懐かしい場所での思い出
最後に二文、付け足しました。
一ヶ月くらい前。ちょうど聖女候補の人たちが集まっていろんな課題をこなして最後の一人を決める、そんな聖女を決めるための試練の前段階が行われる直前くらい、だったかな。
これからはとっても忙しくて心身ともに厳しい時間になるからっていうことで、最後ともいえる自由時間を与えられたの。
この自由時間っていうのは、本当に好きなことをしていい時間で。それこそ、外に出て、さらに貧民街へ行くことだって許されたんだ。もちろん護衛の兵士さんが近くまでついていく、っていう制限のもとだけど。まぁ、これは仕方ないよね。
で、わたしは。
この自由時間に、昔良く話していたコンスーネさんに会いにいったんだ。
なんでかっていうと、すごく、悩んでいたから。しっかりと決意を決めた今だからこそ冷静に考えられるけど、一ヶ月前のわたしにとっては、聖女候補なんて役職を放り出してしまいたくなるくらいに追い詰められてたの。
でも、ママ……うんん、お母様には相談できない。お母様がお母様になってからわかったことなんだけど、どうやらお母様はお父様の愛人、みたいな関係だったみたいで。心苦しいけど、お姉様のお母様がお亡くなりになられるまでは貧民街にこっそりと住んでいたんだって。
そしてお母様が今のお父様のお屋敷に住めてるのは、わたしが聖女候補としての力を持っていたことも一つの理由になるの。ついでにお母様は、それなりに裕福な暮らしを、日々楽しそうに過ごしている。
だから、わたしはお母様に相談ができない。
聖女候補という役目を放り出したくなってる、なんてこと。
もしお母様に言ったら、きっとお母様は苦しんでしまう。そんなの、わたしは耐えられない。
で、わたしの今の婚約者である第二王子殿下じゃなくて、わざわざコンスーネさんに悩みを聞いてもらおうとしてるのか、なんだけど。
なんて、いうか……その。
愛してるよ、とか。素晴らしい家庭を作ろうね、とか。優しい言葉をかけてもらってるのは、事実なの。
けど、その、あくまでわたしの勝手な感覚なんだけどさ。
第二王子殿下、たぶん、わたしのことなんて愛していない、……と、思うの。
なんていうか、別の目的のためにわたしを利用しているんじゃないかって。わたしを利用して魔王を退治した末にあるであろう、国王の地位さえも利用しようとしているんじゃないか、って。
ふと、思っちゃったときがあって。
たぶんこの感覚って、わたしの[勲章]の[傍観者]によるものなんだとは思うの。
聖女候補として王宮にあるいろんな書籍を見てきた結果、[傍観者]には傍から他を援助する、いわゆる治癒能力とかに繋がる魔法が使えるようになる他に。
傍から見ているからこそ、普通の人では見逃しちゃうようなことにも気づけたりする、らしいから。
えっと、それで。
わたしのなんとなく感じることではあるんだけど、やっぱり第二王子殿下にあまり聖女候補を降りたいと思ってるなんて、話しちゃいけないと思うの。どうせ話したところで、彼の目標のためにあれやこれやで説得されるだけだろうし。
……だいたい、お姉様を悪役扱いして隣の大陸に追放したのだって、よくわかんないのよね。
わたし、お姉様からはいじめというほどいじめられてはいなかったんだし。
聖女候補の殺人未遂とかなんやらも、絶対おかしいって思ってるんだから。
お姉様が本当にわたしを殺したかったなら、それこそ暗殺みたいな感じでプス、ってやられてよ。第二王子殿下がお姉様を断罪するときに、成績がうんたらかんたらって言ってたけど、絶対にあんたなんかよりお姉様のが強いんだからっ! ねっ!
……まぁ、今さら誰かに言えることでもないけど。
けどきっと、お姉様は生きてると思う。お姉様って隠してたけどものすごーく強かったし、たかが隣の大陸の魔物がいる森に置いてきぼりにされたところで死ぬような人ではないって、わたし、知ってるから。
わたしのお姉様への想う気持ちの悪あがきで、追放されそうになったお姉様を一回家に帰らせることができたんだから。さらに生きててもおかしくなくなったね。
……や、まぁ、それこそお姉様も断罪が全部計画のうちだったりしたら、お姉様やっぱすごいなんだけどさ。
今のわたしじゃ、わかんないけど。
えーっと、それで。
わたしはコンスーネさんに会いにいったんだ。
ちなみに護衛の人には、できるだけ近づかないで、って言っといた。
これでもわたし、棍術だけはお姉様に勝っていたんだから。そこら辺のチンピラには負けない自信がある。
貧民街のころに着ていたような服を着て、わたしはコンスーネさんと会うことができた。
どうやらここら辺では、わたしたちは夜逃げをしたって思われてたみたい。貧しいままの人生が嫌で、違う国に行ったんじゃないかって。
つまりわたしたちが今も同じ国で、しかも贅沢な暮らしをしてるとは思われてなかったみたい。騙しているようで、ちょっとどころじゃないくらいには心が痛んだけど、今回はその設定を利用させてもらった。
「あら、もしかしてアンちゃん? 元気にしていたのね!?」
わたしがコンスーネさんと出会ってそうそう、コンスーネさんは驚いていて泣きそうな顔をしながらわたしを抱きしめてくれた。
それがなんだか最近はまったくない暖かさで、最後に感じたのはあの日お姉様に助けてもらったときで。わたしも思わず泣いちゃった。
ああ。
世界にはまだあったかいところがあったんだな、って。
欲にまみれた貴族の社会で揉まれてきて、こんな世界、本当に救わないといけないのかな、なんて。
わたしが聖女候補をやめたくなった一つの理由でもあったそれは、やっぱり救いたい人はいるんだってわかって、ほどけていった。
それから他愛のない会話を少ししたあと、わたしは切り出した。
「あのね、コンスーネさん。実はわたし、すぐにここを離れなきゃいけないの」
「まぁ、そうなのね」
「うん。それで、ね。突然来てこんなこと言うの、とても悪いと思うんだけど。
わたしの悩み、聞いてくれないかな?」
実際聞いてくれるかどうかは、わからなかった。たぶんそのときの声は、不安でふるふると震えていたと思う。
「もちろんよ。アンちゃんはあたしにとっても大事な子供みたいな子だったんだから。
すぐなお別れしなきゃいけないのは辛いことだけど、ほんの少しでもアンちゃんの悩みが晴れるお手伝いをさせてちょうだい」
「――っ。あ、ありがとうっ」
そうしてわたしは、悩みについて話しはじてた。
「あのね、その。悩みを相談したいって言っておきながらあまり詳しいことは話せないんだけど。
大事な人を蹴落すような人たちを助けなきゃいけないのかな、って。とても、疑問に思ってて」
「大事な人っていうのは、今も生きてはいるのかい?」
「……正直、わかんないの。でもわたしは生きてるって、信じてる」
「なるほど。つまりアンちゃんには、本当に助けたい人がいるんだね?」
「ほんとうに、たすけたい、ひと……」
コンスーネさんの言葉に、ふとあのときの涙が脳裏によぎった。
あの日。
あの日。
お姉様が苦しそうに目元に涙を浮かべながらごめんなさいって、言ってた日。
「んー、あたしゃあ頭良くないから難しいことは考えられないけどさ。でも、アンちゃんの言葉の響き的に、アンちゃんはその人のことを助けたいから今もその、蹴落とす人たちを助けようとしているんだろう?」
「そう、なのかな」
「さぁね、そればっかしはアンちゃんの心次第さ。けどアンちゃんの大事な人ってのが生きてるってアンちゃんは信じてるんだろ?」
「うん! もちろん、それは」
「だったら、まずは嫌な人たちでも助けなきゃいけないなら助けてみたらどうだい? 誰かを助けるってことは、その見返りがあるってことだ。
もしかすると、アンちゃんの大事な人ともう一回会えるだけのなにかを手にいれることだってできるかもしれないだろう?」
「会えるだけの、なにか……力」
……そっ、か。
たしかに、そうかもしれないね。
今は単なる聖女候補でしかないけど、いつか聖女になったときには、隣の大陸には行かなきゃいけなくなるし。
そのときにお姉様を探すのは、アリなのかもしれない。
お姉様を見つけて、伝えたいことがあるから。
とてもとても不純な動機だけど、それでも今はそのために聖女になるのを目指しても、いいのかもしれない。
「……うん、うん。そうする」
それに、きっと。
「今頑張んなかったら、大事な人に会えたときに胸、張れないもんね」
大事な人を、お姉様を助けたいなら、それなりの地位が必要。
わたしは、あのとき助けてもらったお姉様を。ずっと一人で抱え込んだまま生きてたお姉様を、助けたいから。
聖女になろう、って決めたんだ。
一ヶ月くらい前のことを思い返しながら、改めて心に決めて。
そのためには、まず。
第二王子殿下が隠している別の目的、聞き出してみないと。
もしかすると彼に協力しながら、わたしにも利用できることがあるかもしれないから。
あの第二王子殿下の性格を考えてみるに。
変に遠回しに聞くよりも、直接問いただした方が答えてくれそうだね。
間章三の二話目は明日投稿します。




