30.転生者の是非を問われて……
転生者。
なぜここで。
唐突に、その単語が……?
――それに。
「その口調ですと、まるで私が転生者であることはわかっているかのようですわね」
一瞬、ウルティナは目を見開いてしまった。
けれどもすぐに笑みを取り戻した。
王妃教育の賜物だ。
いやそれ以上に銀髪なこの男が目と鼻の先にいて、またついさきほど失敗を重ねてしまったがゆえにここで失敗を犯すわけにはいかないと。
そう胸の内側で強情な意地みたく気持ちが張りつめていたからか。
「さぁね。ただ今は、僕の質問に答えて欲しい」
転生者なんでしょ、ともう一度。付け足して、異世界からの、と。
どうやら、思っていたよりも相手方は見破っておられるようだ。
ウルティナは心のなかで小さくため息を吐く。
ここまで来ると下手にごまかすよりかは事実を伝えた方がいい。
セクリアが身体を固まらせていることが視界の端に映った。多分、驚愕によるものだ。
「……そう、ですわね」
せっかく事実を明かすなら。
せめて格好良く魅せたい。
今までウルティナが転生し生きてきたなかで、転生者は自分以外には一人しか見かけたことがない。
その人が転生者であることは、正直ウルティナの憶測の域を出ないのだが。
とにかく、転生者は珍しいのだ。
だがらこそ、絶好の機会になり得る。
少しでも自分を強く見せる、そんな機会に。
「えぇ、たしかに――」
顔を左後ろに回転、右手で外側にはらって。男の両手を無理やり髪から引っぺがす。
それから男の手をはらったばかりの右手を内側にふわっ、と口元にかざして。
「――私は転生者、でしてよ?」
妖しく瞳を艶めかせる。
「これが私の答えですわ。もちろん、嘘などついておりませんの」
セクリアはさらに目を見開かせた。
フィーディーは男に対しての警戒を解かぬままに、主人に視線を送った。
直接瞳を向けられた銀髪の男は「おっ」と少し驚いたように声をもらし、空中にあてもなく浮いたままの両手を胴の横に戻した。
「ふぅん、なるほどね」
そしてバックステップで二、三歩下がると、男はさらに言葉を続けた。
「うん、いい判断。次は君の番だ。質問どうぞ」
「では、あなたの先ほどの質問について。なぜ私が異世界からの転生者であるとわかりましたの?」
疑問に思ったから、というのが理由の一つ目。
もう一つは、彼女の計画全てに関わってくるかもしれないからだ。
「君が双髪だからさ。
左右で色の違う髪の色をしている人は、決まって前世の記憶を持っている。そういう人のことを輪廻を転がり生まれ来た者、つまり転生者って呼んでいてな……と、そのことは知ってるか。
そして君の前世が異世界人で在ったということは、僕の特殊能力で分かった。僕は生き物に宿る魂を視ることが出来てね。その生き物が有する魔力の大きさや[勲章]とかが分かるんだけどさ。でねその中には、その生き物が異世界からの来訪者であるかどうかもわかる、というものもある。転移転生、どちらも含めて。
だから分かったんだ」
「なるほど。[超級]の魔物は素晴らしい能力をお持ちですのね」
「有難う。誉めてくれて嬉しいよ。
じゃあ、僕の番。つい先程、僕は魂が視えると言っただろう? 勿論君達の魂は視たんだけど、その時に少々気になってね。
双髪の君とボサボサで長い白髪の君。僕が視ると、二人の魂が繋がっていてさ。
何故か、教えてくれないかい?」
「……っ!」
いきなり焦点を当てられたセクリアの肩が大きく跳ねた。
「繋がって、ですの……」
ウルティナは、はて、と首をかしげて頭を回らせている。
その間にセクリアがウルティナに近づいた。
「……ウルティナ」
「魂、ですわよね。私とセクリアの魂が繋がっていたと」
「……ん。……その、こ、と……。ウルティナ、……なん、の……こと、か……わか、…………あ」
思い当たったようだ。
それはウルティナも同じようで、同意の意を表すように頭を縦に振る。
「セクリアもわかりまして? そうですわよね。魂の繋がりと言いましたら、一つしか在りませんもの」
「……そう、だね……」
互いに視線を合わせ、強く頷きあった。
「で、どうなのかな?」
銀髪の彼が尋ねてくる。
二人は共に前を見据えると。
口を、開いた。
「「[紅の契約]」」
それは二人の覚悟の証。
「契約、かい?」
男は復唱する。
「ええ」
その言葉を聞いてウルティナが肯定すると、セクリアが続けた。
「……ウルティナ、と……俺、で……締結、した」
「[魂間契約]、ですの」
ウルティナとセクリア。
互いがそれぞれの思惑をもって交わした、世界で一番拘束力の強い、そしてオリジナリティを取り入れることのできる契約。
この世でたったの一つしかない、二人を顕す指針。
「へぇ……」
答えを耳にして、男は手を顎に当てた。
「まさかその単語が出てくるとはね。けど、[魂間契約]なら納得できるよ。あれは魂を媒体にして結ぶからさ。
にしても、君達はやっぱり、面白いよ。双髪の君も、白髪の君も、あと何故か人形な君も。
……とても有力な候補だね」
愉快愉快と、そう心の底から溢れ出てくるような笑い声。
「何における有力な候補でして?……と尋ねてもまた、まだ早いとか仰られて答えて下さらない気がしますので、他の質問をしますわ」
一人(匹?)でなにやら呟いている男を話に戻そうと、ウルティナは多少声を張り上げ気味に言った。
「賢明な判断だね。たしかに僕はそう、答えただろう」
果たして男は話に戻ってきてくれたようだ。
笑ってはいるが、それは対話を始めた頃と同じであるため、特に気にしなくてもいいだろう。
「では、質問ですの。この問答が終わったら、あなたは私たちをどうするおつもりでして?」
ウルティナには、自分たちが束になってかかっても、男には勝てないであろうことは想像がついていた。
とはいえ、現段階で彼の思考が完全に読めているのかと問われれば、否としか答えようがない。むしろ意図が読めなくて困っているくらいだ。
わかるかもしれないと思って今まで男を観察してきたが、やはりわからない。
強者であるがゆえの優越感に浸っていたいだけなのか、
久しぶりの他人との邂逅であったため純粋に楽しみたいのか、
ウルティナたちを泳がしておいて最後に手を捻るよう簡単に殺してしまうつもりなのか、
はたまた何かの任務を背負っているのか。
(ここまで悩むような不確定事項に見舞われるくらいでしたら、さっさと逃げ出しておけば良かったですわ……)
判断力が平静時と同程度に戻ってきた頃には時すでに遅し、という状態だったが。
そして、ウルティナは考えた。
男の出方によって、とるべき行動は変化してくる。
男の行動に合わせてもいいが、出来るならば先にわかっておいた方が気持ち的には楽だ。
ならばどうすればよいのか。
答えは簡単だった。
ようは、本人に聞いてしまえばいいのだ。
特に今なら、嘘が含まれていないという嬉しい特典付きで知ることができる。
この手の情報は、嘘でさえなければ相手の話したことを元にしていくらでも推測かつ対策が可能であるという利点もある。
急に今までとは違い未来へのことを聞かれた男は意表を突かれたようで、目をぱちくりとさせながらも顎に当てたままの手はそのままに、わずかに首をかしげた。
「……はて、どうしようか。[超級]の魔物と急に対峙した際に思わず臨戦態勢を取ってしまうことは仕方ないし、正直なところ、このまま帰らせても良いが。
……しかし、と言ったところだね」
ウルティナたちが突如として襲いかかってきたことに対して、男は特に恨んでいたりということはしていないとのことだ。
また殺さない、ということも選択肢の一つとしてはあるらしい。
「しかし、ですの」
「うん。君達と問答をしてきて、このまま手放してしまうのはちょっと惜しいな、とも思い始めているんだ。候補になり得る人材なんて、とっても久し振りに出会えたしさ。
あ、ねぇねぇ。
君達、何か欲しいものとかない?」
なぜか問いで返ってきた。
次話、できれば今日投稿します。
できなくても明日には投稿します!




