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4.魔法陣が描かれなくて……

遅くなり、申しわけありませんでした。


「終わったよ、ティナ」


 フィーディーがウルティナの耳元でささやく。


 ウルティナはなにかを確認するかのように押し黙り、少ししてからうなずいた。


「……ええ、そのようですわね。魔物の核の反応が消えていましたわ」


 魔力で周りの状況はつかんでいたが、その上で念には念をいれてということでポープル5体がきちんと絶命したかを確かめたのだ。


 指揮棒を一振りして、ウルティナは手元に七体の人形を集める。そのうち六体いるうさちゃん’sとの魔力のつながりを途切れさせた。


「あれ? ボクの魔力は切らないの??」


「この先はまだ行ったことのない土地ですから。もしものことに備えて、フィーディーとの魔力のつながりは切らないでおこうと考えましたのよ」


「へへっ。頼ってくれるの、嬉しいなっ!」


 相変わらずの無表情だが、それでも嬉々とした感情を惜しむらく表現しているフィーディーに、ウルティナは微笑を浮かべる。

 ポープルとの戦闘が終了して、彼女は閉ざしていた目を開き、服も元のものに戻していた。


「それで、ティナ。久しぶりの実戦はどうだった?」


 ウルティナから手渡された魔光石に魔力を流して光らせながら、フィーディーは尋ねる。

 問いに対してウルティナは、人形たちをしまったポシェットに手を当てた状態でコクリと頭を横に倒した。指揮棒を持った右手をあごにあて、つい先ほどの戦いを思い返す。


「そうですわね……。技術自体は鈍っていなかったと思いますの。夜闇の、しかも星の光でさえもない空間で、きちんと状況を把握できていましたし」


「うんうん。ポープルたちの場所はティナが送ってくれたイメージ上の場所と全く同じだったよ。

 魔力だって、多くも少なくもない、ちょうどいい感じで送ってくれたしね。おかげで、無駄なく倒すことができたの!」


「ふふっ、ありがとね。私一人では戦う術がほとんどありませんから」


「またまたぁ、そんなこと言って。そりゃあ、ティナの[勲章]だと無理かもしれないけどさ。でも、ボクらだって、ティナから生み出されたんだよ?」


 ウルティナの顔を下からのぞきこむようにして、その上首をかしげながら励ましの言葉を告げるフィーディー。その様子にウルティナは小さく目を見開いて、顔を綻ばせた。


「……っんもう、そんなこと、言わないでいだけませんこと? 恥ずかしいですわ」


 顔を背けてはいるものの、ウルティナはとても嬉しそうだ。


 前世、彼女は他から認められることがほとんどなかった。ほめられることも、励まされることも、なかった。それらは全て彼女の前世の兄へ、向けられてしまっていたから。


 [勲章]とはごく一部の人が生まれつき持っている、持っていない人とは格一した能力のこと。魔法も魔道具などを使わない限りは[勲章]を持っていないと使用できない。

 また、これを有する人は[勲章持ち]と呼ばれる。


 ウルティナも[指揮者(マギステル)]という[勲章]を持っていて、自身の魔力で作り出した核をいれたものに魔力を流すことで、そのものを操り、そしてそれを通してならば魔法が使えるというものだ。

 しかし、普通は魔力で核を作るということ自体とても難易度が高いこと。核を作るには一定の量で魔力を一定の位置に集め続けなければならず、特別な道具を用いれば気の遠くなるくらいの時間はかかるもののなんとか作ることのできる、というくらいには難しいことである。もしも道具を用いずにやろうと思えば、常軌を逸した魔力のコントロール能力が必要不可欠で、一定時間集中力を切らさないという精神力も必要となってくる。

 それゆえに、[指揮者(マギステル)]という[勲章]は実現可能性が極めて低いとして、ハズレの[勲章]とされていた。


 だが。



 ウルティナには、その二つの能力が備わっている。



 つい先ほど七体の人形で戦闘を行えたことが、能力があるということを事実として証明してくれるだろう。


「まったく、ティナったら。そんなに照れなくてもいいのに」


「別に、照れていませんわよっ。あ、そう、そうですわ。ほら、先ほどティニヤが使っていた魔法。とても便利ですわよね」


 あたふたと手をあらぬ方向に振り回しながら、なんとか話題を変えようとする。そんなウルティナを見て、小人の人形は小さく笑っていた。


 六体のうさぎ人形にもそれぞれ名前がついていて、赤色がピュイル、青色がヒュドー、黄色がアンモス、緑色がアネーモ、白色がポーメルン、そして黒色がティニヤという。

 ティニヤが使った魔法は、唯一戦闘中で魔法陣が描かれた《狂詩曲(ラプソディー)第六番『(とばり)』》だ。


「クスッ、……そーだね。なんたって、発動させている間は他の魔法の魔法陣の光を隠しちゃうんだもん。魔法陣は光で描かれるから、実質、魔法陣自体を隠すことになるしさ」


「ええ。今回はただ光を覆い隠すために使いましたけれども」


「ポープルたちから光を奪うために魔光石を消したのに、魔法を発動させるときに光が出ちゃあ、意味ないもんね」


 片方は歩きながら、もう片方は飛びながら、会話を続ける。


「おそらくですけど、ポープルは多分、魔光石の光を目当てにこちらへ来たのだと思いますのよ。ポープルはたしか、夜行性ではなかったはずですし。

 なんらかの理由で行動していて、たまたま光を見つけた、というところかしら」


「だろうね。いきなり光が消えて慌てているポープルを討つのは、結構簡単だったよ」


 《円舞曲(ワルツ)第二番『明鏡止水』》。


 黄色のアンモスが敵の動きを砂の魔法で縛り、


 赤色のピュイルがフィーディーの攻撃力を上げ、


 緑色のアモーネがフィーディーの素早さを上げ、


 仕上げにフィーディーが、目にもとまらぬ速さで、魔力の刃で敵を討つ。


 今回フィーディーが攻撃したのは、魔物の核。

 魔物は肉体を持っていることが多い(中には精神体だけのものもいる)が、いくらその肉体を攻撃したところで魔物は絶命しない。殺すには、核を打ち砕く必要がある。

 逆を言えば、核さえ壊せれば魔物を倒すことができるということ。そのため、フィーディーは一突きで核を打ち砕いた、というわけだ。魔物は核を壊されると、肉体も全て消えて無くなってしまう。


 《狂詩曲(ラプソディー)第六番『(とばり)』》によって魔法陣を消し、《円舞曲(ワルツ)第二番『明鏡止水』》で気づかないうちに討たれる。


 光を失ったポープルからすれば、何が起こったのかわからずに命を手放したに違いない。


「まったく。加速したかと思ったらいきなり耳元で囁くんですもの。少し驚きましたのよ?」


「あれ? そ、そうだったの? ごめんね……」


 シュンとしてフィーディーはうつむく。落ち込んだ様子の人形に、ウルティナは慌てて付け足した。


「い、いえ、そういうわけではありませんのよ。

 ほら、棄てられる前の最後の実戦の時よりもはるかに速く鋭くなっておりましたから。これほどまでの短時間で五体のポープルを全員倒してしまったのですもの。私じゃなくても驚きますわよ」


「えっ、そうかな? へへっ、ありがと」


 一転、フィーディーはニコニコと笑い出しそうな勢いでそう言う。あまりの変わりように、ウルティナも(フィーディーの声のトーンに)つられて笑った。



「そういや、さ。ティナはこっからどーするつもりなの? 仲間になる人を探すって言ってたけどさ」


「もちろん探しますわ。ですので、まずは歩き回ってみようかと。拠点になりそうな土地を見つけられたらなお良いですけど」


「オッケー。そんじゃ、移動しながら拠点を探すということでいいかな?」


 フィーディーの問いに、ウルティナは小さくうなずいた。

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