27.なにもできずに全滅して……
とっても遅くなってしまい、本当に申し訳ありません。
――ここは、どこ……?
揺蕩う空間のなか、おぼろげな思考で思う。
――私は、いったい……?
ふと、周りが明るくなる。
視界に飛び込んできたのは、二つの人影。
「……ぁっ」
これ、知ってる。
「――」
やだ、見たくない。
「……なに」
やめてヤメテ。
「この結果はどういうことだ」
ヤダヤダヤダ。
「別に、兄さんは関係ないでしょ」
見たくない、聞きたくない。
「関係なくない。兄妹だろ、気にかけて何が悪い」
やめてよ、これ以上なにも言わないでよ。
「気にかけてるんじゃなくて、嘲笑ってるんでしょ」
いやだ、イヤだっ。
「違う。俺は本当に、お前のことを――」
だめ、それだけは言わないで……っ。
「兄さんはほっといてよっ!
そうですよ、どうせ私は努力が足りないんですよっ!
なにもできないクズですよっ、文句あります!?」
違う。
ちがうっ。
私は――
☆☆☆
「なにもできなくないっ!!」
ぜぇぜぇ、と荒い息でウルティナは飛び起きた。
「……イヤな夢でしたわ」
深呼吸を何度か繰り返し、ようやく呼吸が落ち着いてきたようだ。心臓の辺りに手を当て、ウルティナは今までのことを思い返すために脳みそのギアをいれる。
夢の内容を考えないようにするためにも、また混濁している記憶の糸をほぐすためにも。
たしかここは、洞窟のなかだったか。
元々すんでいた場所から追放され、さらに森を抜けた先で見つけた洞窟。鉱石を採取するためにわざわざ探して入ったのだ。
そう、鉱石といえば。
「セクリアは、どういたしましたの?」
独り言。
彼女からすれば口先で呟いたほんのわずかな声量なつもりだったが、そこまで広いとは言えない静かな最深部の間で響きわたるのには十分な量であったらしい。
それに答えるかのごとく、カツン、という革靴が地面を叩く音がした。
反射で肩をすくませるウルティナの瞳は驚きで見開かれる。
不思議と光のある洞窟最深部のあわい明かりを反射していた。
「さて、どうなったと思うかね」
背後に迫りくる声。
たしかセクリアは、それにフィーディーも。
革靴なんて、履いていなかったはず。
バクバクと高まる心臓音。
こちらの土地ではあちらの土地、ウルティナがもといた土地とは違って、全ての物事が実力で決まる。貴族の子どもだからと力もないのに威張ってばかりいれば、すぐに引きずりおとされるように。
そして最も証明しやすい力は、もちろん物理的なそれだ。
[勲章]による魔法を含め、相手をなぎ倒して勝ち上がったものこそがすなわち最強となる。
ではそんな簡単に力関係が決まってしまうような土地で、気絶などしていたところを他人に見られたら?
運も実力のうち。
見つけた人が悪人ならば、きっと手枷足枷をつけて無理やりこき使おうと考える人もいるだろう。
動き始めた頭の歯車で最悪の未来の予想図を弾き出したウルティナは、とりあえず置かれている状況を確認することにした。
背後の声の持ち主が不審に思わないよう、できる限り自然な動作で。
今は先ほどの魔物のことを気にしている暇はない。
魔力察知で探ってみたものの近くにかの魔物と同じ魔力は特に見当たらなかったから。もし魔力によって隠蔽されているといるとしたら、どうしようもないが。
現時点の彼女に、魔力隠蔽による違和感は感じ取れていなかった。
手と足は……動かせる。特に拘束されているわけではないようだ。
呼吸を整えつつ立ち上がり、最重要事項を確かめた。
手と足さえ動けば、まだ身を守る術はある。
気絶をしていたことが幸いしてか、魔力は結構回復していた。
手足が動かなくとも魔力は扱えるが、普段から手足が動かせる状況で魔力を使ってきた以上、やはり手足は自由である方がいくぶん楽であるということだ。
「どうなったのか、教えてはくださりませんの?」
ウルティナは謎の声に応えた。
ここまで命を賭した覚悟で突き進めてきた計画。
こんなところでダメにしたくなかった。
人形と相方。
双方がたったの一撃で身動きを取れなくなってしまったという現実に、彼女は思わず死という言葉に連想してしまった。
だからこそ気が動転してしまったし、結果としてなにもできずにただやられてしまったのだ。
(だからといって、また失敗を重ねてもいい理由にはなりませんのよ)
気絶したことにより冷静さをある程度は取り戻すことのできたウルティナ。
睡眠をとることで一日の出来事が脳内で整理されるのと同じような効果が発揮されたのかもしれない。
深呼吸。
目立たぬよう、しかし心を落ち着けられるように、少女は息を吸って吐いた。
一度目を閉ざし、キッと覚悟を決めた様子で瞼を上げる。
「それとも、教えられないような状況に陥っていまして?」
ウルティナは自身の声と共に半回転、後ろを向いた。
「……?」
だがそこに、声の持ち主らしき人はいず――
「――さあ、どうだろう」
「っッッ!??」
耳元に息を吹き掛けられた。
はねるようにして顔の向きを声の発生源に無理やり方向転換させると、耳元に息が吹き掛けられるくらい近い距離に顔があった。
ウルティナの背筋に冷たい感覚が龍よりも早く昇る。
「っぅい、いきなり驚かさないでくださいなっ」
震える声を必死に押さえるためにほぼ叫ぶ形をとりつつウルティナは横に跳んだ。
魔力察知は継続したままでいたが、息がかかるくらい近い場所に来ていたことに気づくことができなかった。
むしろ、彼女の察知では動いていないということすら告げていた。
どれほど魔力の隠蔽が良かったとしても、今までウルティナが気づけないことはなかった。
それで気づけなかったというのだから、相手の魔力操作が彼女が今まで対峙してきた何よりも長けていたか、ウルティナ自身がまだ冷静ではなくゆえに魔力操作が普段よりも甘くなっていたか、あるいはその両方か。
どちらにせよ、警戒を緩めてはいけない相手であることはウルティナにもわかっていた。
「おや? 先に仕掛けてきたのは君達ではないか」
「先に、ですの?」
視線の先にいる美男子の顔は、残念ながらウルティナには見覚えがなかった。
いや、彼の髪の色はかの魔物の体毛と同じであるように見えなくはないが。
「あいにくですが、あなたのお顔は初めて拝見いたしまして」
そうは言うものの、内心これもあり得なくはないとウルティナは考えていた。
かの魔物がもし、人型をとれたら。魔物の魔力が感じられない理由も、魔力操作に長けている理由も説明できる。
というよりかは[超級]の魔物の生態はほとんど解明されていないからこそ、なんでも起きうると考えるべきだ。
「そうかそうか。少しは期待していたんだがな」
「期待……?」
怪訝そうに呟きながらも、ウルティナは魔力察知をやめずに続ける。
フィーディーやセクリアの居場所がまだ割り出すことができていないからだ。
もし隠しているのなら、わずかな違和感を感じとれるかもしれないから。
そうすれば、目の前の男性の正体も確実に判明するだろう。
とはいえ今までの会話から目の前にいる男性が、少なくとも今この瞬間に会話を交わす以前にウルティナのことを知っていたことはさすがにわかる。
だいたい、なにも知らない初対面の人に対して期待という思いを抱くはずがない。抱いていたら、逆におかしい。
そして――……
「……――っ!!」
声にならない悲鳴。
とっさに両腕を横なぎに振るう。
「おっ?」
その光景か何かをみて、男は笑った。
面白可笑しそうに、愉快愉快と言わんばかりに。
「あなたは一体、なんですの」
口角をあげている男を、鋭い目付きでキッと見据える。
ウルティナは唇を強く噛んだ。
活動報告にも書きましたが、最近の忙しさが半端じゃないため、しばらくは不定期投稿となります。
今後もよろしくお願いします。




