成就もなにも始まらないのだ。
「……でも、陽、落ちたし……」
躊躇いがちに下を向いたセクリアに、クリアンが棍棒を持って一回転回した後に突きつける。
「こういうのは、思い立ったがすぐ行動するのがいいものですよっ」
そうね、とウルティナも頷く。
なんとなく深呼吸をしてみると、変わらないはずなのに違う空気を吸いこんだ気がした。それはとても美味しいもので、計画の先に広がる未来を連想させるような広々とした爽やかさもあった。
今回で本作品、二十万字を越えました!
目標としていた十万字の二倍ですよ!!
ここまで書いてこれたのも、ひとえに読者の皆様が読んでくださっているからです。
いつも、ありがとうございますm(_ _)m
そして、完結まで残りわずかですので、ぜひ最後までお楽しみください。
(次話に挿し絵を入れる予定ですので、苦手な方はあらかじめ挿し絵をオフにしてからご覧ください)




