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悪役令嬢が○○になってはいけませんの?  作者: 叶奏
二章 洞窟の守護者
34/73

31.魔物に欲しいものを問われて……

 遅くなりました。


 それから、今回少し長めになっております。


「と、唐突ですわね……」


 現時点で二人と一体が男に好印象を与えていることは判明したが。


「それは一つの質問、としてカウントしますわよ」


「ん? ああ、構わないよ」


 男はヘラヘラと顎に当てていた手を空中で二、三回ほど振る。


「そ、そうですの……」


 気にすることもなく返されたことに釈然としないウルティナだが、頭を切り替えると両隣にいるフィーディーとセクリアに声をかけた。


「二人は何かありまして?」


「ボクはティナといれれば、それでいいよ☆」


 問いかけに対し打って響く速度で返答したのはフィーディーだった。


「えっ……と、よろしいんですの?」


「うんっ」


 人形さんは力強く頭を縦に振った。

 それほどまでに気持ちが強いということだ。


「では、セクリアは?」


「……俺、も……いい、や」


「……へ?」


 予想外の返答である。


 ふっ、とセクリアは視線を外した。


「……俺、は……もら、って……ばかり……だか、ら……。今回、は……、ウルティナ、……選ん、で」


「そ、そうでして……? でしたら、私が言わせていただきますわね」


 まさかのどちらも意見なしにウルティナに委託する、という状況になった。

 困惑を混ぜつつも数回深呼吸を繰り返すことで心を落ち着かせると、ウルティナは瞼を下げる。

 顔を前に向け、次に瞳が光を宿したときには銀髪男を見据えていた。


「お、決まったっぽいね」


「ええ。私自身の望みは一つだけ、ですわ」


 願いを叶えるために、少女は望む。


「それは、力。全てをねじ伏せることのできる力を、私は手に入れたい」 


 猛々(たけだけ)しく、微笑(わら)う。


 それを見た男は、クイッと口角を上げた。


「うん、いいね。いい顔だよ。やっぱり面白い。ねぇ、君達。


 ――僕の指導を受けてよ」


「……………………はい?」


 またもやの唐突。


 しかも疑問形ですらなく、上からの命令形。


「あれ、聞こえなかったかな。だから、――」


「きちんと聞いておりましたわよっ!!」


 絶対にワザとである。


「ですけれど、すぐに呑み込めなくって。……指導、というのはつまり、あなたが私たちを育てて下さる、ということでして?

 そこを含め、詳しく教えて下さりませんこと?」


 絶賛混乱中なウルティナ。フィーディーもセクリアも同じような状況だ。 

「質問、だね」


「……ええ、そうなりますわね」


 少し気が急いてしまったことは否めない。

 男は続けた。


「だが言葉通りとしか言いようがない。

 あー、けど、先に一つ。質問をさせて欲しい。その答えによって、君からの質問の答えが変わるから」


「わ、わかりましたわ」


「うん、いくよ。

 君達のことは大体これまでに聞いてきたね。その結果、僕は君達に興味を抱いたんだけどさ。

 でも一つ、忘れちゃいけないことがあったんだ。とっても大事なことだよ、心して答えてね」


 それから一拍ため、男は問いを紡いだ。


「君達は何を目指しているのかい?」


 男はこれまでに一度も見せたことのないような、真剣な表情を浮かべていた。

 真っ直ぐな視線をもろに向けられたウルティナは、笑顔の奥で思わず唾を飲み込む。


「ボクはティナの行く場所に着いてくだけだよ☆ それ以上もそれ以下もないかな」


 ウルティナこそが全て。

 事実、彼女によって創られ、彼女の魔力無しでは意識を保つことすらできないフィーディーが一番に答えた。


「……俺、は……、居場所、を……探してる。……心の、底から、笑える、ような。……そんな、場所……を」


 続いてセクリア。

 魔力無しに等しいがゆえに迫害され、その末には心から信じるためと魂を賭けた大勝負にまで出た少年。

 もう後には引き返せないから、答えは迷うことなく出せた。


「……さぁ、後は双髪(ふたがみ)の君だけだよ。貴族の地位を失い、この土地までやって来た転生者の君は。果たして、何を目指しているのかな?」


 ウルティナの、隠しきれずにじみ出ていた緊張感を感じてだろうか。

 男は同じ問いを繰り返す。


「目的」


「そう。決まっていない、ということは無いだろう? 逆に決まっていなくて、それなのに[魂間契約]を結ぶに至った、なんてことはとてもじゃないが考えられない」


 [魂間契約]を結ぶ。

 このことを成し遂げるのは、

 [魂間契約]がなんたるかという常識を知らずに何も考えず結んでしまった常識知らずの馬鹿か、

 常識は知り得ていたがなお勝る想いがあって結んだ決意が固くまた勇気をもって決断するだけの力があるか、

 決意も何も関係なしに無理やり通すことのできるだけの力を他人からかけられたか。

 以上三つのいずれかでなければ成し遂げられないからだ。


「もちろん、ありましてよ」


 そしてウルティナ、二つ目の理由に該当していた。

 男も同じように考えたのは、ウルティナとの今までの会話の末に「こいつは馬鹿ではない」とわかっていたからだろう。


 ウルティナは一つ大きく息を吸うと、キッと焦点を男に合わせた。


「私の目標は、ある男を見下すことですわ。

 私の人生を狂わせ、全てを奪い去っていったアイツを。

 私のことを見下してばかりいたアイツをッ!

 今度は私が見下してやる。

 その為だけに、今の今まで生きてきましたのよ」


 そう、ともう一度息を吸う。


「私の目標を達するために必要でしたら、何だってやりますわ。

 ですので私は力を欲していますの。物理的にも地位としても。

 目的のためには、どちらも必要だから」


 真摯な光を宿した瞳に、男は表情を変えぬままに再度口を開いた。


「見下す……つまりは、復讐みたいな感じかな。

 もしかしてさ、君。断罪されて国外追放をされたから、という理由だけでそんなことを願っているわけではないよね?」


 問いに、ウルティナはまさかと肩をすくめる。


「そんなわけないでしょう。むしろ国外追放すら目的を達成するために仕向けたことでしてよ」


 馬鹿にするな、と。

 言外に伝えている。


「ふーん」


 男はニヤッと笑った。


「はハハッ。面白い、面白いよっ。貴族の地位を棄てたって、そこまでされると君の執念に敬服してしまうよ。

 うん、答えてくれて有難う。

 お陰で君達なら迷走しないと、そう確信が持てたよ」


 洞窟最新部に笑い声が響き渡る。


「さて、指導についてだったか。

 詳しくはこれから君達と相談して決めるつもりだ。なに、今更厳しい教えを受けたところで君達の心は折れやしないだろう? 僕について来てくれさえすれば、確実に君達は強くなる。

 特に双髪(ふたがみ)の君は、僕に対する偏見も抱くことは無いだろうし。それは十二分に理解しているし、だからこそ僕は期待している」


「私たちが指導を受けることはすでに決まっておりますのね……」


「そう望んだのは君達だし、この機会を逃せば後に後悔するよ。

 だってそうだろう。

 最高ランクの魔物に指導を受けるなんて、そもそも出会うことすら難しいのだから。極々稀な、それこそ運命と呼んでも良いのかもしれないね」


「……たしか、に……そう、か、も……しれない」


 案外セクリアは乗り気であるようだ。


「じゃ、早速始めようか」


「も、もうですの」


「ん? 魔力が枯渇しそうなのかい?」


 その通りである。


「わかっておいでなら、少し休憩をさせてくださいませんこと?」


 魔物である男に対する不審はあらかた解消してきているウルティナは、もうそろそろ魔力察知を止めても良いと判断した。

 消費し続けていた魔力を止めると、その場に座り込む。


「おそらく、もうあなたは私たちを殺しにかかるということはないでしょうし、少し睡眠をとらせていただけません? そちらの方が早く回復しますの。

 できればセクリアも寝ていただけると、より早くなるかと思われますわ」


「……ん、……わかっ、た」


「ティナが寝てる間はボクに任せて。ボクが魔力察知をやめていた分、魔力はまだ余ってるからさ」


 途中から魔力の消費を抑えるために、実はフィーディーによる魔力察知は止めていたのだ。


「お願いしますわ、フィーディー」


 ウルティナは微笑み感謝を述べる。


「そうだね。魔力は全回復しておいてくれた方が僕も助かる」


 睡眠を取ることに関して、男も了承をくだす。


 さて寝ようと、洞窟の壁を背もたれ代わりにしてウルティナとセクリアの二人はもたれ掛かる。


「……あ、ところでなんですけれど」


 ふと思いついたかのようにウルティナは言った。


「私が断罪されたから復讐をしようとしている、と答えたらどうするつもりでしたの?

 一回多くあなたが質問していましたし、帳尻あわせということで答えてくださりません?」


 質問された男は瞬間にして無表情になると、答えた。


「危険だと考え、有無を言わずに殺してたかな」


 答えてすぐにニッコリと笑う男。

 スッ、と洞窟の小部屋の温度が下がった気がしたのは、勘違いではあるまい。


 こうして問答は終わりを告げた。







 ☆☆☆







 数時間(アード)後。


 魔力を完全に回復させたウルティナ、セクリアと、二人が起きた後に魔力を補填してもらったフィーディー、それからいまだ長身に銀髪という人の形を取ったままの魔物男は森のなかを歩いていた。


「そういえば、あなたの名前をお伺いしておりませんでしたわね。教えてくださってもよろしくて?」


 男の後ろについて歩いていたウルティナが、今更ながらに尋ねる。


「ん? そういえばそうだね。長年話すこともほぼ無かったから、うっかりしていたよ」


 男は歩きながら続ける。


「僕は[超級-Ⅱ]の魔物フェンリル=ルプス。

 名はアルトゥ・アミューシオ。

 君達は?」


「私はウルティナ・コロン=ルーフスですわ。改めてよろしくお願い致しますの」


「ボクはフィーディー、っていうんだ。ティナに創られた人形だよ」


「……俺、は……セクリア・コロン=ルーフス……。よろ、しく……お願い、しま、す……」


 セクリアはまだ緊張が抜けきっていないようだ。


「二人は姓が同じなんだね。君達が交わしたという[魂間契約]によるものかい?」


「ええ、その通りですわ」


「やっぱり。婚姻の代わりとか?」


 ブフォッ、とセクリアが吹き出した。


「違いましてよ。[紅の契約]自体、出会って二日と経たぬ内に締結しましたの。恋愛感情など、抱く暇もありませんでしたわ」


「へぇ、そりゃまたすごい決断力だ」


 感心した様子の男、アルトゥ・アミューシオ。

 セクリア少年はいまだに咳き込んでいる。


「そろそろ着くぞ」


 アルトゥはそう言うと、その場に立ち止まった。


「そろそろも何も、私たちはこれから何をするのかさえ聞いておりませんわよ」


「ゴホゴホッ、……やりたい、こと、ある……って。……それ、だけ…しか……言われて、ない……です」


 ウルティナとセクリアからの指摘に、アルトゥはにこりと笑って答える。


「ここらに最近、僕が危険視している魔物が一体、いてね。そいつは[上級-Ⅲ]の魔物なんだけど、もう少しで[超級]になりそうでさ」


「……まさかその魔物と戦えと仰られるおつもりですの?」


 ウルティナが身構えて問うと、アルトゥはさらにニッコリと、笑みを深めた。


「御名答。

 君達にはこれから、その魔物と全力で戦ってもらうよ。力は僕よりもずっと下だから、安心してね」


 全く安心できない。


「それに、危なさそうだったら僕が救助に入るから。魔力が枯渇して意識を失っても、死ぬことはないからさ」


「……なん、で……戦う、の……です、か……?」


「君達の実力が知りたいから。

 今のままの君らじゃ、僕だと一捻りにもならないだろう?

 後は、危険視してるって言った通り、タイミングを見計らって始末しようとは思っていたから。ちょっと事情もあって泳がせていたんだけど、その必要もなくなってさ。それで、君達の相手に丁度良いかと思ったわけ」


 処理が面倒になっただけではないのか、とウルティナは思ったが、心のなかにとどめておくことにした。


「準備が良ければ、この先真っ直ぐ進んだところにある大きな広間にいる。タイミングは君達に任せるよ」


「……もう、いる……ん……です、ね」


「うん。監視する時、近い方が何かと便利だろう?」


 ウルティナは再度思った。

 これ、やっぱり面倒なだけだと。

 そうでなければ、自分たちを倒したときも確実に勝つために動いていたはずだ、と。


「はぁ……」


 ため息が漏れてしまった。

 気持ちを入れ換えるために、ウルティナは、ぱんっと自分の頬を叩く。


「……私はいつでも行けますわ。フィーディーとセクリアはどうでして?」


「ボクも行けるよっ☆」


「……すー……、はぁ……。……ん、行ける」


 二人の返事を受け、ウルティナは頷いた。


「では、行きますわよっ」







 ☆☆☆







 結論から述べると、惨敗だった。


 正直、手も足も出なかった。


「うーん。僕もここまでとは思わなかったかなぁ。個人個人の能力は結構なものだけれどね」


 そう。


 ウルティナは精密な魔力操作能力と複数を同時に操る高速処理能力、セクリアは圧巻するほどの細剣術と。

 フィーディーやうさちゃんたちはウルティナの戦力として数えると、どちらも個々で戦う分には相当なものである。

 だからこそ森の中を抜ける上で手こずることはなかった。

 しかしそれは、相手した魔物が全て二人の個々の実力よりも遥かに劣っていたことに所以(ゆえん)する。


 では、二人の個々の実力を上回る敵が現れたらどうなるか。

 出会ってからあまり時が流れていないこともあり連携を苦手としている二人では、太刀打ちすることができなくなってしまうのだ。

 むしろ今まで連携のようなもので戦って負けなかったのはやはり、敵が弱すぎたから。無理に連携を取ろうとすると、逆に互いに足を引っ張りかねない。

 ゆえに、実力を上回る敵には敵うはずもないのだ。

 特に今回は各々(おのおの)で戦闘を行った方が幾分かマシであったかもしれない。


「まぁでも、お陰で連携を苦手としているのかは分かった。

 それからウルティナ君もセクリア君も、今使ってる力は全部独学じゃあないかな?」


「……えぇ、そうですけれど」


「……ん。……そう、です」


 周りに参考があったとして、独学でここまで強くなれた二人はやはり努力を重ねたから、ということもあるに違いない。


「そのせいで、悪い癖が付いてる。

 フィーディー君も同じ。君は確か、核で動いているんだろう?」


「うん、そうだよ。ボクはティナの創った核を中心にしてる」


「核については特に問題ない。むしろ、よくもここまで純粋な核を創れたものだと思うくらい。

 けど、動かし方が悪い。核は心臓と似ているけど全く違うものだ。であるのに、同じように動かしてしまっているから、本来の力を出しきれていないんだ」


 パパパッ、とアルトゥはそれぞれに悪い点を指図していく。


「ま、核に関しては僕は専門のようなものだから安心して。ほら、魔物は核で動いているからさ」


 この言葉に関しては安心しても良さそうだ。


「そういうことで。大体のプランは固まったから、明日から修行を始めるよ」


「も、もう、ですの……」


 げっそりとした様子のウルティナ。

 戦闘による気絶から目覚めたのが一時間(アード)ほど前ということもあり、もっと休息を欲しているのだ。


「三ヶ月(マンス)と言ったのは君達じゃあないか。そんな短い期間であの魔物を倒せるまでの力をつけるには、明日から始めないと間に合わない。流石に今日は疲れが溜まっているだろうから、休んで貰うけれどね。始めたところで効率が悪くなるだけだから」


 さて、と手を合わせて彼は二人と一体に向き直る。


「明日からとぉっても骨身に堪えるような日々になると思うから、今日はきちんと休んで疲れをとってね」


 夜更かしなんてしたら、明日が命日になりかねないよ、と。


 そう言い渡したアルトゥの笑顔は満面で、かつ不敵であった。

 初めて一作品で十万字を越えました~っ!!

 目標の一つでしたので、とても嬉しいです!


 これからもよろしくお願いします!!!


(二章はあと一話で終わる予定です)

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