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54.結婚したと思われて……

《前回のあらすじ》

 ウルティナの義妹クリアンは聖女の最終試練を受けていると知る。その後自己紹介をすると、クリアンが思わぬ誤解をして……。




 セクリアは顔を真っ赤にしていた。大袈裟すぎる身振り手振りで違う違うと叫んでいる。

 そんなに騒いでいたら魔物が寄ってきますわよ、と彼の騒ぎようで逆に落ち着いたウルティナに嗜められた。


「結婚じゃないわ。[魂間契約]を結んだ際に、同じ苗字を名乗ろうと決めただけでしてよ」


「結婚よりも重かった!? そ、そんな……お姉様ぁ」


 ウルティナの説明で誤解は解けたはずなのに、クリアンは白い灰になって崩れ落ちた。

 親愛なるお姉様がお姉様がとうわ言を繰り返していた。


  親愛なる、という部分に引っかかりを覚えたものの、この話から遠ざかる方が良さそうだ。

 これからどうしますの、と真っ赤と真っ白の二人に問いかける。


「こ、これから……そうよ、クリアン。落ちこんでいる暇なんてないの。お姉様がけ、結婚、……うぅ、心にダメージが、違う違う。今はお姉様が生きてらして再開できたことに喜ばないと、そうよそうよ、ついでにわたしのことも覚えてたことをなによりも喜ばなきゃ。お姉様が死んでるなんて思ってもなかったけど」


 なにやらぶつぶつ言っていたクリアンが、勢いよく立ち上がる。

 ガシィ、と両手を握られた。


「一緒に行動させてください、お姉様。きっとお姉様のお役にも立てますから」


 言外に、もう二度と離れたくないと訴えているように感じたのは、セクリアの方だ。

 必死な様子のクリアンを見て彼も落ち着いたらしく、まだ頬に赤みは残っているものの騒ぐことはやめていた。


「……いいん、じゃ……ない、かな」


 だからウルティナにこう助言したのも、セクリアだった。

「フィーディー、抜けた……穴、……補え、る、なら……補、った、方、が……いい、かも」


 もし洞窟の最深部にいる[超級]の魔物アルトゥと戦うことになるなら、人が多い方が良いことは事実。

 あまりに実力不足なら逆かもしれないが、クリアンが[勲章持ち]で、治癒系の魔法が使えること、また彼女が棍棒を操ることに長けていることも、ウルティナは知っていた。

 治癒系の魔法は聖女候補として選抜されるくらい、棍術はウルティナよりも一段上だ。


 故に、戦闘力としては申し分ない。


「……わかりましたわ」


 本人からもお願いされている以上、クリアンが恨んでいるからという理由で断ることはできない。

 むしろ試練後にウルティナが生きていることを伝えさせないようにするのに、共に行動することは好都合だった。

 まだクリアンが本物かどうかの判断はついていないが。


 しかし、試練で自身たちの力も問われている以上、クリアンを前線で戦わせることは避けた方が良いのかもしれない。

 ウルティナはサポートのみでにしよう、と心のなかで決めた。

 彼女は人間。こちらの大陸の人ではない。

 導く力も試練で測っているかもしれないとはいえ、敵対しているに等しいものの指揮をするのは逆にいけない気がする。


 クリアンはとても嬉しそうな笑顔を浮かべた。

「やったぁ!」


「では、洞窟のなかに入りましょうか」


 山を降りてここに来た本来の目的は、アルトゥがいるかどうかを探るためだ。


「う、ん」


 セクリアは頷いた。

 クリアンの本当の想いは、まだ想像でしかないけど、それでもウルティナに気づいて欲しいと思いながら。




 洞窟は、やはり現実のものと特に変わったところはなかった。

 鉱石を集めようとすることなく、ずんずん前へと進む。

 最深部の隠蔽を解くと、広間には大きなオオカミが丸くなっていた。


「魔物です、お姉様!」


 クリアンが背の棍棒を構える。

 ウルティナはポシェットから[紅之指揮棒(ルーフス=リネア)]を取り出すと、クリアンを抑えるように右腕を横に伸ばした。


「こんにちは、師匠。あなたもこちらにいらしたのですわね」


 銀狼は顔だけをのっそりと上げた。


「なんたって、僕が試験官だからね。世界の守護者で洞窟の守護者で、試験監督でもあり、今回に限っては実際の試験官。やー、大変だ大変だ」


 まったくそうは思わせないような軽い口調で笑い声をあげる。

 クリアンは状況についていけずに困惑していた。


「……師匠、が……試験、官……」

「うん」


「つまり、師匠と戦うことが試験内容、という判断でよろしくて?」

「ま、そうだね」


 銀狼姿の[超級]の魔物アルトゥは、ゆったりとした様子で立ち上がった。


「セクリア」

「……[展開]」


 光に包まれ、彼の装いが変化する。


「臨戦態勢、ってことですね。[展開]」


 クリアンは手に持つ棍棒、彼女の[固有武器]である[黄金祈祷棍(フラーウム=プレケス)]を振り下ろす。

 パッと光が溢れ、元のふわふわとしたワンピース姿が変化する。

 ハーフアップでサイドが不安定な長さの黒髪はそのままに、首元を黄金色の四角い宝石と薄紫の立襟。

 桃紫色のレースが胸元を飾り、同じく桃紫色の、こちらはリボンを帯のようにして腰を引き締めていた。

 肩出しで七分袖のレースと、下半身は薄ピンクの真ん中で分かれたレーススカート、その下に白のストッキングを履いている。

 靴は赤茶色の革のブーツだ。


 クリアンの身長ほどある、先に複数のトゲがついた[黄金祈祷棍(フラーウム=プレケス)]を構えると、にっかり笑う。


「お姉様、わたしは準備万端です!」


 ウルティナも[紅之指揮棒(ルーフス=リネア)]を振るう。


「[展開]」


 淡い紫のワンピースが、光を経て黒を基調とした[固有武装]に変化する。


「《狂詩曲(ラプソディー)第六番『(とばり)』》」


 水色のポシェットから六匹のうさぎを取り出し、宙に放った。


「じゃあ、いくよ……っ」


 最初は咆哮だった。

 グラァアアアッ、と空気が震える。


「まずは僕を一歩でも動かしてみな!」


 挑発だ。


「セクリア、支援するからお願いですの」

「わか、った!」


 地面を蹴って、[紅魔之細剣(グラディウス)]を鞘から抜き放ち、いつもの強化魔法を唱えた。


「わたしは」

「あなたは折を見て回復をお願い」


 ウルティナも治癒系の魔法を使えなくはない――水属性の魔法の応用だ――が、クリアンは専門家。

 任せてしまった方が良いだろう。


「わかりました」


 力強く頷くクリアンの視線の先で、セクリアが一太刀入れようとする。

 アルトゥは魔力の壁を作り応戦する。


「《狂詩曲(ラプソディー)第一、二番『(ほむら)』『(さざなみ)』》」


 赤色ピュイル、青色ヒュドーを通じて蒼色の炎と超振動させた水鉄砲のようなものをいくつか生み出す。それら全てがアルトゥに襲いかかった。

 負けじと魔力の壁を作る銀狼。

 しかし極限なく襲いかかる二種類の攻撃と、不規則に来るセクリアの細剣に、次第に注意力は削がれていく。


 そして、パリン、と。


 ウルティナには及ばずとも多少は魔力を感じれるようになっていたセクリアによる、魔力の薄い壁を狙った攻撃で、ついに魔力の壁が破られる。

 銀狼は素早く後退り、細剣を避けた。


「一歩、動きましたわね」


 不敵な笑みのウルティナは指揮棒を薙ぎながら言い放った。


「修行の成果はきちんと出せてるみたいだね」


 ――じゃあ、僕も本気を出そうか。


 瞬間、アルトゥの纏う雰囲気が険悪で凶悪なものに変わる。

 クリアンが思わず後ろに下がってしまう。

 セクリアもわずかに体勢を崩す。

 ウルティナはぎゅっと指揮棒を握る手を強めた。



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