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悪役令嬢が○○になってはいけませんの?  作者: 叶奏
三章 集落の代表者
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43.謎の男性に誘われて……



「なぜ行かなくてはならないのか。それに従う理由を教えてくださりませんこと?」


 [紅之指揮棒(ルーフス=リネア)]を構え警戒は解かぬまま、されど不敵な笑みを演技として浮かべた状態で、ウルティナは男性に問いかけた。

 内心の僅かながらの驚愕と困惑とを目の前に突如として影から現れた謎の男に悟られぬようにするために。彼女は微笑んでいた。


 フィーディーはもとより表情がない故、ウルティナの右肩付近でただふよふよと浮いている。心の内は大いに荒れているのかもしれないが、声に出さないよう黙っているようだ。


 そして、セクリアは、というと。


「…………」


 フィーディーと同じ様子――すなわち、無表情で。ウルティナの左後ろにたたずんでいた。

 ぼんやりとした瞳が、なんとか突然出現した男に向けられているとわかるくらいの、曖昧で不確かな光をその双眸に宿して。


 ――理由でしょうか、と。男は口を開く。


「あなた様が私にお気づきになられたからです。

 もし見込みがあるのならば連れてこいと、我が主が仰られておりましたので」


 淡々とした返答に、けれどもウルティナは首を横に振った。


「聞きたいことはそういうことではなくってよ。

 ()()()()。貴方の主に従う必要はあるのか、と。

 その理由を尋ねておりますの」

「ああ、なるほど。申し訳ありません、そのことについてはすでに把握済みであると考えておりましたもので。


 ……もしやあなた様がこちらの大陸へ来られたのは最近、ということでしょうか? どうやらあなた様、()()であるとお見受けしますがゆえに」

「……こちらの大陸に来たのはそこまで最近という訳ではありませんの。

 ただ、こちらの大陸の知的共同体――つまりは集落なる場所に足を踏み入れたのは、つい最近、といったところかしら」

「理解致しました。

 失礼ながらに簡略化させていただきますと、

 あなた様はこちらの集落や集落間における風習的な決まりごとの全てを認識しているわけではない、

 ということですね?」

「そういうことになりますわね。お恥ずかしい限りではありますけれども」


 笑みをたたえつつも潔く自身の非を認めたウルティナの言葉に。


 ふと、セクリアは、思考の渦に捕らわれそうになり。


 キュッと目蓋を閉ざすと、細切れに息を吸って、吐いて。

 なんとか心を渦から遠ざけた。


 そんな彼の目前で、ウルティナと男による会話は続く。


「了解致しました。それでは、あなた様の『なぜ従う必要があるのか』という疑問に僭越ながら答えさせていただきます。

 [統一最強決定戦(ディナトティシム)]の集落別大会において優勝した者は、一(イヤー)間。その集落の長となる権利が与えられます。もし二人一組として優勝した場合も同様に、その一組で集落の長となることが権利として付与されるのです。


 つまり、集落内での序列が一位であった者あるいは二人組が、その集落でのトップとなり他の者々を治めるのです。来(イヤー)の大会で蹴落とされない限りは」

「……ようは、それが地区大会でも当てはまるということですのね?」

「はい。その通りでございます。

 残念ながら、あなた様が属している集落は昨年の地区大会にて、我が主の治める集落よりも序列が低いと証明されております。

 だからこそ、もしかすると今年の大会であなた様方が我が主にお勝ちになるのかもしれませんが、現時点ではあなた様方は我が主に従わなくてはならないのです。

 それはたとえ今この瞬間にあなた様が他の集落へ属することとなっても同じこと。他の集落ではそもそも南地区大会に出場する権利を与えられていないのですから、出場する権利を持つ我が主よりは弱いとみなされるのですから」


「――もしそれでもなお、嫌、と言ったら。どうなりまして?」

「その場合、あなた様方が我が主と戦い、我が主よりも強いと証明する必要があります」

「なるほど。どちらにせよ、貴方の主には会わなくてはならない、ということですのね」


 ふぅ、と見かけでは一息つきつつも、ウルティナは念話でセクリアとフィーディーに問いかける。


【ついていく、と。答えてしまってもよろしくって?】

【うん、ボクはそれで構わないよ】

【……ん。俺、も……】


 彼らの意思をきちんと確かめ、そしてウルティナは宣言した。


「わかりました。貴方の主へ会いに行きましょう」






 ☆☆☆






 一方、その頃。

 ウルティナとセクリアが長となった集落から、南地区大会の行われる集落へ向かう道のちょうど半分を過ぎたところを早足で進む二人組がいた。


 片方は左右で色の違う髪の毛をポニーテールで頭の高くにくくったポンチョのような短めのローブを羽織った、身の丈ほどある杖を背負った少女。

 もう片方は、ボサボサの短髪に、こちらは足首まである肩マントをまといフードまで被っている、身長の半分以上はありそうな大剣を背負った少年だ。


 二人は一言も話すことなく歩いていたが、ふとした様子で少年が口を開いた。


「……つーかこれ、大会までに間に合うのかよ」


 それはポツリと呟かれた言葉であったが、少女の耳にはしっかりと届いていたようで。


「間に合う間に合わないじゃなくて、間に合わせるんでしょっ!

 てーかセクリアに負けてめそめそして出発遅くなったの、アンタのせいなんだからねっ。

 アタシを抱えてでもいいから、もっと早く歩きなさいよっ!!」


「へいへい、姫さんはもっと早く歩かなくていいって前提なのはどうかと思うけど」


「なによ、そんなあつっくるしい格好しときながら。

 別に今目の前にセクリアがいるわけでもないんだから、そのマント、脱いじゃえばいいのに」


「な……っ。し、しかたないだろ! いつどこで遭遇するかわかんねぇんだからよっ!

 いきなりぱったり出くわして、気マズくなんのイヤじゃんっ!?」


「会うわけないでしょ、こんな一本道で。あっちはすでに隣の集落についてるかもしんないし。

 だいたいアンタ、怖がりすぎなのよ。

 そんなんだから、追い出されそうになったセクリアを引き留めとり追いかけれたりしなかったのよ。

 今回だって、負けちゃったのよっ!」


「んなっ!? ひひひ、姫さんだってっ!

 あっけなく負けてたじゃねぇかぁっ!」


「そりゃそうでしょ。母さまも勝てなかった相手だもの。ウルティナさんはねっ。

 ……あぁ、母さま大丈夫かしら。

 正直母さまとの戦闘ではお荷物でしかなかったセクリアを背負いながら、それでもアタシと同い年っぽいウルティナさんに負けちゃったんだもの。

 やっぱ、こんなリーウィーのクズなんて放っておいて、母さまと一緒にいた方が良かったかしら……」


「おーい、姫さーん、聞こえてんぞぉ~。

 つぅか戻りたいなら戻りゃあいいじゃんか」


「うっさいわね。アンタ一人じゃどーにもなりそうにないからついてきてやってんでしょ!

 グズグス無駄口たたいてるひまあったら、もっと早く足を動かしたらどうなの?

 アタシを抱えてねっ!!」


「はぁ? それは姫さんも同じだろ!? ペチャクチャしゃべんってんのはよぉ!

 あとそれから、ぜってぇに抱えたりなんかしねぇかんなっ!!」


「ふんっ。どっちでもいいから、さっさと前に進みなさいよ」


「進んではいっからな!?」


 そうして、陽の傾きつつある道を、男女二人組――



 ――元集落長の娘、メディミィ・クルテリーアと、

 かの因縁の少年、リーウィー・プラエティウムは。


 せっせと早足で南地区大会に間に合うことを願いつつ。隣の集落へと向かうのであった。



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