42.因縁の相手を叩きのめして……
後書きにイラストがあります。
苦手な方はご注意くださいませ。
セクリアのもといた集落での本戦。
の、二回戦。
と、三回戦。つまり、集落別大会の決勝戦。
双方共に、フィーディー無しでなんとか切り抜けた。
二回戦目、三回戦目と回を経るにつれ動きが単調化したセクリアだったが、それでも[超級]の魔物による手解きを受けた二人が負けることはなかったのだ。
もっとも、単調となりつつあるセクリアに対し、歓声は大きく豊かになっていったが。
二人の力が徐々に認められつつある、ということだろう。
そうして現在、セクリアとウルティナ、フィーディーらは南地区大会の開かれる会場となる集落への移動をしていた。
「……ん?」
無言で歩いていた中、ふとウルティナが疑問の声をもらす。
「今、なにかが近くを通りすぎませんでしたこと?」
立ち止まり、むず痒そうな顔でそっと地面に片手を触れさせた。
正確には、地面に横たわる木々の影に。
「なにか、私たちのものではない魔力が引っ掛かったような気がしたのですが……」
気がかりな面持ちな彼女に、フィーディーはこてんっと首をかしげる。
「ぅえっと、その影のなかを、ってことだよね?」
「なんとなくですが、おそらく」
影のなかをなにかが通りすぎて、それをウルティナが感じ取った、ということだ。
「ボクはなにも感じなかったけど、でもティナが、だもんなぁ……。前の洞窟の件もあるし、本当になにかが通りすぎたのかもね。
セクリアはどう思う?」
フィーディーからの問いかけに、ぼんやりと木々の影にかざされたウルティナの手に視線を送っていたセクリアは、フィーディーに視点を当てて応える。
「…………ん、……そう、だね。……なにか、通りすぎた……んじゃ、ないかな……」
光を反射しない瞳を微笑ませながら、「……影を……移動、できる……[勲章持ち]、も、いるって。……聞いた、こと、ある……よ」と無機質な声音で付け足した。
「……影を移動できる、ですか……。もしも制限無しに使えるとしたら、相当厄介なものとなりますわね」
返答したセクリアの様子に目を細めながらも、ウルティナは僅かに緊迫した表情を見せながら呟く。
フィーディーも同じ意見のようで、深く頷いた。
「ねねっ。とにかく、先に進もう。
南地区大会はさっきまでいた集落の隣で開かれるんだよね? しかも、明日から。
だから、できるだけ早くついて、今日は休んだ方がいいと思うんだ。
ここまで来るのに二日間野宿で来てるんだし、集落についたら部屋は貸してくれるって言ってたから、その部屋でさ。
だから、進もうよ。ね?」
「そう、ですわね。大会前日にわざわざ立ち止まってまでする話ではごさいませんもの。
止まってしまい、申し訳ありません」
「んんっ、ボクはだいじょーぶだよ?」
立ち上がったウルティナと、付随するようにして高く浮き上がったフィーディー。
セクリアはなにも言わぬまま、彼女らの後ろをついて歩き出した。
「んと、次の大会からはボクも出るんだよね?」
「ええ、そう考えておりますわ。
集落別大会の時に他の集落の刺客がいたであろうことは容易に想像がつきますし、ならば戦法は多少なりとも変えて挑んだ方が、対策が練られていない分、勝率も上がるでしょうから。
[統一最強決定戦]において最終戦となる東地区のいずれかの集落の代表者……つまるところ、東地区からの刺客は恐らく来ていないでしょうし。
フィーディーを隠しておくメリットも、もうありませんもの」
「んと、たしかこっちの大陸の山脈によって分けられた地区で、集落があるのが東と南だけで、最終戦はその二つの地区の大会で勝ち上がった集落の代表者が戦うのが、[統一最強決定戦]の最後の戦いなんだよね。
それで、なぜかわかんないけどここ十数年間はその最後の戦いが執り行われていなくて。だから、わざわざ刺客なんていないだろう、ということなんだったよね?」
「その通りですわ。
もしかするといるかもしれませんけれど、まぁ、その確率は低いでしょう。東地区の方々に私たちの本当の戦法を知られるかもしれないことを恐れるのは、わざわざフィーディーを隠して戦い続けるほどのメリットにもなりませんから」
先ほどまでと同じ速度で歩きつつ語るウルティナの後ろを、セクリアは口を挟むことなくついていく。
無言で歩き続ける。
そんな彼を振り向き、ウルティナから語りかけられた。
「ところでセクリア、調子はいかがでして?」
問いかけに対し、セクリアはのっそりとした様子で笑いを張り付けながら、『いつも通り』応えた。
「……ん、だいじょーぶ、だ、よ。……きちんと、戦える」
「…………本当に、大丈夫ですのね?」
重ね問いかけてくるウルティナに、しかしセクリアは疑問に思うこともなく「だいじょーぶ」と即答する。
「……そう。なら、良いのですけれど。
どうしても辛いときは、必ず言ってくださいな。私たちは[紅の契約]で結ばれた、唯一無二の相棒なのですから」
「……ん、あり、がと……」
どう見ても納得していない様子だがひとまずは引いたウルティナ。
フィーディーも不可解そうに首をかしげる中、セクリアはただひとり笑っていた。
そのまま一行に会話はなくなり、ただただ先へと進んでいく。
およそ三時間が過ぎた頃。
目的地となっていた集落を囲う壁の前の兵士が視認できるようになっていた。
「そろそろですわね」と、ウルティナが一人と一体に話しかけようとして。
――ハッ、と。
立ち止まる。
まばたきよりも早く[紅之指揮棒]をポシェットから抜き放ち、構えた。
突然の警戒をあらわにした彼女に、フィーディーは困惑を。
そしてセクリアは表情を変えずに。
それぞれその場に留まる。
「どうしたの、ティナ」
「……なにか、いますわ。
そこの影に」
ウルティナが指揮棒で指した先。
一見、辺りのそれらと変わらぬ影。
傾きつつある陽を捉え、ゆったりとした速度で長くなっている半透明の黒色。
一分過ぎても、二分過ぎても、三四五分過ぎても。
何も変わらない、鈍色の姿。
けれどもウルティナの緊迫した表情も変わらないままで。
戸惑いにしびれを切らしたフィーディーが、再度。
自身の主人に問いかける。
問いかけようとした、その瞬間だった。
――ぐにゃっ、と。
影があり得ない形に歪む。
紫とも黒とも紺ともつかない、闇色の光。
シルエットは人型で。
光の収まった先に現れたのは、ウルティナよりも少しだけ背の高い、けれどもセクリアよりかは低い、中性の顔立ちをした男性。
執事と暗殺者を足して二で割ったような外見をしている。
ふわりと羽織った影色のマントと、そしてフードを深く被った男性は。
二人と一体にささめくようにして告げた。
「私に随伴願います。
――我が主がお呼びです」




