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悪役令嬢が○○になってはいけませんの?  作者: 叶奏
三章 集落の代表者
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46.現地の長に勝利して……



 ウルティナは一人、借り家の外を撃ちつけている雨の音を聞いていた。

 時折雷が混ざるが、しかし怯えることもなく膝を抱えて座り込んだままにぼんやりと俯いている。


「ティナ、大丈夫?」


 見るにみかねたといった様子で、フィーディーが尋ねてきた。

 縮こまった少女は、乾いた笑いを洩らす。


「どう、すれば、良かったんでしょうね」


 誰よりも公平に物事を見ようと努力してきた彼女には、セクリアの追い詰められている心情に気づいていた。


「きっとセクリアが目を覚ましたら、もっと自己嫌悪に陥るって、分かってますの。だって、……前の私も、周りの期待に答えることのできなかった喪失感を味わっていましたから。できない自分が嫌で逃げ出してしまった過去が、あるから。

 分かりますの」


 つらつらと言葉を並べていくウルティナに、フィーディーは静かに耳を傾けている。


「逃げ出してしまいたくなるくらいに苦しいって、知っていますのよ。

 ……きっと、『罪人』を擦り付けられてでも、心では逃げていなかった彼は、セクリアは、私なんかよりずっと強いのでしょう。

 自らの思考を閉ざしてでも戦い抜こうとしたセクリアは、私なんかよりもずっと強い。

 ――だから」


 キュッとウルティナの唇が噛み締められた。


「私には、どうすればいいのかが分かりませんの。

 彼が何に困っているのか苦しんでいるのかが分かっていながら、私には彼を救うことができませんの。

 だって、……だって。


 私は、逃げて。逃げて逃げてばかりで。

 立ち向かったことなんて、ないんですもの」


 屋根の下で透明の雫が頬を伝う。


「兄さんからも義妹からも逃げてきた私に、セクリアを救うための言葉なんて、分かりません。

 ……馬鹿みたいですわね。

 あの男に復讐しようだなんて、意気込んでいたくせに。

 たかだか転生した奇跡を授かった程度で、私の本性が変わることなんてありませんのよ」


 嗚咽を洩らすウルティナに、フィーディーはそんなことないと言って。

 けれどもウルティナは、そんなこと、あるんですのよ。と。

 覇気のない声で返した。


「あーあ。

 やるやるって口先だけで、結局私は何も成し遂げられやしませんのよ」

 

 何が、復讐だ。

 何が、自分は何も出来なくない、だ。


「辛くてももがいている相棒一人救えないくせに」


 セクリアは布団の上で苦しそうに息をしている。

 悪夢を見ているのだろう。


「……何が、信じているから、ですのよ。

 信じているなんて言葉が一方的な押し付けだって、前世で嫌という程に思い知らされてきたくせに」


 ――俺は、本当にお前のことを心配しているんだ。


 ――俺は信じているからな。お前だって努力さえ重ねれば出来るようになるって。


「……やめて」


 ――信じ続けるよ、お前が俺を追い越せるって。


「もう、誰かに信じられるのなんて、ごめんですのっ」


「ティナっ!」


「ッ、……ご、ごめんなさい。突然声を荒げてしまって」


 何かを堪えるように瞼を閉ざし、ヒュッと息を吸い込むウルティナ。


「ともかく」


 揺れ続ける瞳のまま、少女は呟いた。


「ただ無責任に信じることは、重荷を背負わせてしまいますのよ。

 なのに私は、やってしまった。

 ……本当に、どうしたら良いんでしょうね」


「でもあの場では、一回戦目のあのときは、ティナの判断が正しかったと思うよ。そうじゃなきゃ、どこかで狂って負けてたかもしれない」


「……[紅の契約]を言い訳にして、自分の目的のためだけにセクリアを操り人形にしたことが、ですの?」


 嘲るように嗤った声は、作り物には聞こえなかった。


「…………、ふぅ……」


 それでもと、ウルティナは言う。


「きちんと、責任は、取りましょう」


 先の戦いで――否。

 あの男に復讐をするという目標を持った時点で、覚悟は決めているはずだから。


「たしかにセクリアとは、互いの利益で繋がっただけの存在ですわ。

 それでも彼を無責任には信用してしまったのならば、その罪は償わなくてはなりません。

 たとえそれが、()()()()()()()()()()()()()()


 ウルティナの瞳に、小さな光が宿る。


「なんとしてでも、セクリアが壊れてしまうことだけは阻止しますわ。

 明確なやり方が分からなくとも」


 これは。


「[紅の契約]とは、関係なしに」


「……うんっ。ボクも手伝うよ」


 フィーディーがふわりと浮き上がった、そのときだった。



「……――誰か、来ますわ」


 ウルティナが涙を拭って立ち上がる。

 ほどなくして、借り家の扉がノックされた。


「この魔力は……」


 セクリアを起こさぬようにと静かに扉を開けた先。

 男女二人組が立っていた。


 少しの間の後、何故かため息を吐いた気が強そうな少女の方が口を開く。


「突然ごめんなさい。こちらにセクリアはいるかしら?」


 質問に対し、ウルティナは僅かに思考を巡らせ、答えた。


「ええ、おりますわ。今は気を失っておりますけれど」


 にこりと微笑む。


「ここで話すのもなんですし、中へ入りませんか?」

「……なら、お邪魔するわよ。ほら、アンタも行くの」

「ぅえ」


 ウルティナの案内に続き、少女と、深くフードを被った中性的な見た目をした少年が借り家の中に入った。

 そのまま部屋の中央に置いてある低めのテーブルを囲うようにして座る。


「さて」


 ウルティナが真剣の光を二人に向けて話し始める。


「あなた方、セクリアのいた集落の方、ですわよね?

 集落別大会本戦の一回戦で戦った、メディミィ・クルテリーア様と、リーウィー・プラエティウム様、であっているかしら?」


 ピクリと肩を動かしたのは、少年。

 少女はやっぱりと言わんばかりに小さく頷いた。


「ええそうよ。

 アタシたち、ウルティナさんたちに会いに来たの。正確には、セクリアに会いに来た、と言った方がいいわね」


「なんのために、と聞いてもよろしいかしら?」


 ウルティナが尋ねると、少女メディミィはその前にひとつ質問があるわ、と鋭い口調で息を吸う。


「ウルティナさんはセクリアとどういう関係なの? その答えによっては、ウルティナさんの質問にどう答えるか変わってくるわ」


「関係……」


 ふっと出たウルティナの笑みが、どこか自虐的に見えたのは気のせいだろうか。

 それでもたしかにメディミィとリーウィーを見据えているのは、覚悟を決めた証だろう。


「私は彼と[魂間契約]を結んでおりますの」


 メディミィもリーウィーも[魂間契約]のことは知っていたようで、目を大きく見開いていた。


「それっ、て」

「魂と魂を媒介にして結ぶ契約よね?

 ……もしかして、セクリアは魔力が少なかったから、補うために……?」


 メディミィの疑問に、肯定の意を示すウルティナ。


「でもウルティナさん、なんならセクリアより魔力……あれ、けど、使ってたような……」

「私は人間ですから」

「……なるほど、そういうことね」


 それで、と元集落長の娘は話を戻す。


「ウルティナさんがセクリアに魔力を提供している状態に近いことはわかったわ。でも、ウルティナさんには利益がないはずよ。

 なんで魔力を提供しているの?」


「近接における戦力、ならびにこの大陸における情報の提供をしてもらうためですわ。

 私が後方特化であることは既に分かっておられると思いますの。とはいえ、後方ばかりからだとどうしても苦手な分野が出てきてしまう。

 だからこそ、近接に特化したセクリアに力を提供してもらっていますのよ。

 この大陸の情報は……私が人間であることから、なぜ必要かは想像がつくのではなくって?」


「そうね。ウルティナさんがいた大陸とは違って、力が全てのこっちでは、苦手な分野はない方がいいわ。

 情報に関しても、ウルティナさんが人間ながらにわざわざ[統一最強決定戦(ディナトティシム)]に参加している以上、なんとなく想像できるし。

 ……わかった。ウルティナさんたちの関係的にも、一方的にセクリアを使役しているようにも見えなかったから、信用するわ。戦いのときに弱そうに見えたのは、たぶんこっちの問題だし」


 メディミィはちらりと横に座るリーウィーを見る。


「ここに来た理由よね。

 ……ほら、リーウィー。アンタから言いなさい」


 突然にしてバサッとフードを取られるリーウィー。


「ぅえっ!? ちょ、急にやめろよっ」

「いつまで黙ってんのよ。主犯はアンタなんだから、アンタの口から言いなさい」

「いや、ちょっとは喋ったし……」

「なんか言った?」

「ぁ、いえ、なんでもありません」


 リーウィーは気まずそうに目を泳がせ、ふるふると首を振って、深呼吸をする。


 そしてぐっと目に力をいれると、口を開いた。


「オレら……いや、オレ。



 セクリアに謝りに来たんです」



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