24.大きな音が響きわたって……
ウルティナは手をかざしたまま、再び瞳を閉ざした。
「……――ッッッ!!!」
くらりとセクリアの身体が傾き倒れそうになり、それを彼は足に力を込めて必死に耐える。
「えっ……と、……ティナ?」
少しして状況が飲み込めてきたのか、フィーディーは戸惑いながらもウルティナに話しかけた。
それに対してウルティナは目を開きくるりと半回転、後ろを向くと声を出した。
「この洞窟の全体図、ですわ。ついさっき、魔力察知で調べましたの」
どうやらセクリアがふらついた理由は、一瞬にしてウルティナが洞窟内を調べるために魔力を使ったからであるようだ。
そして、調べた内容をフィーディーにイメージとして送りつけた。
「あ、……うん。なんとなくは把握したよ。とはいっても、詳しい内容はすぐ忘れちゃうと思うけど」
「必要に応じてまた使えばよいですわ。それにこの洞窟、あまり複雑ではありませんし」
「…………っそ、……そう、なん……だ……」
セクリアはポツリとつぶやく。精神的な攻撃から立ち返ることができたらしい。
「にしても、不思議ですわね」
「……なに、が……?」
「この洞窟、一番奥の魔力の流れがいびつになっておりますの。入り口の岩壁といい、なにを隠そうとしているんでしょうね」
「……岩、壁……って、……魔力、で、作られた……もの……、だっ、た……の……?」
不思議そうに首をかしげるセクリアに対して、ウルティナはこくんとうなずいた。
岩壁にかけられていた魔法は、魔力察知で察知されないように仕組まれた幻影の魔法、といったところか。
もっとも、ウルティナには見破られていたが。
それでもフィーディーや、そもそも魔力察知を使用していなかったセクリアは疑問点を抱かなかったのだから、普通は見つかることはないのだろう。
ウルティナとて、魔力察知を使っていなかったら見つけられていなかったに違いない。
「で、ティナ。この洞窟、入るの?」
「もちろんですわ。セクリアもよろしくて?」
「……あ、うん。……俺、は……構わ、ない」
むしろ自分の[固有武装]のために行くのだ、否定などできやしない。
「了解しましたわ。それでは、行きましょうか」
そうして、二人と一体による洞窟探査は始まった。
☆☆☆
「あ、こちらにもありますわよ。
……す、すごいですわ、あちらの土地とは比べ物にならないほど純度の高い鉱石ですの……っ」
キラッキラとした目で、ツインテールの少女は手にした鉱石を見つめている。
洞窟にはいる前、初の集落へ行けるとわかったときよりも心なしか嬉しそうであるのは気のせいか。
「……よく、わかる…ね。……鉱石、の、純度……なん、て……」
「……あ、うん。魔力察知で調べてるんだと思うよ。セクリアもわかるでしょ? 魔力、ティナが直接使ってるから」
「……ん。
……で、も……、その、おかげ、で……ある、程度……は、……慣れた」
フィーディーは呆れを通り越してもはや諦めの境地に至っているようだ。
いつも採取に付き合わされているときからこのような様子を見せているのだ、諦めるなという方が難しい。
「……鑑定、魔法……、……用無し……」
どこか寂しげに、セクリアはポツリとそう言葉をこぼす。
瞬間、ウルティナの動きが止まった。
「……セクリア」
獲物を見つけた蛇のような、そんな光を瞳に宿して。
「あなた、」
「……は、はいぃ……」
少女は、告げる。
「鑑定魔法、使えますの――っ!?」
「……………………ふぇ……?」
明らかに話が飲み込めない、といった様子のセクリアに対し、ウルティナはぐいっと近づいてさらに言葉を発した。
「ですから、セクリア。鑑定魔法が使えるかどうか、聞いておりますのよ。
ねぇ、どうですの?」
「あ、……え……、い、…………」
そんな彼女の迫力に圧されてか、セクリアはなにも言えずに口をパクパクさせている。
「……ティナ、セクリアが困ってる」
さすがに見かねたのか、フィーディーは二人の間に割りいった。
「あっ、ご、ごめんなさい。つい、興奮してしまいまして……」
そのおかげか、ウルティナは我に返ることができたようだ。
「それで、セクリア。鑑定魔法、使えますの?」
……聞いている内容は同じだが。
「あ、……えっ、と…………ん。……使え、る……けど」
戸惑いつつも、三度目となる同様の質問にセクリアは答えてくれた。
「まぁ――」
再度、目がギラついて――
「ティナ、落ち着いて」
「――っと、こほんこほん。すみません、はしたない姿をお見せしてしまいましたわ」
――なんとかフィーディーからの言葉で抑えることができた。
「……でも、なんで……?
ウルティナ、……魔力、察知……で……、鉱石、純度……わかる、の、に」
セクリアは不思議そうにしている。
「簡単な話。
魔力察知よりも鑑定魔法の方がより詳しく、正確にわかりましてよ。魔力の消費も抑えられますし」
「……たし、かに」
彼も納得できたようだ。
「……ところで話は変わりますが」
「……? どした、の……?」
「セクリアって、他にもどのような魔法が使えまして?
前に補助系とは聞きましたが、具体的にはどうなのかが気になりまして」
「……その、まま。
……俺の、[勲章]……、[助演者]……。
他の、人……を、補助、する。……補助、目的……なら、基本、……なん、でも……使え、る」
「それは、戦闘の補助をするなら、攻撃系の魔法も使える、という意味ですの?
それとも、戦闘の場において支援する、いわゆる身体強化や敵を弱体化させる魔法が使える、という意味かしら?」
「……後者。
……詳しく、は……、弱体化……は、闇属性……魔法……だか、ら……使え、ない」
「なるほど。そう言われればそうですものね。
ですが身体強化の魔法も属性魔法なのでは? 火属性で使うことができましてよ?」
「……使える、の……?」
セクリアは眉をひそめている。
それに対し、フィーディーは呆れたような声で答えた。
「はぁ……。気にしないで、セクリア。ティナがちょっとズレてるだけだから。
普通は属性魔法で身体強化をしよう、なんて考えないから。
セクリアが正しいよ」
「あら? そうですの?」
「残念ながらそうなんだよ、ティナ。
身体強化は強化魔法の一種なんだ。学園で習っていなかったっけ?」
「習いましたわ、もちろん。
でも、火属性の魔法って、結局はエネルギーを増加させるものでしょう? なら、身体の中のエネルギーを増加させれば……」
「それはティナ特有の発想だからね。
想像から創造するのが魔法の真理であることは確かなのかもしれないけど、それって個々人の発想が違ければ内容も変わるってことなんだから。
ティナの考えは世界の一般とは違う。
言い方はひどいけど、そろそろ理解した方がいい」
忠犬ならぬ忠人形フィーディー。
主のためなら助言をするのも彼の役割。
「私が世界からズレていることは、さすがに理解しておりますわ。
そうでなければ、こんなところにまで来たりしません」
悲しいのは、彼女の彼女自身に対する評価が正確ではないところか。
他人に対しての評価はほぼ正確であるのにもかかわらず(正確でなければ、ボロボロな様子であったセクリアを仲間になどしなかっただろう)。
「……あ、あの……」
「あら、ごめんなさい。話が離れていましたわね」
「……あ、うん。それも、そう……なん、だけ、ど……」
目を泳がせつつ、セクリアは告げた。
「……火属性、魔法……、火を、おこす……もの……じゃ、ない、の……?」
ピシリと固まるウルティナ。
「ほら、言ったじゃん。世間では違うんだって」
そう言いながらも、フィーディーはため息を吐いていた。
「……話を戻しますわよ」
そうして少女は、考えることを放棄した。
「……わか、った。
俺、の、[勲章]、に……ついて、だよ、ね」
「ええ。
戦闘では身体強化に関する魔法のみ使える、という認識でよろしくて?」
「……ん。……それ、で……あっ、てる」
「わかりましたわ。
それで、日常においてはどのような魔法が使えますの?」
そう言ってウルティナは、メモの準備をする。
あたりはフィーディーの持つ魔光石で照らされていた。




