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TS転生したからロールプレイを愉しむ  作者: ドスコイ
第一章 わかれみち

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第一話(裏)オレでなきゃ見逃しちゃうね

「(リーンくんキタ━━━ヽ( ゜∀)人(∀゜ )人( ゜∀)人(∀゜ )ノ━━━!!!)」


 何やねん、滅茶苦茶王道な登場しおったぞあの子!

 ザイン! お前弟子に何教えてんだ!? クッソカッコ良いやんけ!!

 暴漢に襲われる婦女子、颯爽と現れるイケメン。

 目にも止まらぬ速さで抜刀し、得物と衣服だけを切り裂き誰も傷付けずに場を収めるとかもうね……もうね!


「(ヤバイヤバイ、これはどう考えても攻略キャラの風格ですわ……)」


 乙女ゲーの攻略対象としては申し分ないですよ、ええはい。


「(まさか、あの小さな男の子が此処まで立派になるたぁ……おばちゃん、感慨深いよ)」


 十年前の茶番をやらかした以降、俺は一度しか彼らの動向を見ていなかった。

 あれの少し後かな? 姉のシンちゃんを前にして動けなかったリーンくん。

 彼がどう思っているのか、これからどうするのか。

 それを知りたくてザインとの会話を覗いたのだが……まあ、結論は察せると思う。

 リーンくんは変わらず家族を想い続ける道を選び、もっと強くなる事を師と己に誓ったのだ。


 あれから十年、リーンくんもまたしなやかな成長を遂げていた。


「(つか、ジーバスって……養子になったのかな?)」


 そこら辺も色々妄想してみると楽しいかもしれない。


「(にしても、やっぱり血の繋がりを感じるな)」


 目つきはシンちゃんが鋭くてリーンくんがちょい垂れ気味で正反対だが他の部分。

 耳や鼻の形なんかはそっくりだ。

 性格の影響が出そうな部位と性別による差異が出難い場所以外は、どうにもダブる。


「(得物も同じだし)」


 リーンくんも日本刀っぽいものを腰に差している。

 柄から刀身まで純白で染め上げられた、スカー・ハートとは正反対の聖性を感じさせる佇まいだ。

 レオン・ハートやスカー・ハートのようなアーティファクトではないものの、中々の業物である。

 示し合わせた訳でもないのに似通ってしまう。


「(それはつまり、目には見えない繋がりが確かに存在してあると言う事で……)」


 リーンくんに教えてあげたらさぞや喜ぶだろう。

 最悪の状況でしか言葉を交わせなかったが、自分達は確かに繋がっているのだと。

 一方のシンちゃんは――どうするかな?

 少なくともリーンくんにとって喜ばしい事は何一つとして起きないのは想像に難くない。

 思えばあの子、まだ十代そこそこだってのに苦労してるよな。


「(ま、それはさておき……マリーちゃんに何の用なんだ?)」


 そもそも何故、リーンくんはマリーちゃんの名前を知っていたのか。

 彼女が冒険者を始めてからずっと見守って来たけれど、


「(別段、期待の超新星とかそう言う立ち位置でもねえしな)」


 今日はちょっとばかり冒険した依頼を受けたものの、これまでの稼業は実に地道で堅実。

 目的が目的だけに一山ぶち当てたいのだろうが、死んでしまっては元も子もないからな。

 煌めく才がある訳でもないから、慎重にと言うのは正しい判断だ。

 尚更興味をそそられた俺は彼らの会話に耳を傾けた。


『えっと、リーンさん……ですか』

『同い年ぐらいだし敬語は要らないよ。敬われるような立派な人間でもないしね』


 そう語る彼の顔に一瞬、走った苦みを俺は見逃さなかった。


「(恐ろしく速い自己嫌悪の発露と隠蔽、オレでなきゃ見逃しちゃうね)」


 団長の手刀を見逃さなかった人の気持ちになるですよ!


『じゃあ、リーンくん?』

『ああ、それで構わない』

『うん。リーンくんはどうして私の名前を知ってるの?』

『噂を聞いてね、少し聞きたい事があったから君を探していたんだが……日を改めた方が良さそうだ』


 ジャンヌちゃんとマレウスちゃん、置いてけぼりだな。

 いや、リーンくんが用あるのはマリーちゃんだけだからしゃーないと言えばしゃーないんだけど。


『え? 何で?』

『こんな事があった後だし、何より随分とお疲れみたいだからね。今日はもう宿に戻って休んだ方が良い』


 うっわ、紳士ィ!

 リーンくんはどうやらザインの豪放磊落な部分は受け継がなかったようだ。

 初対面で一発ヤらせてくれよとか言っちゃうデリカシーのなさだからな、アイツ。

 腐っていたのに加えて酔っていたとは言え俺は忘れちゃいねえぞ。


『助けて貰った事には感謝するけどそうはいかないわよ。お金も下ろしちゃったし』

『ですねえ……早いところ目的のブツを買って使ってしまわないと、宿に戻っても不安ですから』


 ここでようやっと二人も会話に加わって来る。

 ああ、そう言えばこの子達買い物に来てるんだったな。


「(気狂い野菜ねえ)」


 現物を見ていないからどうとも言えないが、名称や性質からしてケミカルな感じが凄いんだよな。

 何かヤバイ農薬とかヤバイ品種改良してんじゃねえかなって。


「(土壌汚染とかも心配だわ)」


 だが、救荒食としては最上の部類に入る代物だ。

 手に入った苗に問題がありそうならば、俺が弄って真っ当な代物に変えてあげよう。

 べ、別に覗きやってる申し訳なさとかそう言うんじゃないんだからね!


『と言う訳だから、ごめんね? 私達行かなきゃ……あ、でも私に話あるんだよね?

それなら宿の場所教えておくよ。今日頑張ったから明日はお休みにするつもりだしさ』

『是非そうさせてもらう――と言いたいけど、もう少し付き合うよ』


 おや?


『僕の用件は明日でも良いけど、流石にこのまま君達と別れてはいさよならと言うのもね。

さっきあんな事があったばかりだ。買い物が済んで表通りに出るまでは付き合うよ』


 またしても紳士ィ!

 何やねんこの子、めっちゃええ子に育っとるやないけ!

 十年前の時点でもかなり良い子だったけど、良い子のままスクスク成長しとるやないか!

 おいザイン、俺の子育てが上手く行ってねえ事へのあてつけか!?


『いや、それは流石に悪いよ。今助けてもらっただけでも十分なのに』

『気にしないで。僕がそうしたいってだけだからさ』


 俺が十五の時、何してたよ……?

 前世は確か……受験勉強そっちのけで学校サボって新作ゲーム買いに行ったり公園でラノベ読んだり……。

 今世では細か過ぎて伝わらない師匠のモノマネシリーズを師匠の前でやって殺されたり……やっべ、ただのアホガキじゃねえか……。


『でも……』

『それならこう考えれば良い。君から話を聞きたい僕としては少しでも心象を良くしておきたい。

そしてそれを抜きでも君達は見目麗しいお嬢さん方だ、仲良くなりたい――ま、男の情けない下心ってやつだね』


 クスクスと笑うリーンくんを見て思う。


「(何や!? 何やコイツ!? くっさい台詞を手足のように操りよる!!)」


 下心? んなもん皆無だよ!

 全方位どこから見ても優しさしか感じねえよ!

 正統派だよ! 正統派のイケメンだよ! パッケージ飾れるよ!


「(声も良いしさぁ……)」


 ゲームならこれ女性声優だな。

 まだ完全に声変わりしてないのか、元々そうなのか。

 女性のハスキーボイスって感じがな。容姿も男の子だって分かるけど女装とか凄く似合いそうだし。

 何だろ……あれだ、綺麗な薔薇には棘があるのさとか言いそう。すっごく言いそう。


「(ちょっと天! 二物も三物も与え過ぎじゃない?)」


 いや、両親を実の姉にぶち殺されたり実の姉に変態の奴隷になれば良いとか言われたりしてるしそうでもないか。

 ガープス的に言えば不利な特徴が多いから有利も多く取れてるって感じだろうね。

 嫌な具合に帳尻は合わせられている……のかな?


『フフ、あなた良い子ちゃんかと思ったら……存外、冗談なんかも言えるのね』

『おやおや、早速の家の子が。やり手ですね。リーンさん』


 女の子達の好感度が上がる音が聞こえるようですねえ。


『マレウスが欲しかったら私とジャンヌを倒す事だね!』

『万全の状態でやっても二秒で瞬殺されそうですけど』

『馬鹿言ってないでさっさと用事済ませるわよ。付き合ってくれるんでしょ? 王子様』

『王子様ではないけれど、喜んで』


 何だろ、前世も今世もロクな青春送ってねえ俺的にすっごく胸が痛い。

 こう言うボーイミーツガールをリアルで見せ付けられると心臓が締め付けられる……。


『ところでさ、リーンくんって私らと同い年ぐらいなのにすっごく強いよね』


 リーンくんを加え歩き始めた三人娘達。

 道中で、マリーちゃんがそう切り出すもリーンくんの表情は優れない。


『……いや、まだまださ』


 師匠と比べてって――感じではないな。

 彼の目に映っているのは、今も昔もシンちゃんだけ。

 十年前に遠目で見る事しか出来なかったあの子の姿を思い出しているのだろう。


「(確かに分が悪いわな)」


 酷な評価かもしれないが、今のリーンくんは強い。

 確かに強いがそれでも常識の範疇。十年前のシンちゃんにすら及ばない。

 現在の彼女に至っては……語るも憚られる程の差がある。

 普段は枷を嵌めていて、その状態でスカー・ハートを差し引いたとしても正直厳しいと言わざるを得ない。


『僕程度じゃ、刃も想いも届ける事は出来ない』


 シンちゃんと語らいたいのならば力は必要不可欠だろう。

 それがリーンくんならば尚更だ。

 相対し、正体を悟った瞬間に殺しにかかりそうだもの。

 殺されないように凌ぎ続けながら会話をする以外に方法はないと思う。


『あなたも、色々大変なのね』

『楽に生きている人の方が少ないと思うよ』

『ご尤もですね』

『ところで、気になっていたのだけど……ジーバスってあのジーバス?』

『何? マレウス、リーンくんの事知ってたの?』

『初対面よ。ただ、名前にちょっと心当たりが――って言うかアンタらは何も気付かないの?』

『『?』』


 はてな顔の二人に大きな溜め息を吐きながらもマレウスちゃんは説明を始めた。

 マリーちゃんを見守る傍ら、マレウスちゃんの事も見てたけどさ。この子、ツンデレだよね。胸が温かくなりますわ。


『ジーバスと聞けば真っ先に思い浮かぶでしょう。ザイン・ジーバスの名前がね』


 何? あのオッサン、ティーンの間にも名が知れ渡ってんの?


『誰それ?』

『歌ですか?』

『アンタ達は……! 特にジャンヌ、この流れで何で歌の名前を口にするのよ!? 脈絡がないでしょ!!』

『どうどう、落ち着いてください。ほら、どうぞドヤ顔で説明してくださいな』


 敬語ですっとぼけた事言う子、俺、結構好きかもしれない。


『うぎぎ……! ま、まあ良いわ。ザイン・ジーバス、世界に三人しか居ない勇者の一人よ』

『勇者、魔王とか倒したの?』

『魔王なんてお伽噺の中だけの存在に決まってるでしょ。勇者と言っても彼らは別に誰かを倒した訳じゃないわ』


 まあ、俺が魔王ロールをしていたら殺されてやっても良かったんだけどな。

 魔王ってキャラクターは倒されるまでが大事だし。

 俺は純粋な悪役ロールも嫌いじゃない。

 惜しむらくは誰がどうやっても俺を殺してくれる位階にまで達せない事だが。


『じゃあ何をしたの?』

『…………アンタを助けてくれた魔女に輝きを示し、手を引かせる事に成功したのよ』


 ん? 何で複雑そうな顔したんだこの子?


『その偉大な功績を讃え、各国がザイン・ジーバスを含む三人に勇者の号を送ったのよ。

他二人は、以降はあんまり派手な動きは見せていないけどザイン・ジーバスは別。

各地でその武勇を示す逸話を残し続けている。奈落島での決闘なんかが特に有名ね』


 何それ? 奈落島での決闘って何?


『ふぅん、そうなんだ』

『反応が薄い! っとに……で、どうなの?』


 畜生! 説明してくれなかった! 奈落島での決闘について説明してくれなかった!

 これはググレカスって事なのか!? グーグル先生いねえよ!

 先生が存在してても、ツンデレ美少女に説明される方が嬉しいよ!


『ああ、ザイン・ジーバスは僕の師であり義父さ。でも、よく師匠と僕を関連付けたね』


 確かに普通なら偶然の一致で済ませるだろう。

 師匠とか義父とか説明されたとしても胡散臭く思うのが自然な気がする。


『あなたが正確にどれ程の力を持っているかはまるで分からないけど。それでも、普通じゃない事ぐらいは分かるわ』


 そんな普通じゃない奴の縁者が普通のはずはないって事か。

 成る程、一々尤もだ。

 比較対象がシンちゃんだからつい低く見てしまいがちだが、リーンくんはこの年齢では破格の強さだからな。


『リーンくんって凄いんだね』

『凄いのは僕じゃなくて師匠さ』


 謙虚だなー、憧れちゃうなー。


『そのザインさんと言う人はどのような御方なんですか?』

『豪快な性格で、でも僕の知る誰よりも努力家で……とても優しい人さ』


 ザインを語るリーンくんの顔は誇らしげだ。

 無論、何もザインの事を全肯定している訳ではない。

 十年も寝食を共にしていれば駄目な部分も両手では足りないぐらいに知っているだろう。

 だが、ザインの良さはそんな瑣末な事とは関係のないところにある事も知っている。

 だからこそ真っ直ぐな好意と敬意を向けるのだろう。


『私達にとっての院長先生みたいな人なんだね』

『院長先生?』

『ふふふー、リーンくんのお父さんを自慢されたんだから今度は私達のお父さんを自慢したげる!』


 眩しい……若さが、純真が、眩しい……。


 ババアの薄汚れた心にはかなりクるものがあったけれど我慢。

 彼らが買い物を済ませ、宿の前で別れたのを見届け俺は一旦覗きを中断した。

 自室を出てリビングに行くとポチがソファーに寝転がって読書をしている姿が目に飛び込んで来た。


「あ、マスター! ただいま!!」

「ああ……依頼とやらは終わったのか?」

「まあね。今回は竜が相手だったよ。まったく、最近の竜は根性のない奴ばかりなのかな? やれやれ……嘆かわしい事だよ」


 同族ぶち殺した揚句駄目出したぁ、ポチさん辛辣っすね。

 しかし、見た目はこんなだけどポチって竜の中では古株なんだよな。

 一歩間違えれば老害臭い感じになりそうだが……まあ竜とか俺には関係ないし別に良いか。


「ところで、貴様だけか?」

「うん。シンの奴はご飯食べたらどっか行っちゃった。試し切りにでも行ったんじゃない?」

「そうか」


 何かを期待するような目で俺を見上げるポチ。

 常々スカー・ハートを羨ましがってたからな、コイツ。

 武器そのものより、俺から何かを貰ったって意味で。

 けど、ポチの場合はアーティファクトなんぞ要らねえだろ。


「(それより飯だ飯。それと特別苦いコーヒーも飲みたい)」

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