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53.義妹が現れて……

《前話のあらすじ》

 最終試練を開始し、まずは内容を探ることを決めたウルティナとセクリア。しかしいざ洞窟に入ろうとしたとき、なぜか義妹のクリアンが現れて……。




 なぜここにクリアンが、と思った。

 あるいは最終試練の一環で、亜空間のなかにクリアンが作り出されただけなのかもしれない。

 本物の精神体のクリアンがここにいる方がおかしいと、あり得ないと。ウルティナは心のなかで結論付ける。


 けれども。

 師匠アルトゥは、ウルティナとセクリア二人以外の精神体をいれることができないから、フィーディーは不参加でと説明した。

 もし擬似的なクリアンを試練の都合上で作れるのならば。

 フィーディーは、ウルティナの右手ともいえる存在。

 かの人形なしで試練を執り行うよりも、疑似で生み出して共に試練に取り組んだ方が、きっちりとした判断ができるのではないか?


 ……そう、考えると。

 視線の先にいるクリアンは試練の都合で生み出された存在ではなく。

 本物の精神体として、この亜空間に存在することになる。


 クリアンは、あちらの大陸にいる、権力者。


 ウルティナだってこっちの大陸ではそれなりに権力を持つようになったけれども。

 あちらの大陸では、既に死んでいるはずの存在。

  ウルティナの計画上、最終的にはあちらの大陸にも生きていることを知らせることにはなるが、それはあくまで最終的には、だ。


 今この段階で、もし、もしも。

 ウルティナが生きていることを、例えば義妹の婚約者である第二王子に知らされたら。



 とても恐ろしく感じた。

 駄目なのだ。

 最後の一手で、少なくとも第二王子の目の前で生きていて、かつウルティナの計画の成就を見せつけなくては。

 計画全てが崩れてしまう。

 計画根本の目的が失くなってしまう。


 だけど。

 クリアンは、ウルティナのことを恨んでいる……はず。


 虐めた。

 一度は殺そうともした。

 恨むのは、至極当然なこと。

 断罪後になぜか「屋敷へ行かせても良いのでは」と、まるで恨んでなどいないとでもいわんばかりな行動はあったけれど。

 きっと、クリアンが聖女候補としての名を上げるための行動なのだろう。

 きっと、きっと、そうに違いない。

 死の直前にまで追い詰めて、なのに恨まないなんて人。

 綺麗事ばかりの世界でもいないだろう、とウルティナは息を吸う。


 視線の先のクリアンの正体は、結局不明。

 考えただけではわからない。

 だが一つだけ、わかったことがある。

 本物の精神体であろうとなかろうと。

 クリアンの前では、常に行動に気を付けなくてはならない。


 前世で認められることがなく、今世でも()()から厭まれ続けたウルティナは、まだ、家族を知らなかった。


「お久しぶりですわね」


 何気ない様子で笑う。


「……知り、合い……?」


 セクリアから小声で問いかけられた。

 えぇ、と頷く。


「義妹ですわ」


 本当に何気ないように言いきる。


 以前に義妹のことでウルティナが涙を流していたことを知っているセクリアは、不自然さを感じとる。

 だがわざわざ義妹本人がいる前でいうのは憚られたようで、そうなんだとだけ返した。


「お久しぶりです、お姉様」


 クリアンは驚愕を表情にたたえつつ、どこか嬉しそうでもあった。

 なんとなくそう感じたウルティナは、心の奥で困惑する。けれども気のせいだと、目を逸らした。


 跳ねるように近づいてくるクリアンに問いかける。

「あなたはなぜここへ?」


「わたし、ですか? 聖女になるための最終試練です、お姉様。一週間(ウィク)ほど前に試練が始まりこの地へ来たはいいのですが、何をすれば良いのかがわからなくて。ここがどこなのかもわかりませんし、遠くへ行こうも空間が断ち切られていて行けませんし」


 ほぅ、とクリアンは息を吐く。


「でも、お姉様がいらした、ってことなら、なんとなく見当がつきました」


 決意を固め微笑むクリアンを不可解そうに、ウルティナは国を傾げる。


「聖女の最終試練と私の存在が、何か関係あって?」


 聖女といえば、他人を癒し寄り添う優しき存在。それくらいはウルティナにもわかっていた。

 同時に、ウルティナが目指すものとは違うところにいることも。


 下々へ寄り添うのではなく導き、誰よりも強く有らねばならない存在。

 それがウルティナの目指すものだった。


「あの、お姉様。再開してそうそうのお願いで申し訳ないのですが」


「なんですの?」


 クリアンはきゅっと肩を上げて言った。


「わたしと一緒に、行動してくれませんか?」


 晴天に霹靂とは、きっとこういうことを言うのだろう。


 さらに混乱しそうになる脳内を落ち着けながら、ウルティナは息を吐いた。


「聖女の試練に関係があるかもしれないから、ですの?」


 はい、とクリアンは答えた。

「ところでお姉様は、なぜこちらに?」


 言葉に詰まりそうになる。

 なぜか強く心臓が脈打つ。

 この感覚は、セクリアと契約を結ぶと決めるときの、それから試練を洞窟到着後明日に受けると決めたときに味わったものだ。


 違う、今はそんなこと考えている場合ではない。

 ぐるぐる頭を回転させて、考えた。

 どうせこの場で生きているとバレてしまっているのなら、クリアンが試練を終えて向こうへ戻っても生きていると話させないようにした方が良さそう。


 ならば、と。

 少しだけ、ウルティナは自分が置かれている状況を白状することにした。


「私も最終試練を受けておりますのよ」


 どの最終試練かは、きっと聡明な彼女ならわかるだろう。


「なる、ほど。そういうことなんですね」


 ウルティナの考え通り推測立ったクリアンは、これで腑に落ちましたと言った。


「お姉様は最初から計画して断罪されたのですね。断罪されるためにわたしを突き落として殺人未遂に見せかけたのも、全部計画通りだったなんて! まったく、本当にお姉様には敵いそうにありません」


 はっ? と、頭のなかのいろんなものが全部吹っ飛んで口を大きく開けてしまった。

 何を言っているのだ、この義妹は。


 呆けた顔をしたウルティナの隣で、セクリアは何度か瞬きをしている。そっか、そうなってるんだと呟いた。


「ところでお姉様、わたしが前にここに来たときには、こんな大きな穴、というより、洞窟の入り口? はなかったように覚えておりますが」


「え、ああ」


 軽く頭を振って、驚きから距離を取る。


「隠されておりましたのよ、この洞窟は」


「お姉様が発見なさったのですか?」


「現実の世界で一番最初に見つけたのは、そうですわね」


 現実? とクリアンは再度首を傾げた。

「ここ、現実の世界にあるところなんですね」


「ええ。あなたの住む大陸ではない方の大陸にある森ですわ。私が断罪されて連れてこられた場所でもありますの」


「……俺、が……ウルティナ、と、会った……のも、この森」


 と、ここでクリアンがセクリアに自己紹介をしていないことに気がついたようだ。


「ご、ごめんなさい。わたしのことを説明すること、忘れておりました」


 一度息を吸い直し、胸に手を当てる。


「わたし、クリアン・ティオ=サタナスと申します。ウルティナお姉様の義理の妹です」


「あ、……俺は、セクリア……――」


 少し迷ってから、小さく頷き続ける。

 彼女の隣で生きていくと、決めたのだから。


「――セクリア・コロン=ルーフス、……です。……ウルティナの、相棒、です」


「私も改めて名乗りましょうか」


 ウルティナはスカートを摘んで軽く膝を曲げる。


「私、ウルティナ・コロン=ルーフスと申しますわ」


 今度はクリアンが絶句する番だった。


「お姉様……」


 なぜか全身が震えている。


「結婚、なさったんですか――っ!」


 なんか顔も青くなっていた。



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