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頭を撫でてもいいですか?  作者: 凪と玄
第一章 零れ落ちゆく一粒の雫
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4


 ふと空を見上げた時、そこに広がる雲がいつもと違う感覚を誠に押し付けるように覚えさせた。


 とある日の放課後だ。

 誠はいつものように図書室へ向かう。と、その予定だったが、この日はあいにく教員室へ呼び出しを食らい、今は一階渡り廊下沿いの自動販売機で飲み物を買おうとしていたところだ。

 教師からの呼び出しと聞けばよからぬことをしたのか、と問う者もいるだろうがそうではなく、単に進路について話があると言われただけで、別に何か悪さをしたわけではない。しかも、進路の話も大学のレベルを上げないか、とのこと。悪いどころか良しと言える。


 そんなこんなで現在、渡り廊下にいるのだが、その上空の雨雲に誠は妙な気分にさせられている。妙な気分がいいのか悪いのかは誠にもわからないが、ただ不思議な感覚であることは確かだ。懐かしいけど新鮮な、そんな感覚。

 ふと雨の中を走りたくなるような。



「―――ね、次いい?」


「あ、すいま・・・せん」


「?」


 いつもと異なる景色に感杯していると、つんつんと誠の肩を突きながら、一人の少女が声をかける。

 誠は背に当たる声に反応し、自動販売機の前から足を外す。外して振り返りながら謝罪を述べる。が、その謝罪が途切れた。


「君とどこかで会ったっけ?」


「あ、いえ・・・」


「ふぅん?」


 目の前の少女に、自然、敬語になってしまう。言葉遣いから、年上と判断したのだろう。だが、言葉が詰まるのはそのせいではない。

 どこかで会った。一度否定したが、忘れるはずもない。あの雨の日の、あの公園の少女だ。会ったというより見た、の方が正しいが。


「えと・・・これ、っと」


 ボタンを押す彼女を直視せぬよう、不自然に顔を逸らすが、少女はそれに気付かない。彼女は腰を低くし、自動販売機の蓋を開け、中から選んだ飲み物を取り出す。


「お、おしるこ・・・」


「好きなんだ、これ。寒い雨の日にはとてもいいの」


「そ、そうなんですか・・・」


 意外、マイナーな選択肢をとった少女に若干引き気味の誠だが、本題が頭に入っては来てくれない。

 ずっと頭の中であの雨の日の景色の残像が砂嵐混じりで響いているからだ。だが、どうも完全には一致しない。あの時のどこかへ向けられた哀しみが、見えないのだ。


「涙・・・」


「?」


「あ、いえ、なんでも・・・」


「そう?」


 彼女は誠の顔を覗き込むが、誠はまたも否定する。

 あの雨の日のことは聞かないでおこう。そう考えたからだ。



「―――あれぇ? 誠っちぃ。こんなところで何してんのぉ?」


 再び図書館へ足を向けてしばらく歩いていると、廊下にいるはずのない修が誠の姿を見つけて声をかける。

 何をしているか、はこちらの台詞だが、相手が修なので割愛する。

 おそらく彼は、今日の追試がうまくいって早く終わったところなのだろう。珍しいことだが、成長とはこういうものを言うのかもしれない。


「なんか機嫌が良さそうだねぇ?」


「? そう見えるかい?」


「うぅん? 多分」


「じゃあ違うんじゃないかな」


 今現在、これといっていい気分ではないと思う。悪い気分かと聞かれれば首を横に振るが、いい気分ではない。頭の中の靄が晴れた気はしているが。




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