32.指導を受けることになって……
明けましておめでとうございます。
そして、申し訳ありませんっ!
遅れました。年明けるまでに投稿できなかった……。
今回、本文中とあとがきに挿し絵があります。
苦手な方は注意してください。
(今回も少し長めです)
三ヶ月の時が流れた。
「行きますわよっ、《演奏開始》!」
ウルティナは[紅之指揮棒]を一振り。
カッと光に包まれ、装いが変化する。
それを受けてフィーディーとセクリアは強く頷くと、すぐさま陣形をとった。
セクリアが一番前の前衛、ウルティナが一番後ろの後衛、そしてフィーディーが状況に応じて立ち位置を変化する遊撃を担当する。
今回の戦闘での初期位置はセクリアとほぼ横並びの前衛だ。
「グルゥ……」
突然にして目の前に現れた侵入者に、しかし魔物は余裕たっぷりというように大きなあくびをかます。
ちらりと二人と一体に向けられた視線にはどこか嘲笑うような光も含まれていた。
それもそうだ。
この[上級-Ⅲ]の魔物ドラトパスは、一度彼女たちを完膚なきまでに潰しているのだから。特に本気を出すこともなく、それこそ纏わり付いてきた虫を追い払っただけ、という認識しかしていないから。
とはいえ、そこら辺の低級ランクの魔物を払うよりかは骨が折れることも前回の戦闘でドラトパスは学んでいたらしく、のっそりとした動作で身体を持ち上げた。
いくら面倒であったとしても、いやだからこそ次は迅速に潰してしまおうと考えたのかもしれない。
侵入者共を気絶させられたとして、次は気を散らしたりしない。謎の銀狼にまた、連れ去られるわけにはいかないから。
素早く潰し、素早く喰らう。
それだけ。
ドラゴン種特有の鱗が日の光を反射し、大きい翼の代わりにある力強い手足がどどんどどんと何度か地面を揺らす。
ドラトパスは空を舞うことの代わりに地を駆けるドラゴンなのだ。
「グゥォォォオオオオッッ!!!」
咆哮。
そしてダダンッ、と一際強く地を蹴る音。
【来ますわっ】
ウルティナは念話で告げる。
フィーディーともセクリアとも、同じ魔力で繋がっているのだ。
できない理由はない。
『少なくとも戦闘中は、念話で話すようにしなよ』とは、かの銀狼アルトゥの言葉だ。
『敵に行動のタイミングを知ることの出来る声という情報を与えないだけで、結構戦闘は楽になる。行動のタイミングが分からなくなるというハンデは大きなものだからね』と続けて言っていた。
【……んっ】
セクリアは念話で返事をして、
「……《その身に宿れ、横暴なる焔》っ!」
橙色の魔法陣が周囲を回る。
魔法発動の証拠だ。
今回は相手がまだ確立した知能を得ていなく、また昼間であることから《狂詩曲第六番『帳』》を使っていない。
【フィーディー】
【うん、ボクもいくね】
フィーディーはドラトパスを視界に捉えながら唱える。
「《狂詩曲第零番『幻』》」
魔法陣。
魔力の刃が人形を取り囲む。
地揺れを起こし、地を駆けるドラトパス。
セクリアは鞘から剣を抜き放つ。
凛として魔物を見据える。
一瞬後。
少年は前に倒れ込むように体重移動。
そのまま右足で地面を蹴った。
ヒュッ、と疾風になった彼。
音速を越え空間を移動する。
瞬間移動をした。
そう勘違いしてもおかしくないスピード。
直線上迫り来るドラトパスを、セクリアは一度横に跳んで回避。
一、二、でリズムを取り直す。
三、で再び疾風になる。
「はっ」
一突き。
だが避けられてしまう。
さすがは[超級]に近い[上級]の魔物と言ったところか。
Ⅲと図体は巨大だが、動きもまた素早い。
思わずセクリアはよろける。
そこをドラトパスは狙おうとして、
「よそ見しないでよ、ってね」
複数の刃に遮られた。
フィーディーが先程生み出したものだ。
――飛べるなら、その機動力を生かさないと。
アルトゥはそう言っていた。
幾度の試行錯誤。
その末にたどり着いた型が、今の戦闘型。
複数の刃で敵を翻弄し、切り刻む型。
ドラトパスの周りをちょこまかと空中移動。
何度か刃を放つ。
が。
【ティナ、こいつ強化魔法使ってるよっ。全然刃が通んないや】
傷一つ、まともにつけられやしない。
その間に体勢を立て直したセクリア。
また、突きを繰り出す。
今度は当たった。
「グオッ!?」
傷も、ついた。
ドラトパスが信じられないと声をあげる。
「ォォォオオオオオオオオッ!!!」
やがて状況が呑み込めたのか。
ドラトパスは怒りで空気を震わせた。
咆哮。
それはもはや、物理的な力を持った暴力。
その力は彼女たちに襲いかかる。
【危ない】
忙しない戦闘で判断が遅れないためと。
事前に思考速度を最大限に速くさせていたウルティナ。
暴力を防ぐ術を理論的に組み立てる。
――何時だって冷静にね。後衛で操る[指揮者]の君が焦ってしまったが最期、命の灯火を掻き消したと思え。君が、掻き消したと。
そう告げたアルトゥの冷ややかな笑顔は今でもウルティナの脳裏に残っている。
「やぁっッ」
高速思考で答えは導き出せた。
もう一度確認もした。
だからウルティナは指揮棒を振り下ろす。
否、指揮棒の上に纏わせている魔力の棍棒を振り下ろす。
直後、二人と一体の目の前の空気が震えた。
ウルティナの魔力障壁。
その壁にドラトパスの咆哮がぶち当たったのだ。
【二人とも。私がドラトパスの防御を何とかしますわ。うさぎたちも参戦させますの。だから、できる限りの撹乱をお願いしてもよろしくて?】
【うん、任せてよっ】
【……わか、った】
問いかけに、前衛役の人形と少年は頷く。
【ありがとう。
私が、絶対に! 活路を見いだして見せますのッ!!】
ウルティナは言い切る。
ポシェットから六体のうさぎ人形を宙に放った。
「《制御委託許可・狂詩曲第一~五番『焔』『漣』『鎖』『渦』『閃』》」
早口で唱える。
赤青黄緑白と、魔法陣がうさぎたちの胴の周りに出現した。
【どうする、セクリア】
フィーディーは尋ねる。
ドラトパスは咆哮を止められたことの驚愕で動きを止めている。
でも、すぐに動き出す。
[上級]の魔物だから。
ゆえに、撹乱方法はすぐに決めなくてはならない。
【……支援、を……任せて、も……いい……?】
【りょーかいだよっ。倒しちゃう勢いで攻めちゃって!】
【……ん】
深呼吸。
前を向く。
ダンッ、と地面を蹴る。
左手を前に、右手を後方へ引いて。
疾風の少年は、ドラトパスの横腹に右の剣を突きつけた。
「グオッ!!?」
ズザサァッ。
初めて。
この魔物を、退けられた。
調子にのりそうになる心。
今までなら、そのまま攻めていた。
だがセクリアは無理やり抑える。
――セクリアは一人で何でも突っ走り気味なんだよ。これから彼女等二人と生きていくなら、もっと周りを見るようにしな。そうじゃないと、いつか命を落としかねない。
アルトゥはそう言った。命云々は冗談であったのかもしれない。
でも、本当かもしれない。
いつかポガンテスとの戦闘で、腕を落とされかけたこともあったから。
周りを見ろ。
今は自分一人で生きているわけではないんだ。
無理してなんでもやらなくてもいい。
一人では無理でも、支えがあればきっとできるから。
だから。
周りを、見ろ。
ここは深追いせず、下がるべきだ。
深追いしたら、激情したドラトパスに喰われる。
その可能性は、比較的高い。
【フィーディー……っ!】
ワン、ツー。
バックステップ。
フィーディーとすれ違う。
「《委託演奏・狂詩曲第一、二番『焔』『漣』》」
赤と青のうさぎが魔法を放つ。
「ほいっ」
フィーディーも刃を舞わせる。
連撃。
ドラトパスの注意は十二分に引けている。
やがて攻撃に間が空く。
すかさずフィーディーは唱える。
「《委託演奏・狂詩曲第五番『閃』》」
眩しい光がドラトパスに襲いかかる。
ドラトパスは思わず瞼を閉ざす。
そしてセクリア。
見えない隙に近寄る。
周りを見るんだ。
状況を見極めろ。
パッ、とドラトパスは瞼を開いた。
「はぁっ!」
瞬間に、二連撃。
神速の剣先が、ドラトパスの両目を貫いた。
「グギャァァァァアアアアッッッ!!!」
暴れまわる。
ドラトパスの魔力操作に、綻びが生まれる。
「――解けろっ!!」
ウルティナが、指揮棒を振るう。
カシャァン、と。
魔力の解ける特有な音が響いた。
【今ですわっ!】
ニヤッ、と笑う。
決着の時だ。
隣で黒のティニヤがドラトパスにデバフの魔法をかける。
あらかじめ指示しておいたから。
ドラトパスの強化が解け、魔法も効くようになった。
フィーディーが、刃を束ねる。
セクリアが、剣を構える。
そして、そして、そして、、、
【行くよ】
【んっ】
ズパンッ、と。
ドラトパスの核が、砕け散った。
☆☆☆
「もうすぐですわね」
前を歩くウルティナが後ろを振り替えって言った。
「……ん。……そう、だね」
ワクワクした顔のウルティナとは対称的に、セクリアの顔はなんだか落ち込んでいる。
「どーしたの?」
フィーディーは不思議そうに尋ねるが、セクリアはより表情を重くするのみであった。
「……それにしても、アルトゥ。とても速かったですわね」
「たしかに、そうだったね。歩いて一、二時間かかった距離を一分もかからなかったし」
ドラトパス討伐後の話である。
影から見守っていたらしいアルトゥが姿を現し、ウルティナたちを洞窟まで運んでくれたのだ。
しかも、銀狼のような魔物の姿になって。
「……振り、落と……されない、か、……心配、だった……」
遠い目をしているセクリア。自分で音速を超える移動はできても、他によるものは慣れていないのであろう。
「アルトゥと別れてからもう一週間も経ちますのね」
「ここまで歩いてきたからね。そんなもんじゃない?」
もうまもなく南の土地へ出れる場所まで、山を抜けてきた。
「…………」
わずかに目を伏せ、セクリアは息を吸う。
「……ねぇ、ウルティナ」
「どうかされました?」
ウルティナは立ち止まり、セクリアに向き直った。
「……えっ……と……。
……洞窟の守護者、って……なにを、守って……いる、……のかな、って……」
勝手に動く唇を、彼は強く噛む。
言えない自分の弱さに、辟易する。
「わかりませんわよ、そんなもの。
結局、アルトゥが明かして下さったのってそれだけですものね。あの洞窟の奥にある何かについてのことは」
洞窟の守護者。
それが役割であると、アルトゥは言っていた。
「ですけれど、このまま突き進めば分かるかもしれませんわ」
だから、と少女は微笑む。
「この先も、共に歩んでいきましょう」
差し出された右手に。
思いもがけないその言葉に。
セクリアは、想う。
この先。
どんな困難があろうと。
案外どうにかなってしまいそうだな、と。
小さく、されど心の底からの笑みを浮かべて。
彼女の右手に、自分の右手を重ねた。




