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悪役令嬢が○○になってはいけませんの?  作者: 叶奏
二章 洞窟の守護者
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29.引くに引けない状況になって……


「まずはそちらから、どうぞ」


 余裕のあらわれか、男はウルティナたちに先手を譲った。


「では、遠慮なく」


 ちらりとウルティナがフィーディーとセクリアに視線を送ると、どちらも頷き返してくれた。

 ウルティナも小さく頷くとまた、前を向く。


「あなた。[超級-Ⅱ]の魔物、でして? 私たちがこの場所にたどり着いたときに出くわした、あの銀色の狼ですの?」


 微少な魔力の違和感。

 今現在感じているそれは、洞窟を隠していた魔力を感じ取ったときと同じ違和感であった。

 なぜ、同じ違和感が感じられたのか。


 答えは簡単だ。

 人か、魔物か。どちらでも理由は変わらない。ようは、同じ使い手が魔力を練っていたとすればいいのだ。

 今銀髪男がまとっている違和感も、あのとき洞窟の入り口がまとっていた違和感も。同じ使い手によるものなら、至極簡単に説明がつく。


 そこまで考えて問うたウルティナに、果たして答えは。


「……ぁあ、その通りだとも。僕は魔物。君達の言うところの[超級-Ⅱ]というランクに位置しているようだね」


 ククッ、と(わら)う男に、セクリアは目に見えるほど大きく肩を震わせた。

 フィーディーは無表情のままに臨戦状態に改めて構え直す。顔に表せない分、身体から漏れだす気配は張りつめている。


「やはりそうでしたの。[超級]の魔物って、人のかたちを取ることができますのね」


 予想していたからだろうか。

 ウルティナは特に狼狽える様子も見せずに変わらず微笑みを浮かべている。


「それを次の質問にするのかい?」


 言外に、見ればわかることをわざわざ聞くのかと挑発しているようにも聞こえた。


「あなたの質問に答えている間に考えますわ」


 言葉の裏まで解読してかどうか、ウルティナは変わらぬ様子で返答する。


是非(ぜひ)とも頼むよ。では、次。僕の番だ」


 小さく首をかしげて、まずは導入から。


「君達が此処(ここ)に来た理由はなんだい?

 僕のいるこの洞窟は集落のない東の土地にあって、また人間共が暮らす土地からも遠い。しかし君達は此処(ここ)に来た。

 そういうわけで、僕が理由が知りたいと思うのも、無理はないだろう?」


 ご丁寧に理由まで述べた男。

 疑問として投げ掛けられることを想定していたのだろうか。質問ないように対する疑問で一ターン分の質問数を消費してしまうことをあわれに思ってのことかもしれない。


「あら、それはとても単純なことでしてよ。

 見ていただければすぐにわかると思いますけれど、私はあちらの土地からやって来ましたの。

 ですが、やはり森のなかで生きるなんて正直無理難題に等しい。

 そのため今は集落を目指しておりますのよ。南の土地にある集落を。

 この洞窟へ入った理由は、単に鉱石の取れる洞窟を探していてここしか見つからなかったから、ですわ」


 笑みを崩さずウルティナは淡々と事実を告げた。

 その隣でいまだ緊張しているセクリアが深呼吸をしている。


「なるほどね。確かに、南を目指すならこの場所に来てもおかしくはない、か。

 鉱石を欲した理由とか、そもそもなんで君が此方(こちら)へ来たのかとか。気になることはまだまだあるけど、次に回すとしよう」


「そうしてくださいまし。

 ……質問ですわ」


「うん。僕が答えられる範囲なら答えるよ」


「この洞窟には何がありまして?」


「おや、先ほどの疑問ではないのかい?」


「見てわかるといったのはあなたでしょうに……。

 続けますわ。

 この洞窟、隠されていたでしょう? ですけれど、ただ[超級]の魔物がいるというだけで隠したりなどしまして?」


 答えは、否だ。


「それにこの小部屋、あなたが今いらっしゃる場所の奥。そこにも魔力の違和感を感じますわ。

 今までの傾向から鑑みますと、きっとそこにも何かが隠されているのでしょう? あなた自身から感じる違和感もきっと、あなたが魔物であることを隠すためであるということは想像がつきますし」


 いかがかしらと問うように笑みを深める。


「ふむ……。正直な感想を述べると、思っていたよりも早かった、というところか」


「……早かっ、た……?」


 緊迫したような、だが直接、強大な魔力だったりという『思わず恐怖を感じてしまう対象』を肌で感じ取っていないせいか、僅かに不思議さも織り混ぜたような、そんな表情でセクリアは疑問をもらした。


「ああ、気にしないでくれ。あくまでも僕の感想だから」


 そして男は、気になるならば次に聞けばいいというようなことは一切口にせず、代わりに右の人差し指を唇に添える。


「それに問われたところで今はまだ、答えられないからね。双髪(ふたがみ)の君の問いも、あまり詳しくは答えられないかな。

 それでも(なお)、君は同じ質問をするのかい?」


「そんな……いきなり言われましても。そもそもなぜ、答えられませんの?」


 唐突の言葉にウルティナは虚をつかれた顔で問う。


「なぜ答えられないのか、か」


「え、ええ」


「ま、僕は良いと思うんだけどさ」


「……は?」


「けどそれが決まりなんだ。僕の一存で言うわけにはいかない。

 もし言ってしまったら、それこそ僕の命は無いものと言い切れるくらいには重要機密事項である。現段階で君達に伝えられることはこれくらいかな。

 強いて付け足すとすれば、世界規模の事項であるということか。

 もってこれが、()()()の答えだ」


「……それほどまでに、ですの……――」


 予想の斜め上をいく答えに眉をひそめながらも脳みそを動かし、ウルティナは気づいた。


「――あれ、もしかして私。二つの質問をしてしまいまして?」


 彼女の口角がピクリと動く。


「うん。だから僕は二つ、質問できるね」


 やらかした。

 また、失敗した。


 とはいえ落胆する様子を見せるわけにもいかない――心理戦で相手に感情を暴露してしまうことは危険だ、そこに別の意図がない限り――ため、肩を落とす動作は心のなかで留めておく。

 また気を取り乱すことを表に出してしまうことも防がなくてはならない。

 だからここは、笑顔で対応するべきだ。

 笑顔なら、得意だから。


「そう、ですの。フィーディーにセクリア、ごめんなさいね。思わず無駄な質問をしてしまして」


 悔やみは表情に出しても大丈夫。けれどもそれ以上の感情が溢れ出てこないよう、笑顔だけは忘れずに。


 ウルティナは斜め下に視線を送り、唇を噛んで、目を細めて。口角も上げる。

 いうならば、悔やみ笑いといったところか。


「い、いいんだよ。ボクだったらもっとヘマをやらかしちゃってると思うし」


「……俺、も……聞き、返した……から。……だいじょー、ぶ」


「……ありがとう、二人とも」


 苦笑。

 自分の愚かさに対する非難。


 同時にウルティナはぎゅっと拳を握りしめる。もちろん男からは見えないように、背中の後ろに隠して。


「すみません、お見苦しいところをお見せしてしまいましたわ」


 前に向き直る。


「質問をどうぞ」


 優雅に微笑みかけた。


「じゃあ、遠慮なく。どちらも君に聞くね。双髪(ふたがみ)の君に」


「構いませんわ」


「うん。

 一つ目、君がこの土地に来た理由を知りたい。

 君の仕草を見る限り、相当高い地位にいたのではないかと思ってね。最低でも貴族だったことは間違いないかと。僕の見立てでは、だけど」


「ええ、たしかに私は元貴族でしてよ」


「やっぱり。

 で、君は何故(なぜ)この土地に?

 貴族様の生活が嫌になったから、(など)という理由ではなかろうし。聞かせて貰っても良いかな?」


 ウルティナは考える。

 少しの時間で最大限に頭を回転させて、話す内容をまとめた。


「……断罪されましたの。国外追放をされた先がこの土地でしてよ」


 話した内容は事実だ。詳しくは言っていないだけ。

 そもそもセクリアにだって言っていない。


 ウルティナが実の妹を殺しかけたことがある、なんて。


 あくまでも演技で、だが。


「国外追放でこの土地に、ねぇ。しかも貴族の令嬢様が」


 思考が駄々漏れになっている、とも思える。


 わざと聞かせているのだ、とも考えられる。


「まあいいや。二つ目の質問だよ」


 さらっと流して、銀髪男は前に一歩、こつりと踏み出す。


「……っ! なっ、なんですの!?」


 気づいたときには目の前にいた。


 ウルティナは手を胸の前で構えそうになって、必死に抑える。

 上目遣いで視線を合わせた。


「それじゃ、聞くよ」


 男は少女の左右二房の髪の毛を、それぞれ片手ずつで軽くすくいあげる。




「君、転生者でしょ?」

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