44.男の主に会うことにして……
2020年、ありがとうございました。
そして、明けましておめでとうございます。
今年もどうぞ、よろしくお願い致しますm(_ _)m
こちらでございます、と影から現れた男に連れてこられた場所は、それなりに大きな一軒家であった。
「現在我が主は[統一最強決定戦]の南地区大会に出場するためにこの集落の家に滞在している状態であるが故、我らの本拠地にお招きできないこと、お許しください」
「……この集落の方ではありませんのね」
流れるように頭を下げた男に対し、ウルティナは率直に疑問を投げ掛ける。
南地区大会の始まる前日になってまでも大会の出場者であるウルティナとセクリアを呼びつけたために、なにかこの集落のことについて話があるのかもしれないとウルティナは考えていたのだろう。
「はい、その通りでございます」
それではお部屋までご案内致します、と何も言わずに扉を開けた男の後ろを、ウルティナとセクリアの二人は続いた。
フィーディーはウルティナのポシェットの中に入っている。
「あの、何か入るときに言わなくってもよかったのかしら?」
表情は笑みを保ったまま、ウルティナは尋ねる。
「大丈夫でございます。現在この家に在中している者は、警備を除き私一人ですから」
「え?」
「さすがに大事な大会前に襲ってきた者を我が主に対応させるわけには参りませんので」
「いえ、そちらではなく……。……まさか普段は、警備、おりませんの?」
「はい。我が主の根城ならばともかく、警備を雇うにも費用がかかります故。
我が主はもちろん、私もこの年齢まで生きております。非力ではありませんよ。
いくら私の生まれつきの魔力が平均より低いとはいえ、ウルティナ様とは違い、我らは短命。私のような爺となるまで生きる者の方が稀なのです」
執事の姿をした男の言葉に、ウルティナはちらりと頭に目をやり、返答する。
「……確かに、あなたの生まれつきの魔力は少なかったみたいね」
「セクリア様ほどではありませぬが。さて、こちらの部屋でございます」
どうやら、男とウルティナが会話をしているうちに目的の部屋の前までたどり着いていたようだ。
男はノックもせずにドアノブを捻り扉を開ける。
「我が主、ウルティナ様と同伴のセクリア様を連れて参りました」
促されるままに、ウルティナは部屋の中に入る。
セクリアは、やはり揺らぎのないどこともつかない瞳のままに、彼女に倣い歩を進めた。
二人が入ったことを確認したのか、案内をしてきた男は扉を閉める。
部屋には、扉側手前に長椅子が縦に二つとその間に低めのテーブル、窓側奥に執務用の机と椅子が並んでいた。
そして。
「やあやあ、よく来てくれたね」
「うんうん、歓迎しちゃうよ」
ウルティナとセクリアの視線の先。
執務用の机と椅子は、それぞれ二つ。
つまり、二人いた。
「えとえと、ぼくらもそっちにいった方がいいのかな」
「そだそだ、うちらもそっちの椅子に座った方がいいよね」
二人は立ち上がると、執務机の前で一度立ち止まる。
ウルティナよりもさらに低い120センチほどの身長に、鏡写しの見た目と動き。
澄んだ空色をグッと濃くした蒼空色のボブカットに、前横髪に赤色のメッシュが一房と同じく赤色のインナーカラーが入った髪の毛。
琥珀色の瞳と、首もとに赤い宝石をあしらったポンチョのようなレースの布にワイン色のワイドパンツ。
唯一二人の異なるところとして、一房のメッシュに飾られた二つの髪止めがあった。
ウルティナから見て左側がオレンジ、右側は黄緑の色の髪止めだ。
二人はニッコリ笑いを浮かべると、左側のオレンジの髪止めの方がまっすぐ左手を上げた。
「じゃあじゃあ、まずはぼくの自己紹介。ぼくはゲミニードス、っていうの。となりの集落の長やってるよ」
オレンジの髪止めのゲミニードスが言い終わりパッと左手を下ろすと、今度は黄緑の髪止めの方が精一杯に右手を伸ばし上げた。
やはり動きも鏡写しになっているようだ。
「んとんと、次はうちの自己紹介。うちはゲミニーグス、っていうの。となりの集落の長やってるよ」
ニッコリ笑顔の黄緑の髪止めのゲミニーグス。
「じゃあじゃあ、よろしくね~」
「じゃあじゃあ、よろしくね~」
明るい笑顔のままに軽やかに振る手も、鏡写しに、なっていた。
私は、と次に話し始めたのはウルティナ。
「あなた方とは違う集落で先日長になったばかりのウルティナ・コロン=ルーフスと申しますわ」
笑顔でチラリとセクリアに目配せをする。それを受けて、セクリアも自己紹介をする。
「……俺、は、……セクリア。……セクリア・コロン=ルーフス」
普段通りのようで、どこか抑揚に欠けた声。
すっ、と止まった彼の言葉を補足するかのように、再度ウルティナが口を開いた。
「セクリアは私と同じく集落の長で、共に最強を目指す相棒でもありますの。以後、よろしくお願いしますね」
ウルティナは軽く膝を折り、スカートの端を摘まみながら笑顔を深める。
「それで、お隣の集落の長お二人は、私たちにどのようなご用件でして?」
問いに、明るい声で返答される。
「そのその、ぼくたちからひとつ提案があってね」
「あのあの、うちらがこんな風に誘うの初めてだから、誇ってもいいんだよ?」
ニコニコニコニコ――、と弾んだ調子で、ゲミニードスとゲミニーグスは声を合わせた。
「「ねぇねぇ、ウルティナちゃん。ぼくらの手下にならない?」」
ウルティナが、小さく息を吐く。
その顔には、未だ笑顔が宿っていた。
「つまりは私たちに、[統一最強決定戦]の南地区大会で負けろ、と言いたくって?」
ふざけないで頂戴、と強い声で発される。
「私たち、この地で最強になるために今ここに立っておりますのよ。そのことは先程の自己紹介でも言ったはず。
なれば、あなた方の手下になどならないことは自明でしょう?」
当たり前であることを当たり前であるように告げる彼女に、ゲミニードスとゲミニーグスは残念そうに肩を竦めた。
「むぅむぅ、そうだよねぇ、そう簡単にはいなないよねぇ」
「うむうむ、セクリアくんはいいから、ウルティナちゃんだけでも引き入れたかったんだけどなぁ」
「……どういう、ことですの?」
二人の言葉に、思わずと言った感じでウルティナが怪訝そうに尋ねる。
それにゲミニードスとゲミニーグスは不思議そうに声を連ねた。
「あのあの、ぼくらが興味あるの、ウルティナちゃんだけだもん」
「そのその、ウルティナちゃん、うちらの世界を万が一にも億が一にも変えちゃうかもしれないから」
「そうそう、ぼくらとハーくんの長年の戦いが失くなっちゃうの、悲しいもん」
「うんうん、うちらもっとハーくんと戦いたいもん」
言外に、セクリアには興味がないと言っているようなもの。
実力が全てのこの土地で、鏡写しの二人の集落の長がセクリアに実力などないと明言している。
その事実に、セクリアは小さく肩を震わせ、けれども陰すらないぼんやりとした表情のままにただウルティナの斜め後ろに立っているだけだった。
「話がそれだけでしたら、私たちは退席願いたいのですけれども」
むしろウルティナの方が、ゲミニードスとゲミニーグスの言葉に感情を震わせているようだ。
発している声に、僅かだが確かに棘が含まれているのが聞き取れた。
「えーえー、もうちょっと話そうよぉ」
「むーむー、ウルティナちゃんの人形さんのこととか教えてほしいよぉ」
遊び足りないといった鏡写しの彼と彼女。
ウルティナは今までよりも大きく息を吸うと、そっと目を細めて単調な声音で言い放つ。
「人形は私の武器ですわ。大会を目前にして、わざわざ戦いの手の内を曝すような人がいると思いまして?」
[統一最強決定戦]の一組の参加上限が二人であることから、フィーディーのことを『武器』と言った。
普段の彼女からは、考えることもできないような言葉。
「それでは、失礼させていただきますわ」
そして、演技としての普段の彼女では有り得ないほどに、感情が外に溢れている。
ウルティナは、冷たい声で最低限の挨拶だけをし、招待側の意見も聞かずに部屋を出た。
倣い、セクリアも部屋を退出する。
そのまま一言も話すことなく、鏡写しの長らがいる一軒家を後にした。
[統一最強決定戦]南地区大会に出場する旨を今いる集落の人に伝え、ほどなくして大会中に滞在することのできる宿を借りることができた。
その宿の中に入り、ようやくウルティナはセクリアに対し問う。
「悩みがあるのならば聞きますけれど、ありまして?」
けれどもセクリアは緩慢に横に首を振り、ただ一言ないと告げた。
「そう」
ウルティナは吐き捨てるようにして言う。
「明日は大会ですの、今日はもう休みましょう」
その目には微塵も感情が浮いていなかった。
今回でちょうど五十話目(第五十部分?)となりました。
応援してくださっている皆様、ありがとうございます。
そして、次話は今年の三月頃になるかと思われます。
というのも、活動報告では詳しく説明しておりました試験というものが、もう間もなく始まるからです。
この試験は今後の人生を左右するものであるため、ここから先は試験に対する勉強に全てを振り切りたいと考えております。
そのため、その試験が終わるまでは今まで以上に執筆時間を取ることができず、故に次話の投稿は試験が終わる三月頃になります。
続きを待ってくださる皆様、申し訳ありません。
試験が終わり次第、ウルティナたちの物語を駆け抜けていくため、今しばらくお待ちいただけると、とても嬉しいです。
以上、長文失礼しました。




