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TS転生したからロールプレイを愉しむ  作者: ドスコイ
第一章 わかれみち

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六.五話

ここ最近しんどいなと思って病院行ったらインフルでした。

次の投稿は一週間以上、間が空くかもしれません。申し訳ないです。

とりあえず今出来上がってる分、二話投稿します。

「おや、おかえり。他の二人はどうしたんだい?」


 宿に戻るとカウンターで頬杖を突いて船を漕いでいた店主が語り掛けて来た。


「別に四六時中一緒って訳じゃないわ」

「そりゃそうだ。けど、マレウスちゃんとしては色々心配なんじゃない? お姉さん的な立ち位置なんだし」


 ニヤニヤと笑う店主。

 三人を知る者らが少女らの間柄を問われた時、大体はマレウスがリーダーでまとめ役だと答えるだろう。

 しっかり者の長女と、どこか抜けてて何かと気を揉ませる次女三女。これが大体の共通見解になるはずだ。

 だが、当人らはどう思っているのか。特に、リーダーだと目されているマレウス自身は。


「まあ、多少はね」


 少し困ったように笑い、それ以上は何も言わずマレウスは階段を上がって行った。

 店主は、はて? 何か気に障る事でも言ったかな?

 と首を傾げていたが直ぐにどうでも良くなったのか再びまどろみの海へと旅立った。


「…………はぁ」


 髪をまとめているシュシュを外しベッドに倒れ込み溜め息を一つ。

 マレウス・スペーロはここ最近、誰にも言えない悩みを抱えていた。

 いや、最近ではないか。悩み自体はずっと前からあったのかもしれない。

 それがエデに辿り着く前に起きた事件で僅かに顔を出し、その後のあれやこれやで自覚をするに至った。


「(このままで、良いのかな……)」


 ずっと、小さな時から自分達は対等だと思っていた。


「(私も、ジャンヌもホントはずっと前から気付いていたのかも)」


 三人の中で精神的な柱になっているのが誰なのかを。

 一番、強い心を持っているのが誰なのかを。

 土壇場で本当に頼りになるのが誰なのかを。


「(あの時、私は動けなかった。ジャンヌも動けなかった。だけど、あの子は動いた)」


 震えながらも自分達を護るために立ち上がったのだ。

 多くの殺意に身を晒しながら終わりの見えない疾走を始めたその背中を見送る事しか出来なかった。

 果たして、自分に同じ事が出来ただろうか?


「(…………出来ない。私には、きっと、出来ない)」


 賢しい頭がきっと邪魔をしてしまう。

 やりたいと思っても不可能だと、その先がないのだと見切りをつけてしまう。

 無論、マリーが取った行動は勇敢と無謀を履き違えたものだと分かってはいる。

 本人も後先を考えずに突っ走ったと反省しているし、マレウス自身もその通りだとは思う。


 だがそれとこれとは話が違う、これは感情の問題なのだ。


 窮地においてこそ、その人間の本質が表れるもの。

 例えばこの先、自分達がどうしようもない状況に陥ったとしよう。

 だが、自分が命を捨てる事で大切な誰かを護れるとして自分にそれが出来るのか?

 あの場で動けなかった自分と、あの場で動いたマリー。結論は明白だ。


 悔しい、不甲斐ない、ずっと隣で歩いていたはずの友であり家族でもあるマリーが今は遠く感じてしまう。


「(嫉妬してる……あの子に……私、嫌な子だ……)」


 動けたマリーと動けなかった自分を比べての事――だけではない。

 それだけならば、密かに思い悩む事もなかっただろう。

 マレウスが強い嫉妬を覚えているのは動いたマリーが引き寄せた運命だ。


「(…………ルークス・ステラエ)」


 マリーが飛び出した後、しばし遅れてマレウスはジャンヌと共に馬を借りて駆け出した。

 無事だろうか? ひょっとしたらもう……この上ない不安が胸中を渦巻いていた。


 だが、モンスターの群れを捕捉したと思ったら総てが終わった。


 眼前を塞いでいたモンスターの群れが爆ぜ、血の雨が降り注ぐ。

 晴れた視界の先に居たのは、この世のものとは思えない程に美しい女だった。

 ああ、白状しよう。マレウス・スペーロは一瞬にして心を奪われてしまった。

 生まれて初めて我を忘れると言う経験をし、この上ない胸の高鳴りを覚えた。


 ――――嗚呼、あれが私がずっと渇望し続けて来た”力”そのものなのだ。


「(あの人は、私の事なんてまるで眼中になかった)」


 本能はとうに女の正体に気付いていたが、頭がそれを認識したのは少し遅れてからの事だった。

 桁違いの熱量を備える彼女こそが、真なる魔女ルークス・ステラエ。

 話しかけようとする前に消えてしまったので言葉すら交わせなかった。

 だが、マレウスは何となく気付いていた。

 仮に言葉を交わす時間があったとしても自分なんかには目もくれなかったであろうと。

 それだけ、遠く、美しい存在だった。


「(だけど、あの子は違った)」


 ルークスとの邂逅を終えへたり込んでいるマリーに駆け寄ったマレウスは無事を確かめると仔細を問い質した。

 そして、聞くべきではなかったと直ぐに後悔した。

 マリーはあの魔女に名を名乗らせたのだ。

 もしも自分が尋ねていたとして、答えてくれただろうか? 何度想像してもルークスが名を名乗る姿を想像出来なかった。

 だと言うのにマリーには名乗った、マリーに”だけ”は名乗ったのだ。


「(それでも、あの子が特別だとは信じたくなくて……)」


 一先ずは無理矢理胸の奥底に仕舞い込んだ。

 だが、リーン・ジーバスとの出会いにより再び顔を出してしまった。

 自分やジャンヌが知らぬ所で繰り広げられていた憤怒の黒狼との戦い。

 黒狼がマリーを殺しに来たのは彼女なりにルークスを想っての事だと言う。

 魔女に最も近しい存在がそんな行動に出ると言う事は最早疑いようはない。

 どんな感情を抱かれているのかは分からないがルークス・ステラエにとってマリー・スペーロは特別な存在なのだ。


「(何で、何であの子が……あの子だけ……!)」


 マリーを嫌いになった訳ではない。

 変わらず大切な家族として愛している。

 だが、その傍らには同時に負い目や嫉妬、焦燥のようなネガティブな感情も存在している。

 相反する感情がせめぎ合って生じる葛藤が、密かにマレウスの心を苛み続けていた。


「(あーあ、情けない……情けなさ過ぎるよ私……)」


 なまじ高い理性を備えているからこそ強い自己嫌悪を覚えてしまうのだろう。

 マレウスが感情的に生きる人間であれば良きにしろ悪しきにしろ振り切れて幾らか楽になっていたはずだ。

 敢えて苦しい場所に心を置き続けると言う事も立派な強さなのだが、彼女はそれに気付けない。

 ただただ今の自分が嫌で嫌でしょうがなかった。


「(強く、強くなりたいなぁ……欲しい、力が欲しい……)」


 理性的で常識的なマレウスだが強さに対する渇望は三人の中でも抜きん出ていた。

 表面的な性格ゆえ気付かれ難いがその胸の内では何時だって貪欲に力を求めている。


 何故力を求めるのか。それは決して恵まれているとは言えない生い立ちに起因している。


 幸せがなかったとは言わない。

 血の繋がらない家族を愛しているし愛されている自信だってある。

 だが、どう足掻いても自分達は社会的な弱者でしかない。

 そのせいで何度辛い思いをしたか、そのせいで何度泥を飲まされたか。

 自分だけならばまだ良い、我慢もしよう。だけど愛する家族が辛い思いをするのは耐え難い苦痛だ。


 だけど、どうすれば良いか分からない。そんな時に知ったのが真なる魔女ルークス・ステラエだった。


 幼いマレウスにとってその存在は衝撃的だった。

 たった一人で国を――いやさ、世界を捩じ伏せる事が出来る者がいるなど想像もしていなかった。

 そして彼女は答えを得た、力こそが総ての悲劇を拭い去る最適解なのだと。

 世界を捩じ伏せる力なんてものには届かないかもしれない。いや、届きはしないのだろう。

 だが、世界を相手取れる程でなくとも力があれば皆を護れる。

 自分達を虐げて来たものを粉砕し安寧を与えられる。


「(ルークス・ステラエ……)」


 答えを得たその日から、マレウスにとってルークスは神にも等しい――いや、神そのものになった。


 何度その姿を夢想した事か。

 何度その声を夢想した事か。

 何度その力を夢想した事か。

 秘めたる信仰は狂信の域にまで達していた。


「(私に貴女の、万分の一でも力があれば……!)」


 こんな懊悩もせずに済んだとマレウスは本気で考えている。

 それ程までに、彼女は”力”と言う概念に侵されていた。

 致命的なまでに”ズレ”ている事にさえ気付けない。

 そして誰にも明かさぬがゆえ、誰から指摘される事もない。

 ハッキリ言って危険な兆候だ。

 しかし、心で繋がった姉妹達と共に在る限りは道を踏み外す事はないだろう。


「はぁ……はぁ……!」


 ルークスの事ばかり考えていたからだろう。

 気付けば諸々の葛藤は片隅へと去りルークスの事だけしか考えられなくなっていた。


 幽玄なる闇を閉じ込めたかのような艶やかな黒髪。

 超越性と完全性を示す覇者の黄金を宿す瞳。

 妖しく瑞々しい形の良い唇。

 永劫の果てまで貪り続けても飽きが来ぬであろう豊満な肢体。

 美と力の極致――彼女にこそ、その形容が相応しい。


「ん、くふぅ……ッ」


 無意識の内に伸びた手は下腹部へ。

 母の子宮に居る胎児のように身体を丸め夢想に耽るマレウス。


 幼くも淫らな微熱に浮かされる彼女にはもう、何も見えていなかった。


 例えばそう、微妙に開かれた扉の事とか。

 隙間から覗いている瞳とか。


「(? ……?????? え、え、え、え、え)」


 空白、困惑、遅れて理解、


「(うえぇええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?


 そして絶叫。

 魚の干物を咥えたまま心の中で絶叫を上げる少女の名はジャンヌ・スペーロ。


「(ちょ、これ、おぉぉおおおおおおおおおおおおお!?)」


 銀行でお金を預けた後、ジャンヌはマレウスと分かれ食べ歩きに出かけていた。

 そして一日のお小遣いを使い果たしたところで宿に帰還したのだが……。


「(お、おおおお落ち着きなさい私。落ち着いて落ち着いて……ど、どうすれば良いってんですか!?)」


 普段すっとぼけた言動をするジャンヌだが、この時ばかりは普段通りにとはいかなかった。

 そりゃそうだ。帰って来たら姉妹がベッドの上で一人……んん! をしているなど誰が想像出来る?

 だらだらと流れ出る脂汗、こんな時にどうすれば良いかなんて誰も教えてくれなかった。


「(と、ととととととりあえず……この場を離れなければ……)」


 開いていた扉をそっと閉じ、足音を立てぬよう細心の注意を払いながら部屋を離れる。

 そうして一階へと続く階段の辺りまで退避したところでジャンヌはぺたんと尻もちをついた。


「(……何? 何がどうしてああなったんです……?)」


 干物をくちゃくちゃと噛みながら必死に考えを巡らせるが答えは見えて来ない。

 普段の理性的なマレウスを知っているだけに本気で意味が分からなかった。


「(い、いや……確かに私達も年頃ですし……そう言う事への興味がないと言えば嘘になりますけど……)」


 院に居た頃、シモの話題で盛り上がっている兄貴分だって居た。

 それを白い目で見ながらも女同士でドキドキしながらその手の話に興じたりした覚えだってある。

 だが、それにしたって――まさか、まさかあのマレウスが!

 それも何時誰が来るかも分からないような部屋で鍵もかけずに!


「…………とりあえず、もう何時間か外をぶらぶらして来ましょう」


 ジャンヌはお気遣いの淑女であった。

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