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悪役令嬢が○○になってはいけませんの?  作者: 叶奏
二章 洞窟の守護者
20/73

17.初共闘を経て……

 遅くなり、申し訳ありませんでした。


 あ、これ、ヤバイやつだ。


 フィーディーは直感でそう感じた。


 なぜか?


 だって、ウルティナの瞳、全く笑っていない。


 つい半日ほど前、フィーディーがやらかしてしまったときに浮かべていた瞳よりかはまだ、ましではあったが。


「えっと、ティナ? 怒っちゃダメだよ?」


 おずおずとフィーディーは告げるも、ウルティナはさらににこりと笑みを深めて、


「あら? 怒ってなどおりませんわよ?」


 と、こう言うのみであった。


「……はな、し……?」


 唯一セクリアだけが状況を把握しきれていないようだ。


「ええ、お話ですわ。私たちとあなたの戦闘の連携について、少々」


「……わか、った」


 ウルティナはポシェットの中に、セクリアは鞘の中にと、それぞれ武器を納める。


「あ、待って、ティナ」


「なんですの、フィーディー」


「先に目的地を決めない? でさ、歩きながら話すのはどう? 長時間同じところにとどまってると、魔物に狙われやすくなるしさ」


「なるほど、たしかにその通りですわね」


 では、と言って取り出したのは例のメモ帳。ウルティナの計画が全てまとめられた冊子である。


「セクリア」


「……な、に……?」


「私の目的について。先に少しだけ、伝えておきますわ」


 [紅の契約]第四項。


『重要と判断した情報は共有する』


 これからともに行動する上で、ウルティナは自身の計画の一部が重要な情報であると判断したのだ。

 目的地を決めるとき、そこへ行く目的がなければ決められない。


「私は、とある男に復讐をするために、こちらの土地へ棄てられるよう仕組みましたの」


「……棄て、ら…れ……?」


「ですので私、復讐をするためにある程度の力を手にする必要がありますのよ。物理的にも、地位的にも」


「…………地、位……」


「そうですわ。そこで、セクリア。こちらの土地ではいくつかの集落がそれぞれ独自に治めていることは知っておりますの。

 その集落のひとつに、案内してくれませんこと?」


「……集、落……に……?

 …………まさ、か、ウルティナ……、その、集…落、を……」


「必要とあらば」


 物怖じしないウルティナの答え。


 押し黙った様子のセクリアは、やがて、ウルティナの要求に対する返答をするために口を開いた。


「……………………わか、った。……案内、する」


 少年は右手を前にさしだす。


「……《無情に変わらぬ道標(みちしるべ)》」


 そして呪文を唱えると、両端がそれぞれ赤色と白色をした針が現れた。

 方角を指し示す魔法によって生み出されたのである。


「……コンパス、ですの?」


「……ん。ま、……そんな、感じ。

 ……集、落……、南、山、越えた……とこ」


 白色が指す方向をセクリアも指さし、ウルティナに向けて言う。


「……さ、行こう」


 その瞳に、皮肉げな色を浮かべながら。


「……ええ、行きましょうか」


 彼の瞳を見てなにを思ったのか、ウルティナはセクリアからの提案に、肯定の意をもって示した。

 少女の目がわずかに細められたことに、はたして、他のだれかが気づいたかどうかは、不明である。

 だが少なくとも、彼女が[紅の契約]第一項『必要最低限の嘘はつかない』をもとにしてこの判断を下したことは明確であった。


「それで、先ほどの戦闘についてですけれど」


 歩き始めるやいなや、ウルティナは『お話』を始める。


「セクリアが使っていた魔法、どのような効果がありましたの?」


「……身体、強化……の、一種。……攻撃、力……スピード、……上げる、代わ、り、に……防御、力、さげ、る」


「へぇ~。つまり、捨て身の攻撃、みたいな感じなの?」


 フィーディーが右手の指を一本突き立て、尋ねた。


「……そう、とも……言う……。で、も……俺、攻撃、仕方……スピード、重、視。……敵の……攻撃、は……、基本……避ける」


「そうですの? ポガンテスからの攻撃があたりそうになっていましたけれど」


 あきれた顔でウルティナがそう言えば、セクリアは不満そうに顔をゆがめた。


「……防御、力……高め、ら、れた。……そも、そも……避けれ、た……か、も……しれ、ない」


「あら、そう」


 なら、と。


 ウルティナは問いかける。


「あなたは今までそのように戦っておりましたのね。あなたの元の魔力量から計算して、そんな戦い方をしていれば、すぐに魔力が底をついてしまうことは明確ですのに」


 その問いに、うっ……と言葉をつまらせるセクリア。

 魔力量は、前のウルティナが持っていた量と今の量を比べたのだろう。


 だが、ウルティナの問いはまだまだ続く。


「それとも、契約を結んだことによる魔力の増加で過信しましたの? いくらでも魔力はあるんだから、どれだけでも魔法が使えると。

 そう、自惚れでもしておりまして?」


 あまりに辛辣な物言いに、思わずセクリアは目をそらしてしまった。

 フィーディーでさえも「うわぁ……」と言ってしまっている。


 [紅の契約]第二項。


『言いたいことはきちんと言う』


 言わずにどちらかが、もしくはどちらもが傷つくよりかは、危険だと思った点は指摘してしまった方が安全である。


 出会って一日と経過していない相手に対してここまで言えるのは、目的のために安寧の地位を棄てたウルティナの、手段を問わないといっても過言ではない行動力が根本にあるのだが。


 それに、論理にそった指摘は、他人を見下すことにはならない。


「……………………」


 なにも言わない、否、言えない少年に、ウルティナはさらに言葉を重ねた。


「この際ですし、述べておきますわ。私の[勲章]についての簡単な説明を」


 目を背けたセクリアに、淡々とした口調で言葉を紡いでいく。


「私の[勲章]は[指揮者(マギステル)]と言いますの。

 空間を挟んで別の物体などに魔力を流すことで、理論上は属性魔法ならどんな魔法でも使えましてよ。一つの物体につき同時に使える魔法は一つという縛りはありますけれど、結構自由の幅が大きい[勲章]でして。

 世ではハズレとされてますけれど、それは他の物体に魔力を流すときに必要な核を作ることが難しいだけで、核を作れるだけの魔力の操作能力があるならば、物体を操るのに困ることはありませんしね」


「……核……、作、れ…る……の……?」


 セクリアが驚いた表情をして、ウルティナに尋ねた。


「作れますわ。このフィーディーも、私の作った核で動いておりますのよ」


 隣を飛ぶ小人の人形を、彼女はなでた。


「へへっ。ティナはボクのかーさんなんだぁ」


「フィーディー、変なことを言わないでくださいまし」


「……で、も……、そう、と、も……とれ、る」


「セクリアまでっ。私は母親になどなったつもりはありせんわよっ!

 だいたい、私の方がフィーディーやうさぎたちに助けられてばっかりだと言いますのに」


「そう? みんな、ティナの魔力がないと動かないのに」


「それはたしかに、そうですけれど」


 ここで、セクリアが不思議そうな顔をする。


「……ウルティナ、寝てる、とき……、フィー、ディー……、動い、て、なか…った……?」


「あれは、ボクの核に溜めてあった魔力を使ってたんだ。さすがのティナも、寝てるときは魔力をボクにながせないからね」


「……なる、ほど」


 フィーディーの説明にセクリアは納得したようだ。あごに手をあてて、深くうなずいている。


「あの、お二人さん?」


 そんな一体と一人に対し、ウルティナは笑った顔で話しかけた。目が笑っていない。


「話、逸れていませんこと?」


 慌てて人形と少年は、


「あ、ご、ごめんね、ティナ」


「……ごめ、ん」


 と、謝罪の言葉をいれた。


「まったく……」


 コホンッ、と一つ、咳払いをいれて。


「話を戻しますわ」


 ウルティナは、話の道を戻した。

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