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頭を撫でてもいいですか?  作者: 凪と玄
第一章 零れ落ちゆく一粒の雫
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1



「―――ってぇえぇ・・・誠っちは何をぶつぶつ言ってんのぉ?」


 一人二役で口演劇をぶつぶつと小さく披露する誠の姿は、さながら、台本読みをする演劇部の一員だ。

 そんな誠を隣の少年が覗き込むように見つめる。彼は平川 修。名前が修なのに頭が悪く、現在、誠が勉強を教えている。


「ん? ちょっと物語をね。考えてたんだ」


「ええぇえぇ? そんなことよりぃ、ここも教えてぇな」


「はいはい・・・。僕も忙しいんだから。さっさとやってしまおう」


 誠の袖を引き、教えを乞う修と向き合い、勉強を再開する。科目は数学。高校二年、文系の数学はさほど難しくはない。きちんと授業を聞いておけばそれだけで六割点は取れるはず。だが、修ほどの知能となれば話は別。否。そも、文系に来る生徒は理系科目が苦手なのだ。ならば数学が苦手なのも理解に及ぶ。


「それでも九点ってすごいけどね」


「いやぁ・・・それほどでも」


 褒めてはいないが修はどちらかというと褒められて伸びる性格なので、そういうことにしておく。

 だが実際、彼は他の科目もほとんど変わらない点数を叩き出す。これまで何度も勉強を教えてきたのに、彼の辞書には進歩という言葉は載っていないようだ。

 そんな修にもいいところは山ほどある。

 特筆すべきは前向きなところ。恐ろしくも感じるほど。前向きなのはいいことだが、無謀でもあるからだ。それに巻き込まれる人間のことも考えて欲しい。心身ともに削られ、さながら鉋で削られる鰹節の気分を味わう。そんな毎日は是非とも避けたい。


 誠の深いため息とともに、音鐘が昼休みの終わりを告げる。

 何故、修が数学の勉強をしていたかというと、次の授業が数学で、毎回授業前に小試験があるからだ。数学教師は厳しく、小試験では解答全てが合っていないと部分点すらもらえない。その上、十点満点中、五点以下だった者は、放課後追試となる決まりがある。

 修はどうしてもこれを避けたいらしい。聞くには彼は最近、恋人ができたらしく、放課後はその相手と帰る予定があるとか。

 誠に恋はわからないが、友人の恋路、成就して欲しい。故に、修の勉強に付き合っているのだ。結果、追試を受ける羽目にはなったのだが。


 ふと、窓から一回渡り廊下を覗いた。

 どうしてそんな行動をとったのかは、自分でもわからない。ただ、そこに何か特別なものがあるような気がしたのかもしれない。

 台風が過ぎ去ってなお、雨が降り続けたここ数日。今日も朝から曇天模様で昼前には少し雨が降った。

 まだ少し、どんより暗いこの視界に、きらりと一粒の「雫」が輝いていた。


「誠っちぃ。なんかあったんんん?」


「あ・・・いや、別に何もないよ。天気悪いなって思ってただけ」


「そぉ? なぁんかすっごい物見つけたような、フインキ出してたけどぉ?」


「雰囲気ね。そんなつもりはないんだけど・・・」


 輝いた「雫」に、何かを感じたわけでもなかった。引き寄せられるように見入っていたつもりもなかった。だが、「雫」が落ちていくことには、どこか切なく感じた。




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