20.戦闘を見せることにして……
※注意
今回はあとがき部分にイラストが載せてあります。そのため、苦手な方はご注意願います。
「《狂詩曲第三番『鎖』》」
ウルティナは、唱える。
「あなた方の場所は、すでに察知済みですわ」
そう言った彼女のポシェットから、黄色いうさぎのアンモスがヒョコッと顔を出し、宙に手を伸ばした。
黄色い光で魔法陣が描かれる。
そして消えると同時に、今まさに木と木の間から二人と一体に襲いかかろうとしていた六体のポープルたちの身体を土で作られた縄が絡みついた。
「ふふっ。どうせなら、こちらも使ってしまいましょう。《狂詩曲第六番『帳』》」
指揮棒を優雅な動きで上下に振って紡ぐと、次は黒色うさちゃんのティニヤが両手をばんざいさせる。
黒光り、魔法陣は生まれて消えた。
「…………? なんの、効、果……?」
不思議そうにしているセクリアをはた目に、少女は人形に尋ねる。
「さて、フィーディー。準備はよろしくて?」
「うん、いつでもオーケーだよっ☆ 場所も、ティナからきちんと送られてきてるからね」
フィーディーが手をグッと親指を立ててサインを出したのを見て、ウルティナは無理やりにでも土の枷から逃れようとしているポープルたちに向かってにこりと笑った。
「それでは、参りましょう。
――《円舞曲》」
少女から見て左斜め下に、スッと指揮棒をおろして、
ビートⅠ。
赤、青、緑、それから小人。
四体の人形がウルティナの前に浮かび上がる。
青色ヒュドーとフィーディーが一番前に、その後ろに赤色ピュイル、最後尾に緑色アモーネの順番だ。
「《第一番》」
ビートⅡ。
指揮棒を横に薙いで。
アモーネがグググッ、と。
空中に向かって、勢いよく、手を伸ばす。
もちろん、その手の先に魔法陣の光が現れることはなく。
セクリアは、訝しがるような表情をした。
そして、最後。
「《『桜花爛漫』》」
ビートⅢ。
少女は手に持つ指揮棒を、斜め上にあげる。
ちょうど三角形を描ききるように。
ピュイルは上に、ヒュドーとフィーディーは自身の前に、それぞれ手を突きだした。
赤色うさぎの周りに現れたのは、青色の炎が二つ。
温度が高すぎるがゆえ、赤色を通り越して青色とかしてしまったそのこぶし大の二玉は、ユラユラと幻想的に浮かんでいた。
青色うさぎの前に現れたのは、水で作られた刃。
表面を超高速に振動させることで、恐ろしいほどの切れ味をほこる凶器。
小人の人形の前に現れたのは、目に見えぬ、しかし水刃と遜色ないほどの切れ味をもつ魔力の刃。
彼だけの、武器。
「…………えっ……?!」
セクリアが驚きの声をあげ。
そして、そして、そして――。
二体の人形は、ポープルに向かって、飛び出した。
追随するがごとく、二つの炎も飛び出す。
まずはヒュドー。
一番手前のポープルの左胸に、その刃を突き立てた。
その反対側で、フィーディーはすれ違いざまに、刃をポープルに通す。
核を、真っ二つにするように。
ゴオッ、と燃え上がったのは、後方にいたポープルを狙い撃ちした青色の炎だ。
ついで、またもやヒュドー。
突き刺した刃を抜くために宙でクルリと一回転したあと、動きの流れにのってとなりのポープルにも刃を突きだした。
その前で青い炎が、狙った獲物を、非常に高い温度をもって燃やし尽くす。
ポープルは、残り一体。
フィーディーは、己の刃を振りかぶる。
「ぃやっ……、と」
直線上、横に振り抜かれたそれは。
ポープルの身体を、真っ二つに断った。
切れ目さえもが陽の光を反射してしまいそうなほどにきれいな表面をしている。
「…………終わりましたわ」
そうして。
桜が舞いおどるかのような、一種の演劇のような戦いは終わりむかえ。
ウルティナは手を下ろして、そう告げた。
「いかがでした、私たちの戦闘は」
セクリアは尋ねられ、だが口をポカンとした形に開いたまま。
「おーい、セクリア。大丈夫?」
ずどーんとフィーディーから肩にチョップをされて、ようやく声をあげる。
「……っあ、……えっと……」
「これが今の、私たちの本気。……いえ、今回は『見せる』ために少々過剰演出いたしましたけれど。
実際はもう少し早く呪文は唱えれますし、第一、ポープルに[四字曲]は使いませんわ。[固有武装]も然り、ですわね」
ウルティナは[固有武装]をとき、うさちゃんたちと[紅之指揮棒]をポシェットに戻す。
「…………質、問。……い、い……?」
「構いませんわよ」
「……うさぎ……は、……ウルティナ、作っ…た……?
核、はいっ……て、る……?」
「ええ。私が一から作った人形ですわ。もちろん、核も入っていますの」
「ボクもそーなんだよっ。ティナが作ってくれたんだ☆」
得意気にV字を作って胸を張っているフィーディー。ウルティナへの愛は止まることを知らない。
「……そ、うなん、だ」
「フィーディーは専門の技術者に任せた部分もありますし、全部が全部、私が作ったとは言えませんけれどね」
そんなフィーディーの頭を優しい手つきで撫でながら、ウルティナはつけ足した。
「……じゃ、あ……、あの、うさぎたち、は……全部、ウルティナ、が……?」
「そうですわ。私が操っておりましたの」
「……あ、んな……たく、さんの……人形、を……?」
セクリアはあり得ないという顔をしている。
『人並み』というラインは、もはやはるか遠い場所に位置していた。
「……これくらいできなければ、こんなところにいませんわよ……」
ちらりと上目遣いで少年の表情をうかがい、少女は思わずといった感じではらりと言葉をこぼす。
「……なに、か……言、った……?」
「……いえ、なんでもありませんわ。セクリアこそ、他に質問があるのではなくって?」
「……え、あ……うん」
彼女がふ……っ、とあらぬ方向に視線を向けていたからだろうか。
それとも彼が質問をする過程で少女の方向を向いていたからか。
小人の人形が、
その小さな手を胸に、
ギュッと押しあてたことに気づいた人は。
だれ一人として、いなかった。




