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悪役令嬢が○○になってはいけませんの?  作者: 叶奏
三章 集落の代表者
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35.勢いのよい言葉を浴びて……

 本日二話目の投稿です。

 また、前話に宣告した通り、タイトルを試験的に変更いたしました。


 話しやすいようにとウルティナは彼から少し距離をとって座る。


「もし、話してくださるならばで構いませんが」


「……な、に……?」


「あなたが『罪人』となった経緯について」


「……あ、うん……」


 一度空回りした唇を湿らせて、セクリアは語り始めた。


「……俺、さ。……魔力……なかっ、た……よね……?」


「そうですわね。私と契約を結ぶ前は、ほとんどなかった」


「……ん。……で、俺……は、……集落、で……居場所……なか、った……んだ。

 ……でも、一人……だけ……。仲の、いい……人、が……いて、ね……」


 一度言葉を途切れさせると、セクリアは苦しそうに目を細めてうつむき告白した。


「……その人、に……罪、を……押し、付け……られた、ん、だ」


「押し付けられた……? でしたらあなたは、罪人ではないのでは?」


「……んん、違う。……俺は、『罪人』、だ、よ……。

 弱く、て……逃げ出し、た……『罪人』……だ。

 ……(わら)い、ながら……泣いて、いた……彼、に……なに、も……でき、な……かった……罪、深き、人」


「……そう」


 彼の言葉にウルティナは小さく返した。


「あなたが『罪人』になった経緯はよくわかりましたわ。

 けれど、今のあなたは強くなった。魔力だって前よりもある。

 こちらの土地は、全てが実力で決まるのでしょう? でしたら、あなたの『罪人』というレッテルも無理やり剥がしてしまえばいい。

 逃げたことが『罪』で、絶対に背負わなければならないと言うなら、もう二度と逃げなければこれ以上の『罪』を背負わなくてよくってよ」


 優しく微笑みかけるウルティナに、本日三度目の驚きを、セクリアは息を呑むことで表現する。


「……そ、んな……単純、に……」


「いいじゃないですの、単純で。あまり複雑に考えすぎるのも、ときとして不利益を生み出しますわよ」


「……単純、に……考え、る」


 いつでも他人の顔をうかがいながら生きていかなければいけなかった、そんな力のない頃の自分。

 人というものはえてして複雑なものだ。だからこそ、思考も複雑になりすぎていたのかもしれない。


 明日、集落へ戻る。

 セクリアはあの彼と出会うだろう。


(単純、に、考える。……伝え、られな、かった、思い。彼の、泣き顔。罪を、擦り……付けられ、た……理由)


 それを直球に聞いてみるのもいいのかもしれない。

 直球に言ってしまうのも、いいかもしれない。


「さ、明日からまた忙しくなりますわ。そろそろ寝ましょう。セクリアも、もう言いたいことはなくって?」


「……ん、ない、よ。……あり、がと。……俺、を……受け、入れて……くれ、て」


「こちらこそ、ですわ」


 ウルティナとセクリアはそれぞれ近くの木に寄りかかると、今日最後の挨拶を交わす。


「では、おやすみなさい」


「……ん……おや、すみ」







 ☆☆☆







 セクリアが寝静まった後。


「ティナ、寝れないの?」


 二人の会話のなかで一言も話さなかったフィーディーがウルティナに話しかけた。


「……明日に備えて睡眠をとらなくてはならないことはわかっていますわ」


 小さく燃える炎を見つめながらウルティナはささやく。



「驚いたの?」


「なにに、でして?」


「セクリアの言動に、だよ。

 ティナさ、本気で殺されるかもしれないって思ってたでしょ? 恐怖で狂った生き物は、なにをしでかすかわかんないもんね」


「正直、そんな思いもありましたわ。今さら私一人ではこの先も戦い抜くことはできないでしょうし、殺されたら殺されたで死期が早まったとしか考えなかったでしょうね。

 もちろん、抵抗をするつもりではいましたけれど。彼が死んでしまえば私も死んでしまう。彼が私に反するなら、私は彼の身体を縛ってでも引きずってでも連れていく。

 彼の行動が私のあの男を見返すための計画に支障を来すなら」


「でも、違った」


「ええ。

 とはいえ、彼が彼のために私を利用していることは知っておりますし。[魂間契約]を締結する覚悟をもって私を利用しているなら、これしきのことでは動揺しないだろうなとは予想していましたのよ」


 淡々とした口調で述べていくウルティナに、フィーディーはもう一度「違う」と言った。


「ティナは驚いていたよ。全く予想通りではなかった」


「ですから、セクリアが動揺せずこれからも共に行動することは予想していたと」


「うん、たしかに外見だけを見ればティナの言う通りだ。でも、やっぱり予想は外れていたんだよ」


 珍しくフィーディーが、ウルティナに対して反意を論じる。


「だから、外れてなどいませんわ」


「外れていたんだってば」


 何度でも繰り返す。


「でしたら、なにを理由に外れていたと言いまして?」


 眉を潜めたウルティナがついに理由を問うた。


「簡単さ。

 覚えてる? 王子から婚約を破棄されたときのこと」


「そりゃあ、もちろん」


 このことと今がどう関係しているのかと言いたげだ。


「普通はね、ティナ。

 いくら結果を想像していたからって、国外へ追放されるとなったらなにかしら感情が顔に出るもんなんだよ。

 普通の人がそんな状況で演技なんて、できないんだよ?」


「そうかもしれませんわね」


「つまるところ、僕が言いたいのは。ティナは普通ではないレベルで感情を抑えられるってことさ」


 ウルティナは無言で先を促す。


「それで今日のことなんだけど。

 ティナさ、得意な笑顔の仮面を被ってたのに、いつの間にか外れていたよね?」


「……そうですわね」


「予想通りなら絶対に外れない、ティナの笑顔が、だよ?」


「外れたら、なんですの」


「つまり、ティナの予想が外れたから仮面も外れたんじゃないか、って言いたいわけさ。

 あまつさえ()()()と同じように、涙まで流していた」


「予想は外していませんわ。私が泣いてしまったのも、セクリアの迫力に思わず、ですのよ。

 ()()()だって、そもそも私が計画したことですし、それでも感じてしまった罪悪感に泣いてしまっただけですもの」


 理由を説明されて、それでもウルティナが意見を変えることはない。


「…………ティナがそこまで言いきるなら、もう言わないけどさ。

 ティナったら、他の人の気持ちは推測できるのに、自分の気持ちをしっかり把握してないんだもん」


 結局フィーディーの方がおれてしまった。

 ウルティナの騎士たろうとするフィーディーからすれば、これ以上反対した傷つけてしまう以上の価値を、この段階で反論して伝えようとすることに見出だせなかったから。


「でもいつか、ティナがティナの本当の気持ちに気づければいいな、って思うよ。

 きっとそれは、ティナの心を大きく救うから」


 ほら、もう寝た方がいいよと。


 会話を打ち切るようにしてフィーディーは告げる。

 フィーディーの言葉に疑念を感じながらも、自分を気遣ってくれているということはわかっていたため、ここは素直に頷くことにする。


「そうさせていただきますわ。見張りをお願いしますね」


「うん、任せて」


「では。おやすみなさい」


「おやすみ、ティナ」


 明日に備え、ウルティナは目を閉じて、やがて眠りにつく。




 明日。

 新たな集落へ。

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