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悪役令嬢が○○になってはいけませんの?  作者: 叶奏
二章 洞窟の守護者
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28.謎な男が微笑んで……


「どうかしたのかい?」


 余裕綽々といった表情で銀髪の男は目を細める。

「ああ、その速度は素直に賞賛するよ。(まばた)き一度程の極小時間でよくもまあ、そう何枚も魔力障壁が張れたものさ。僕でも厳しい。いや、実演不可能かもしれないね」


「……なにが、言いたいんですの?」


 訝しげな表情で尋ねるのはウルティナだ。

 寝起きで、ゆえにようやく普段のキレを取り戻しつつある魔力の操作能力。それが微少な違和感を感じ取って反射的に繰り出したのは、幾重にも連なる魔力障壁。

 硬度自体は即興ということもあって最高品質ではないが、枚数は格別だ。言葉通り彼女の目と鼻の先から銀髪男の直前まで、ほぼ隙間なく張られている。


「なにが、かい?」


 クツクツと男は目を細めた。


「単なる賞賛の言葉さ。誰からか教わったのか、それとも独学かは知らないが、君の魔力操作はやはり僕のお眼鏡に叶ったようだ。とはいえ、ほんの(わず)かにラインを越しているに過ぎないけれどもね」


 彼は流れるようにして頭を横に傾ける。


 パチンッ、と指がならされた。


 瞬間後、耳をつんざくような音がウルティナに襲いかかる。


「――ッッ?!!」


 思わずといった様子でウルティナは顔を両腕で庇った。

 だがすぐに頭を切り替え、左腕を振り下ろす。


「おっと、頭の回転はきちんとお目覚めのようだ」


 ウルティナが咄嗟に繰り出した魔力弾を、やはり飄々(ひょうひょう)とした様子で片方の眉をあげ、右手でデコピンをするように指をはじく。


「ふ……っッ!」


 けれどもウルティナは怯むことなく、今度は右腕を薙ぎ払った。


「おぉ、そっちが本命だったのか。ならば事前にそう言って欲しいものだねっ、と」


 小さく、しかし目を見開いた男は不意に両膝を曲げる。

 特に跳躍するためでもなかった身体は、重力に従ってすんっと落っこちる。その速度は普通に落ちていくよりも速く、魔力を塊に変えて質量を増やしたのかもしれない。単に重力魔法による重力操作を行った可能性もあるが。


 ウルティナの生み出した不可視の魔力弾が、男の銀髪より少し上を通りすぎていく。


 ウルティナは男が回避している隙に、バックステップ、


「……ぅぐっ」


 魔力の塊をわざと自分の身体に衝突させ、結果彼女のは勢いよく真後ろにあった壁にぶつかった。


 ごすん、という鈍い音は気にしない。


「ぃヤッ」


 代わりに、右手で壁を殴った。


 パリィィン。


 割れる。


「フィーディーっ、」


 重力に従い倒れゆく自身よりも、先に。


 壁の先にいた人形へ、魔力を流し込む。


「……セクリアっ」


 叫ぶ。


 同時に、慣性で振り上げられていた左手を前に突きだす。


 またもやの耳をつんざくような音。


 その隙にウルティナは、魔力で地面に身体を押しつける。


「頼みますわよ……ッ!」


 そして。


「……《その身に宿れ、横暴なる(ほむら)》っ」


 応えるように、唱えられた。


「ごめん、ティナっ」


 少年に抱えられていた人形も、(そら)に浮かぶ。


「《狂詩曲(ラプソディー)第零番『(まぼろし)』》」


 刹那。


 一体と一人は、風になった。


「なるほど、僅かな時で破壊してしまったか」


 しかし。

 突然にして敵対する存在が三倍になったのにも関わらず、男の余裕は変わらない。


「けれどね、君達。

 僕はまだ、君達の敵であるとは言っていないよ」


 ピタリとフィーディーとセクリアは動きを止めた。

 二振りの刃が男の首に対し寸止め。

 フィーディーの無色の刃は真横から、セクリアの細剣は正面から喉を(つらぬ)かんとして。


「あら、そうでしたの」


 そのなかでウルティナは、わざとおどけた様子で言葉を返す。

 両手を使って立ち上がると、服についた汚れを払うように二度三度、服を手ではたいた。


「私の障壁を急に破ってらしたんですもの。てっきり私、それが敵対の合図であるのかと思ってしまいましたわ」


 ごめんなさい、と謝罪をいれる。

 王妃教育として婚約者がいるときに習熟された、優雅かつ洗練なしぐさでドレスの代わりにマントを摘まみ、ウルティナは男に向けて拝した。


 それを見た銀髪男は、ほぉと感嘆したかのごとく息を吐き出す。


「なんともまぁ、綺麗なものだ。お貴族様だったのかね?」


「かくいうあなたこそ。いつの間に幻影と入れ替わっておりまして?」


 目には目を、歯には歯を、賞賛には賞賛を。

 ついでにニッコリとした瞳の奥の笑っていない笑みを付随して。


 戦いにおいて、心理戦というものも重要となる要素のひとつである。

 もっとも男が宣戦布告をしたと勘違いしていたことが判明した以上(もしくは判明したということにした以上)、これが戦闘であるのかどうかははなはだ疑問であるが。


 ぼわんと男の姿が消えた。

 代わりに五歩程度後ろにいったところから現れたことから、本当に幻影を生み出していたことがわかる。


「ふむ、即興で作ったからな。少し魔力の操作が粗かったかもしれないね」


 そうは言うものの、気づいていたのはウルティナのみ。

 そもそも魔力察知を展開していなかったセクリアはおろか、展開していたフィーディーですら気づいていないが。


「そうですわね。違和感はすぐに感じとることができましたの」


 ウルティナは粗かったと断言してしまう。

 本人からして、特に虚勢を張っているわけでもないゆえ、実際に感じ取ったことをそのまま口にしたのだろう。


「それで。私、いくつかお尋ねしたいことがありましてよ。よろしいかしら?」


「僕が答えることの出来る範囲なら、答えるよ」


 (ただ)し、と男は付け加える。


「僕の質問にも答えてくれるなら、ね。

 ああ、ならこういう形式を採用しないかい? 互いに一つずつ、順繰りに問うていく、という形式を。いい具合に平等性も保たれる。

 如何(いかが)だろうか」


「嘘をつかない、という条件も加えた方が良いのでは? 現状、嘘をついたところで互いに利益はありませんし」


「ま、その通りだな。何処(どこ)までを嘘とするかは、互いの良心に掛けようか」


「えぇ、そうしましょう」


 ニコニコニコニコニコ。


「わぁ……。ティナが怖い目、してるよ……」


 ウルティナの近くまで宙を滑るようにして戻ったフィーディーが小声で呟く。

 同じく、だがこちらは地を蹴って戻ってきたセクリアはウルティナに聞く。


「……魔力、残り……、結…構、……ヤバい……か、も。

 ……だいじょー、ぶ……?」


「わかっておりますわ。ですけど、引くに引けない状況ですもの。今さら逃げることもできませんし。

 ……出来る限り速く、決着をつける他に取れる手段はありませんわね」


「……ん。……そう、だ、ね」


「油断はしないようにね。ボクが言える立場じゃないのはわかってるけどさ。でも、一応」


「ここで油断しようなんざ、思いませんわよ。さすがの私でも」


 二人と一体は、銀髪で今も笑う男を見据える。


 セクリアは緊張した面持ちで。

 フィーディーは変えられない表情で。

 ウルティナは優雅な微笑みを浮かべて。


 そして男は、目を細めた。


「……――さて、始めようか」

 最近投稿頻度が落ちてしまって、本当にごめんなさい。

 二章、もう少しで終わる……はずです。

 年が明ける前には終わらせます。……多分。

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