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悪役令嬢が○○になってはいけませんの?  作者: 叶奏
二章 洞窟の守護者
25/73

22.空気が悪くなって……

 遅くなり、本当にごめんなさいm(_ _)m


 ☆☆☆




「……まだ、怒って、る……?」


 あっという間に魔物を倒してしまったセクリアは、レイピアを腰の鞘に戻しながら、ウルティナにそう話しかけた。


「怒ってなどおりませんわよ。むしろあなたの細剣術に見惚れていたくらいですわ」


 はぁ……、とため息をつくウルティナ。

 口ではああ言ってはいるものの、まだまだ髪のことに対する恨みは深そうだ。

 女性の髪はすなわち命とも呼ばれるほど。もちろんウルティナも、毎日丁寧に手入れをしていた。さすがに命を賭ける覚悟で森にいる今、髪の手入れをしているだけのひまなどないに等しいが。

 とはいえもし泉があるのなら、せめて汗を流したいと思うのは当然のことだ。


 そんな少女の様子を見かねたフィーディーが、身を乗り出して声を出した。


「ねぇね、セクリア。気になってたことがあるんだけど、いいかな?」


「……ん。……な…に……?」


「んーっと、ね。セクリアのそのレイピア、[固有武器]なんだよね?」


「……そ、う……だけど……」


「それってさ。[固有武装]、あるの?」


 フィーディーが尋ねると、セクリアはふいっとあらぬ方向を向いてしまう。


「たしかにそうですわね。

 ちなみに、私が今着ている服は固有武装ですわ。服自体に洗浄機能がついておりまして、魔力を流せば服はきれいになりますの。

 ま、身体はきれいになりませんけれど、ね」


 むすぅっ、とした表情で髪の毛をいじっている。


「アハハ……」


 フィーディーすらもあきれ顔(声?)である。

 話題をずらすつもりであったのに、少し失敗してしまったようだ。


「……そこ、まで……怒ら、な……くて、も」


「だ・か・ら、怒ってなどいないと言っておりますでしょうっ!」


「うん、怒らせた本人がそれを言うのはどうかとボクも思うけどね。

 けどほら、ティナも。そりゃティナだって、思わず見下しちゃうようなことを言っちゃってたけどさ。でも、悪いのはどちらかというとセクリアの方なんだから。ね?」


「……………………」


 ついにはウルティナ、目をそらしてしまった。


「……でも」


 目をそらしながらも、少女は口を動かしはじめた。


「私も気になっていたことは本当ですのよ、セクリア。

 今着ている服だって、正直を言えば手直しをしたいくらいにぼろぼろですし。

 まあ、服としてはまだ成り立っているだけ幸いですけれど……」


「えっ……、直せ…る、の……?」


 驚いた様子でセクリアは思わず口走る。


「万が一のための布と糸は持っていますわ。針とハサミは魔力で作ればどうとでもなりますの」


「……そ、う……なんだ……」


「……なんですの、その目は。まさかですけれど、あなた、私の腕を疑っておりまして?」


 まさか、というよりもほぼ確実にそうであろう、疑いかかった視線を彼はウルティナに送っていた。

 ウルティナはまたため息をつくと、その視線に答える。


「あのですね、セクリア。

 私はこれでも先の戦闘で見せたウサギの人形を六体、作っておりますのよ。フィーディーの外装だって私が手がけた部分だってありますし」


「……は、はぁ……」


「ですので、裁縫の腕はある程度あると自負しておりますの。ほつれた服の一つや二つくらいならさっさと直してしまえるくらいには」


 いかがかしら? といった目線を、今度はセクリアが向けられた。


「……ご、ごめん」


 するとセクリアは素直に謝罪を口にする。


「……俺、の、知って、る、人……、ウルティナ、に、似てて……。それで、てっきり……」


「知っている人?」


「……ん、そう。

 ……俺、の……もと、いた……集落。……そこ、の……長、の……娘……。

 ウルティナ、身なり、いい、か、ら……、いい、ところ、の、お嬢様……だった、のか、と。

 ……あ、れ……? で、も……棄て、られた……って……」


「つまるところセクリアは、私がお金持ちだったから裁縫なんてできるはずかないと思っておりましたのね?」


 はぁ……、と吐き出される息。

 短時間で三回目のウルティナのため息だ。


「あんまり人を見かけで判断しないでいただきたいものですわ。

 高貴な生まれであることは否定しませんけれど、なにもできないようじゃあそもそもこんなところにいるはずがないでしょう?」


 『表面だけで他人を見下す』ことを嫌う彼女の思考を無理やり押しつけたりしないところもまた、彼女らしいと言えばそうなのか。

 フィーディーはなんともいえない空気をまとい、少女のことを見つめていたが。


「……それ、も……そう、かも。

 ……特に、ウルティナ……双髪(ふたがみ)……だか、ら……」


「あら、こちらでは双髪だと裁縫はできないたいう逸話でもありまして? たかだか髪の色が左右で違うだけですのに」


 双髪。


 ウルティナの左が赤で右が黒の髪の色のように、左右で色の違う髪を持つ人のことを指す名称のこと。

 あちらの土地では双髪はそうでないものよりもその身に宿す能力が高いとされていた。実際、高いことが多いのだという。

 ウルティナが王子の婚約者としてまつりあげられた理由も、彼女が双髪であったからというものもあった。

 もちろん、彼女の地位も理由としてはあったが。


「……俺、の知る……双髪…は……、とても、強い……代わりに……日常、的なこと……を、苦手と……する、人…………らしい……」


「あら? セクリアの知り合いに双髪の方がいらっしゃりますのね。かくいう私も、双髪は私以外には一人しか知りませんけれど」


「……いた、んだ……?」


「ええ。もといた国の第二王子がそうでしたわ。

 ほら、双髪はとても珍しい存在だと言われておりますでしょう? なんでも、百年間いないときもあるのだとか。

 その噂が本当なのか、正直なところ疑っているくらいですのよ」


「……そりゃ……そう、かも……しれな、い……」


 セクリアが納得の声を出したのも無理はない。


 なにせ、百年間もいないとか言われて実のところ彼女が知る限りでは二人(ウルティナ自身と第二王子オディウム)も双髪がいたのだ。いや、セクリアの知っている人を含めれば三人か。

 どちらにせよ、相当珍しいことはわかるが百年間もというほどに珍しいとはいえないだろうというのがウルティナの考えだ。


「参考までに聞きますけれど、セクリアの知る双髪とはどのようなお方で?」


「……となり、の集落……その、長……やってる……人」


 思っていたよりも相当な地位に属する人だった。

 そりゃあまあ、集落のトップなら日常的なことができなくともいきる上では必要ないのかもしれないが。


(その集落に住んでいない人からもそう言われる長って、…………どれだけできないんですの……?)


 彼女の疑問は増すばかりであった。


「それで、セクリア。[固有武装]の件はどうでして?

 それ以上の物はお持ちでないと見受けられますし、もしその服が[固有武装]ならすぐに魔力を流してもとの通りに直してほしいですわ。見ていて痛々しいところもありますの」


 はたしてセクリアの答えは、少しの沈黙の後の否定を表す動作。

 肩をすくめ、ゆったりと頭を横に振る。


「ん? じゃさ、持ってないの?」


 彼の仕草を見たフィーディーが問いかけた。


「………………魔力……なか、った……か、ら。…………作れ、な……か、った……」


 歯切れが悪いのは気のせいではないだろう。


「……なるほど」


 ウルティナは口元に手を当ててセクリアの告白に言葉を返した。


「ならばなおさら、ですわね。

 ところでですが、今から向かう場所の道中に質の良い鉱石などが採れる場所、ありまして?」


 いきなりの全く方向性の違う唐突な質問に、セクリアは目を丸くしながらも口を開く。


「……あ、ある……け、ど……。急に、どう、した、の……?」


「材料集めですわ。あなたの[固有武装]の」


 とにかく、と少女は宣言する。


「さきに泉か川によって、身体をきれいにしますわよ。たとえ寄り道になったとしても」


 その有無を言わさないような言い切った口調に。


 少年はうなずく他に道がなかった。






 ☆☆☆






 泉にて。


 うっかりウルティナのまっさらな素肌を目にしたセクリアが、魔力の塊を投げつけられたことはまた、別のお話。


 彼女はさらしを着けなくとも影のできる谷間が見あたらなかったことも。

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