45.誘いを断って……
お久しぶりです。
活動報告にも書きましたが、再開していきます。
週に一回定期投稿で参ります。
今後もよろしくおねがいしますm(_ _)m
(期間が空いたので)
《これまでのあらすじ》
前世で一番やりこんでいたゲームの世界に転生したウルティナは、ある男に復讐するため、ゲームのシナリオを利用し、見事断罪されることができた。
追放された先の大陸でセクリアと出会い、彼と[紅の契約]を結ぶことになる。
セクリアと、ウルティナが自ら作った人形のフィーディーと共に大陸のトップという地位を手にいれるべく、[統一最強決定戦]に出場することにした。
そのために集落を目指す途中で寄り道した洞窟で洞窟の守護者アルトゥによってさらに強くなった二人と一体は、見事[統一最強決定戦]の集落別大会で優勝する。
しかし、セクリアの様子がどんどんとおかしくなっていって……。
翌日。
異様なほどに地面に雲が近い正午だった。
「それでは只今より[統一最強決定戦]南地区大会第一回戦一回戦目を執り行います」
暗い風が地面を撫でる。
少年は紅に色を無くした瞳のままで微笑んでいた。
「両者、準備はよろしいでしょうか」
風属性の魔道具を用い響き渡る声に、熱く、されどどこか乾いた歓声が上がる。
どうせ、と。
どうせ勝つのは、と。
分かりきった答えを観客が見ているのは、十数年間の変わらない結果故か。
紅宿す少年少女の向かい側、左右で髪色の違う背の高い青年が猛々しく笑った。
現地の集落の長。
隣の鏡合わせの二人が治める集落と合わせ南地方の二大集落に挙げられる集落の代表者である。
――では、と震わすアナウンス。
セクリアは緩慢な動作で柄に手を掛けた。
「一回戦目、開始ッ!」
【セクリア、フィーディー!】
ウルティナが[紅之指揮棒]を振る。
[展開]
純白のマントが重い風に煽られた。
地を駆けるセクリアが小声で呪文を唱える。
疾風が音速に変わる。
「ハハッ、はえぇじゃねぇヵッッ!!」
獰猛に拳を握るのは、現地の長。
二色の短髪を揺らし、炎色に拳を染めた。
セクリアの抜刀。
[紅魔之細剣]が空気を割く。
「だが、動きが単調だなぁッ」
激突。
細剣が生身の拳でいなされる。
ポツリと、土が一雫の雨に濡れた。
「《狂詩曲第零番『幻』》」
ウルティナが指揮棒を繰る。
「いっくよぉ」
無表情の人形が宙を舞った。
ゆらりゆらり規則不規則に、されど。
透明の刃は関係なしに荒れ狂う。
長は口角を持ち上げた。
「《傲慢》」
赤色の魔法陣が広がる。
ウルティナは息を呑むよりも早く、口を開いていた。
「下がってッッ!!」
叫び声に、 フィーディーは宙高く急速に突き上がる。
セクリアは、やはりどこかマリオネットのような動作で後ろに下がった。
ウルティナの指示と身体が覚えていることにしか従わない、自分ではなにも考えることのない人形のようであった。
フィーディーではなく、うさぎの人形に似ていた。
現地の長の発動した魔法によって炎の壁が波動状に広がっていく。
ウルティナは《狂詩曲第二番『漣』》の威力を落として対処するなかで。
セクリアに対して、そう、感じてしまった。
「…………全くもって大丈夫なんかじゃ、ないじゃありませんの……」
たしかにセクリアは急激に弱くなってはいない。
故に南地区大会に出場できているし、今だって一方的にねじ伏せられていない。
自分を『罪人』に仕立て上げた人物と、先の大会で鉢合わせした。
セクリアの様子を見れば一目瞭然のことだ。
それでもウルティナがセクリアに深く聞き込まなかったのは、彼のことを信じていたからなのかもしれない。
自ら『罪人』であると告白することがどれほどの勇気を必要とするものなのかはウルティナもよく理解していた。
彼女が妹の殺人未遂を口にすることができたのは、セクリアが『罪人』であると言ったからだ。
そして信じていたが故に、彼の大丈夫の言葉を根拠に、深く聞かないようにしていたのかもしれない。
いずれにせよ。
現地の長は、まだまだ力をあり余しているように見える。
もし、長の力が執事の男性を越えるような。
ウルティナの魔力察知能力をもってようやく気がつくような人物を越えるようなものであったら。
かの洞窟の守護者のいた洞窟入り口も、ウルティナにしか関知できなかった。
洞窟の守護者アルトゥには、赤子の手を捻るよりも容易に負けた。
たしかに洞窟の守護者から直々に鍛練を積まされた現在の状態ならば、勝てるのかもしれない。
だが、セクリアがうさぎ人形と同じ思考すら止めてしまっているように感じてしまうほどの現状で、まともな連携をとれるとは考えられないだろう。
「《傲慢》を全て消し去るとはなッ」
吠える現地の長を、ウルティナは感情の籠っていない瞳で見つめる。
連携がとれないならば、彼を完全なるマリオネット化してしまった方が、まだ勝ち目があるのではないか。
セクリアの細剣術は、鍛練の三ヶ月でイヤというほどに頭に叩き込んできた。
今この時点のみで判断するならば。
ウルティナが全てを仕切った方が――強い。
「……[紅の契約]、忘れたとは言わせません」
――少女は覚悟を決めた。
「第三項、互いを犠牲にしない」
既に壊れかけているセクリア。
彼を放置したのは、ウルティナだ。
「あなたを壊れさせないためにも」
この戦いは、セクリアの意識を奪ってでも勝つ必要がある。
もし負けてしまったら、確実に彼の心は押し潰されてしまうから。
ぐちゃぐちゃに、壊れてしまうから。
いつの間にか本降りになっていた雨。
【フィーディー】
現地の長は、火属性の魔法ばかりを使っていた。
ならばきっと、雨で少しは力を削げるだろう。
【……――お願い】
ゴドンッ――と。
落ちた雷がウルティナの表情を隠していた。
【セクリアの意識を奪ってくださいまし】
ポシェットからうさぎ人形六体を取り出しながら、フィーディーに命じる。
フィーディーは果たして何を思ったか、特に発言することなく現地の長の拳を無機的に受け止めていたセクリアの代わりに、長の拳を捌く。
こんっ、と見えない魔力の刃が、セクリアの首の横を穿つ。
光のない彼の瞳から、さらに光が失われた。
しかし倒れることはなく、ウルティナの見つめる現地の長に向けて[紅魔之細剣]を振るう。
魔力を共有していることを利用し、ウルティナが操っているのだ。
「おぉ、新しい動物かァッ? ――へへッ、楽しもぉじゃねぇかァッッ!!」
現地の長、されど六のうさぎたちに気を取られてか、セクリアの様子がほんの僅かに変化したことには気づかない。
あるいは、気づくまでもないほどに思考能力が停止していた雰囲気をもとからセクリアが纏っていたのかも、しれない。
「…………《制御委託許可・狂詩曲第一~五番『焔『漣』『鎖』『渦』『閃》」
ウルティナは《委託演奏》の許可を出す。
《狂詩曲第六番『帳』》を含めなかったのは、既に試合前に使用しているからだろう。
「ガハハッ、どんどん行くぜぇッ!」
現地の長が拳を構える。
「《憤怒》」
赤い魔法陣と、全てを震わす勢いで地面に拳が殴り付けられる。
直後。
「……ッ!?」
後ろに跳んだウルティナと、操られ即座に動かされた人形たち。
炎柱が昇り龍のごとく地面より吹き出す。
キッとウルティナの目が細められた。
「《円舞曲第二番『明鏡止水』》ッ」
決めるならばここしかないと、唇を噛みしめて。
「……んぁ?」
指揮棒を三拍子に振るう少女の頬を土砂降りの雨が伝う。
土が拘束具に変化して現地の長を襲った。
「えいっ」
攻撃力と素早さの強化を受けたフィーディーが、無数の刃を振りかぶる。
「っ、」
さらにウルティナは[紅之指揮棒]を薙いだ。
セクリアが、細剣を構える。
「フンッ、こんなものッ」
だがしかし。
現地の長は気合いと根性で土の拘束を抜け出そうとする。
パリッ、とヒビが入る。
「うっ、う、」
ウルティナは、苦しそうな呻き声をあげながら。
されど土属性担当黄色うさぎのアンモスを動かせるほどの指示が出せない。
人間は、人形よりも遥かに操りにくいが故に。
灰色がかった滝の雫に、ウルティナの瞳から溢れた紅色の液体がたらりと混ざる。
「おら、よッ――」
「逃がさないよ。
《委託演奏・狂詩曲第三番『鎖』》」
「――ぁアッ?」
魔力の刃を構えながら、フィーディーが唱えた。
脳味噌のほぼ全てを出しきって最後の特攻を仕掛けているウルティナに代わって。
拘束具が追加される。
長は身動きが取れなくなった。
「っ、アァあああああッ!!」
締めと言わんばかりに、ウルティナは手に持つ指揮棒を振り下ろす。
フィーディーの刃と。
セクリアの細剣が。
現地の長に、二種の攻撃が注がれる。
「――――ッッ、」
腹と首にそれぞれ全力の一撃を食らった現地の長は。
「っ、ま、け……た……ッ」
身動きが取れないままに、意識を失う。
「はぁっ、はぁっ、はっ、」
周囲がまさかの結果に驚嘆の声を上げるなかで。
力無く右手を下ろしたウルティナの顔には、かつてないほどの苦悶の表情が浮かんでいた。
疲労から来るものなのか、
後のセクリアに対する対応を思ったものなのか。
その両方が理由にあるのかもしれない。




