14.返事を聞いて……
13話目(14部分)の最後のセクリアの言葉を少し、変更しました。
「……――受けて、たつ。その、契約、……結ぶ」
きっちりとウルティナの瞳を見つめて言いはなった少年は、そのまままぶたを閉ざしてふらりと身体の軸をゆらした。
「……セ、セクリアッ!? どど、どういたしましたのっ!!?」
わたわた慌てながら、ウルティナは前のめりに倒れてきたセクリアをだきとめる。
「気を失ってるね。うーん……、あれ? 魔力がなくなってる……。セクリアが起きたときは、まだ、あったのに」
「魔力が? つまるところ、セクリアは魔力の枯渇状態によって気絶したということですの?」
ウルティナの視線と同じ高さまで浮かび上がってきたフィーディー。魔力察知によって確認したのだろう。
「そうなる、かな? でも、おかしいよね。セクリア、魔法とか、使っていないはずなのに」
「そうですわね。……ああ、そういえば。彼、気絶なさる前になにか言っていませんでした? 契約のこととはべつに」
「あれ? そうだっけ??」
フィーディーには覚えがないようだが、ウルティナはきちんと聞いていた。
「いえ、言っておりましたわ。たしか……《空転する想像の欠片》、だったかしら」
「空転する……? もしかして、呪文だったりして?」
疑問形で投げかけられた言葉に、ハッと目を見開かせて、ウルティナは言う。
「そう、ですわ。それですのよっ!
彼が、セクリアが急に気絶して、なおかつ結論を出すことができた理由は!!
きっと、思考速度の上昇かそれに類似する効果の魔法を使いましたのよ。だから、魔力がなくなった。私たちには一瞬に思えた時間で、本来ならよくよく悩むべきである答えを出すことができた」
ウルティナの熱い語りに、フィーディーも気づいたようだ。
「そっ……か。たしかにセクリアって、身体強化系の魔法、使えるんだもんね」
「ええ、その通りですわ。とはいえ、あくまで憶測にすぎません。何をしたのかは、改めてお聞きしなければなりませんわね」
「うん、そうだね。……でも、気になるよ」
「セクリアがなぜ契約の締結にうなずいたのか、ですの?」
「ほら、[魂間契約]ってそう生半可な気持ちで結ぼうなんて思わないでしょ? 命をかけるといっても、過言じゃないもん。
命をかけれるだけの願いって、なんなんだろうなぁ、ってね」
「それは、彼の口から直接聞きましょう。正解は、セクリアにしかわかりませんもの」
「それもそうかも。あと、ティナ。セクリアが起きるまでそうしているつもり?」
「へっ……? …………あ」
胸元に目をやり、そこにうずくまるセクリアの頭を見て、ウルティナは今の状況をきちんと把握した。
ぼふんと音をたてる勢いで顔を真っ赤に染める。
「え……っと、……どうしたらよくて……?」
今さら焦っている様子を見せたウルティナに、フィーディーは一言。
「ティナにまかせるよ☆」
その言葉でさらに、ウルティナは頬を赤らめるのであった。
☆☆☆
セクリアが目を覚ましたのは、もうすぐ朝日が昇るといった頃。
ウルティナはちょうど、フィーディーとともに襲いかかってきた魔物の核を打ち砕いていた。
「ふぅ……。実戦での感覚も取り戻せてきましたわね」
「ボクもそう感じるよ。魔力の受け渡しがより鋭く的確になってる。
量もまた増えたんじゃないかな」
「最近はよく、戦いますもの。それに、暇があるときは魔力を消費するようにしておりまして。もちろん、万が一に備えた量は残しておりますが」
「ふぅ~ん……。ん?」
ふとフィーディーはセクリアに目を向ける。
「あっ、ティナ、起きたっぽいよ」
「あら?」
ウルティナも同じく、目を向けた。
今まで彼は、近くの木の幹にも背を預けて目を閉ざしていたが、
「…………っん……」
フィーディーが言うように、本当に目を覚ましたようだ。片目を手でこすっている。
「………………っあ」
セクリアはまぶたをあげた。
「おはようございます、セクリア」
「おはよう、セクリアっ!」
そんな彼に対し、一人と一体はそれぞれ挨拶をする。
「お、……おは、よ、う……」
セクリアはまだ寝起きのためか小さい声で挨拶を返した。
「起きた直後で申し訳ありませんけれど、二つ、尋ねてもよろしいかしら」
「え………………、あ、うん。……構わ、ない」
気絶する前におかれていた状況を思い返したようだ。少しの沈黙のあと、彼はうなずく。
「ありがとう。では、一つ目」
セクリアの前にかがんで、ウルティナは右手の人差し指を一本、立てた。
「あなたが気絶なさったのは、魔力の枯渇によるものですの?」
「……そ、う……。……色々、と、考え…る、ため、に、……思考、の、スピ……ド、を、あげ…た」
ウルティナの読みはあっていたようだ。
「そう。では、二つ目の質問」
ウルティナは右手の指を二本、立てる。
「セクリアはなぜ、[魂間契約]の締結に賛成しましたの? あなたが魔法を使ってまでも導きだした答えを、教えてくださりません?」
「ボクも気になるんだ。教えてよ、ね?」
今度の沈黙は、先ほどよりも長かった。
それでもやがて、セクリアは、答えを示す。
「……俺の、願い、の、原点。
……それ、が、……[魂間…契約]……で、手に、入、る、かも……しれな、い……。そ、う……思っ、た、から。
俺は、あなた、と、契約…を、結び、たい」
迷いのない瞳ではっきりと告げられたセクリアの言葉。
ウルティナも、真剣な表情で言葉を紡ぎだす。
「願いの原点、ですの。そうですわね。
私も、私の願いを叶えるために、あなたと契約を結びたいですわ。命を睹してでも、叶えたい願いがありますから」
両者の意見は一致した。
それぞれがそれぞれのために、契約の中でも一番拘束が強く条項を自由に定めることができる[魂間契約]を結ぶ、と。
そう、心を決めたのだ。
「じゃ、決まりだね」
フィーディーが言った。
願いの内容はまだ、互いに打ち明けてはいないが。
これから打ち明ける時間は、たくさんある。
一緒に過ごして、心を許して、そして話そうと。
そう素直に思ったときに話せば、いいのだから。
フィーディーは心の中で微笑む。
はじめて。
ウルティナが言葉に出して他人を受け入れたという事実に対して、なにか感じることがあったのだろう。
彼の表情が人のように動いたならば、きっと、涙をこぼしていたに違いない。
今まで生きてきた世界に、少なくとも彼女自身が味方であると思えた人がいなかったことを、フィーディーは知っていた。
たしかにフィーディーを仲間だとは思っていてくれたのだろうけれども、所詮はウルティナの手によって創られた身。
味方であって、当然である。
(ボクがティナを慕っているのは、ティナが創造主だから、という理由だけじゃないけどね☆)
小さな笑いを声に漏らして、フィーディーはウルティナから不思議そうな顔を向けられたが、何でもないと返しておいた。
「契約の内容について、決めようよ。ほらティナ、メモ帳、持ってたよね?」
「持っていますわ」
ウルティナはポシェットから、メモ帳と黒鉛の棒を取り出す。
「それに書きながら考えたらどうかな? そしたら、考えもまとまりやすいと思うしさ」
「なるほど。たしかにそうですわね」
一枚まっさらなページを開いて、黒鉛の棒を右手に構える。
「では、セクリア。[魂間契約]の内容をともに考えていきましょう」
はい、と。
ウルティナの言葉に、セクリアは力強くうなずいた。
一章が思った以上に長くなってしまってます……。
もうまもなく終わる(予定)ので、これからもどうぞお付き合いくださいm(_ _)m




