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悪役令嬢が○○になってはいけませんの?  作者: 叶奏
三章 集落の代表者
56/73

50.想いを表明して……

 東地区→西地区に変更しました。



 雨は上がった。

 怖いくらいに空が青い一(ウィク)間後。[統一最強決定戦(ディナトティシム)]南地区大会決勝戦が行われようとしている。

 十数(イヤー)ぶりに異なる組み合わせの試合に、観客席は異様なほどの盛り上がりを見せていた。


「んーんー、なんかいつもよりうるさいね」

「ねーねー、なんか耳が痛くなりそうだね」


 けらけらと笑う鏡写の双子の長は、同時にウルティナに視線を向けた。


「ねーねー、なんでハーくん倒しちゃったの?」

「そーそー、なんでハーくん倒しちゃったの?」

「もーもー、ぼくら、ハーくんと戦うの楽しみにしてたのに」

「むーむー、うちら、ハーくんと一(イヤー)ぶりに戦いたかったのに」


 非難するようでいて、どこかうきうきと楽しそうな二人。互いの髪留めに手をかざし、にこりと笑う。


「でもでも、力全振りのハーくんを正面から倒しちゃったんだもんね」

「そうそう、のーきんバカのハーくんをていって倒しちゃったんだよ」


「やっぱやっぱ、ウルティナちゃん、すごいんだよ」

「やっぱやっぱ、ウルティナちゃん、強いんだよ」


「えとえと、そーすると、やっぱ作戦はアレ?」

「うんうん、そーなると、やっぱ作戦はアレだね」


 ゲミニーグスはゲミニードスの、ゲミニードスはゲミニーグスの髪留めを抜き取った。


 ウルティナは[紅之指揮棒(ルーフス=リネア)]を構え、セクリアは[紅魔之細剣(グラディウス)]に手を掛ける。

 フィーディーが空中でいつでも動き出せるようにピリリと緊張感を高めた。


「只今より[統一最強決定戦(ディナトティシム)]南地区大会決勝戦を執り行います」


 歓声が、耳にうるさい。

 セクリアは緊張で強ばる身体を深呼吸で適度にならした。


「両者、準備はよろしいでしょうか」


「うんうん、いいよいいよー」

「よしよし、始めちゃおー」


 風属性の魔道具で広がる声に、不敵に笑った鏡写しの長が二本と二本の髪留めをセクリアに向けた。

 狙いはお前だと、いわんばかりに。


「では、決勝戦――開始ッ!!」


「[展開]」


 まっさきに武器を振るったのは、ウルティナ。白の肩マントと黒のワイシャツ・ワイドパンツに身なりが変わる。

 光沢をもった水色のポシェットから六匹のうさぎたちが飛び出した。


「じゃじゃ、いっくよー」

「じゃじゃ、いっくねー」


「「[展開]」」


 片手に持っていた二本ずつの髪留めが両手で一本ずつに持ちかえられる。髪留めから拡がるようにして、ゲミニードスとゲミニーグスの[固有武装]が[展開]された。


「…………」


 タタタタタタッ、と。

 セクリアは鏡写しの長に向かい駆け出して。


 [紅魔之細剣(グラディウス)]を抜刀。


 唱える。


「――[展開]」


 流星如く、光を残像にして。


「《狂詩曲(ラプソディー)第六番『(とばり)』》」

「《その身に宿れ、横暴なる(ほむら)》」


 赤褐色のブーツ。

 青みがかった黒色のワイドパンツ。

 騎士服調の朱の交じった白色のマント兼シャツ。

 檳榔子黒(びんろうじくろ)色の肩マント。

 胸元には、紅色の宝石が飾られたリボンタイが揺れている。


「んーんー、あれ。なんか違う?」

「ねーねー、うん。なんか違うかも」


 以前とは決定的に違う彼の姿に、敵二人は目を細め。


 セクリアはゲミニードスの持つ髪飾りを狙い右手に握る細剣を突き出す。


「よしよし、下がって」

「うんうん、下がるよ」


「「《ウェン・コントラ=インペツム》」」


「……っ、」


 ピクリと肩を震わせて跳び上がったセクリア。

 一瞬後、セクリアから少しだけ距離を取るようにして後ずさった鏡写しの長を囲うドーム型の水色透明の壁が現れた。


「むむむむ、やっぱり違うよね」

「うんうん、動きにキレが出てるよね」

「ねぇねぇ」

「かもかも」


 宙で一回転して二人の背後に降り立つ。

 ちらりと目線を上げてウルティナを見ると、彼女は小さく頷いた。


 ふと、やっぱりウルティナはすごいなと。

 セクリアは、心のなかで思う。

 悩んで苦しんでいて、空元気な状態であることも、知っている。

 それでもなお戦闘では冷静に動くことができる彼女に、やっぱ敵わないや、なんて思って。


 少くとも戦闘が始まってからのウルティナは、思考を止めていない。


 ――彼女に。

 彼女の隣に立てる自分に、なるんだ。


「フ……ッ」


 小さく息を吐いて、セクリアは地面を蹴る。


「《その身に宿れ、横暴なる(ほむら)》っ」


 宙に浮かび上がる。


「んーんー、ぼくらも攻撃した方がいいかも」

「ねーねー、うちらも攻撃しないと、だね」

「うんうん、今までみたいに、カウンターだけだと」

「むーむー、あんまやったことなくて、苦手だけど」


「「《ウェン・オップナーティオ》」」


 模様を描くようにして両手の髪留めを操る二人。

 未だ保ったままのドームを中心にして、風の刃が吹き荒れる。


「《制御委託許可・狂詩曲(ラプソディー)第一~五番『(ほむら)(さざなみ)』『(くさり)』『(うず)』『(ひらめき)》」


 ウルティナは呟くと同時に、指揮棒を振るう。


「んーんー? 気のせいかな」

「さあさあ。気のせいじゃない?」


 ちらりと歪んだように感じたドームは、果たして勘違いか。


「おっけー、ティナ。僕もいくよっ☆

 《狂詩曲(ラプソディー)第三番『(くさり)』》」


 黄色のアンモスが万歳をする。

 セクリアは、()()()()()

 フィーディーはウルティナを守るために不可視の刃で風の刃を防ぐ。


 セクリアは、音速に迫る。


「むーむー、やっぱ攻撃は苦手」

「むーむー、照準が合わせにくい」


 髪留めに沿って風の刃は生み出されていく。


「でもでも、まだいけるよね」

「でもでも、まだ壁は残ってるから――」



 ――パリンッ、と。

 軽く割れる音がした。



 誰かが空中を蹴り跳ばす。


「――っ、ぁ」

「えっ、えっ、グーちゃっッ!?」


 一。

 二。


 ゲミニーグスとゲミニードスが、目に見えない何かに。


 セクリアに。

 ウルティナが無理やり解除したドーム型の壁を抜けたセクリアに。


 気絶させられ。

 倒れ。



 ――ザワッ、と。

 あまりの圧倒的な試合に、観客が息を呑んだ。


 セクリアは地に降り立ち、ウルティナのもとに帰る。


「……これで、……いい?」

「ええ、上出来ですわ」


 笑い合う二人の後ろで。


「しょ、勝者っ!

 ウルティナ・コロン=ルーフス選手&セクリア・コロン=ルーフス選手っ!!」


 驚きを含んだアナウンスが、響き渡っていた。






 ☆☆☆






「ガハハッ、まさかお前らも負けるとはなぁッ」


「ふんふんっ、相性が悪かっただけだもん」

「ふんふんっ、壁が壊れるなんて思ってなかっただけだもん」


「ハハッ、負けたことには違いねぇなッ」


 翌(デール)

 南地区にて最高の権力者となったウルティナとセクリアは、鏡写しの長を訪ねていた。

 なぜかそこには、現地の長もいた。


「んでッ、何用なんだッ?」


 話を振られたウルティナは、口を開く。


「西地区のことについてお聞きしたいの。ここ十何(イヤー)ほど、[統一最強決定戦(ディナトティシム)]の最終戦が行われていないということでしたが」


「あーあー、なるほど」

「ふむふむ、そのことね」


 二人合わせて頬を膨らませているゲミニードスとゲミニーグスはそっぽを向いていた。


「えとえと、ここ十数(イヤー)は南地区大会の結果が出てないんだよ」

「そうそう、うちらいつもハーくんと相討ちになってたから」


「相討ち、ですか?」


「うんうん、相討ち。毎回同時に気絶してたんだ。ぼくらとハーくんって、なんかすっごく絶妙に相性がよかったみたいで」

「うんうん、相討ち。それで南地区の代表者が決まんないから、西地区の人と話して、結果が出るまでは[統一最強決定戦(ディナトティシム)]決勝戦は行わないことにしたの」

「そうそう、別にぼくらが弱いわけじゃないもん」

「そうそう、うちらの戦い方がウルティナちゃんたちと合わなかっただけだもん」


 最後の方はどこか愚痴にも聞こえなくはない言葉に、ウルティナは苦笑する。


「なるほど、だから行われていなかったのですね」


「けどけど、ウルティナちゃん()()なら勝てると思うよ」

「うんうん、よゆーで勝っちゃうんじゃないかな」

「そうそう、なんかセクリアくん、強くなってたし」

「ねーねー、一(ウィク)間であんなに強くなったの、びっくりだよ」


「……あ、りが、と……う、ご……ざ、い……ます……」


 セクリアの顔が赤らんでいるのは、以前歯牙にもかけられていなかった二人から褒められたからか。


 ここへ来る前にも、セクリアはおめでとうの言葉を貰っていた。

 かつての因縁の少年リーウィーと、相方のメディミィから。


「まッ、どっちにしろ、だなッ」

「うんうん、ウルティナちゃんとセクリアくん」

「えとえと、知ってる?」


「知ってる、とは?」


「……もしもしや、こっちの風習、あまり知らない?」

「……もしもしや、セクリアくん、教えてない?」


「……? なに、を……?」


「ハハッ、こりゃあセクリアの坊主も知らなさそうだぜッ」

「あーあー、なるほど。セクリアくん、魔力なくて迫害でも受けてたのかな?」

「なるなる、だいたいは親から聞くものだけど、いなかった、とか?」


「ですから、なんのことですの?」


 笑顔は保ったままに、ウルティナは尋ねた。


 しかし鏡写しの長はにやりと笑うと、口を開こうとしていた現地の長の口を両サイドから押さえる。


「んーんー、西地区の代表さんに勝ったら教えてあーげる」

「うんうん、それまではひーみつ、だよっ」


「……なるほど、分かりましたわ」

 勝利してみせましょう、と。


 力強く。

 けれどもセクリアとフィーディーにだけはどこか危うく聞こえた声音で。


 ウルティナは、宣言した。






 ☆☆☆






 その後。

 見事宣言通りに西地区の代表を制し、大陸一の権力者となった二人に。

 約束通り、ゲミニードスとゲミニーグスは言った。


「あのあの、ウルティナちゃんが目指してるものになるにはね」

「うんうん、この前ウルティナちゃんが言ってたのになるにはね」


 [統一最強決定戦(ディナトティシム)]決勝戦までに、ウルティナは、前世のことなどを除いた目標について。

 鏡写しの長ゲミニードス・ヘメディとゲミニーグス・ヘメディ、

 現地の長ハーくんことハオーラド・シーラ、

 因縁の少年リーウィー・プラエティウムと相方のメディミィ・クルテリーアたちには話してあった。


 ウルティナとセクリア、フィーディーは耳をすませる。




「そのその、試練を受けなきゃいけないんだ」

「うんうん、山を越えた先にある、とある洞窟でね」



 以上で三章 集落の代表者、終わりとなります!


 次回から二週連続で間章を投稿した後、最終章の四章に入る予定です。

 また、間章では、来週は二話、再来週は一話+登場人物等のまとめを投稿する予定です。


 今後もよろしくお願いしますm(_ _)m


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